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交響曲第7番



 この曲をひとことで言い表すと、「荘厳」。

 これだけで感想を終わりたいくらいだけれど、それではいくらなんでも簡単すぎて不親切とのそしりを免れないので、もう少し書くことにしたい。

 静かに始まって少しずつゆっくりと盛り上がっていき、5分ほど経過したところで、至福のときが訪れる。トロンボーンが伸びやかな旋律を奏でるのだ。素晴らしい・・・。心が洗われるようだ。私は中学生と高校生のとき、吹奏楽部でトロンボーンを吹いていた。トロンボーンは吹奏楽では存分に活躍するが、オーケストラでは残念ながら休んでいる時間が長い。そんなトロンボーンに重要な役割を与えてくれたシベリウスに深く感謝したい。

 この曲を聴いて心に浮かぶ情景は、大きな羽を広げて大空を滑るように飛ぶ鳥から見た大平原である。真っ白な雪で覆われた大地。さもなくば、どこまでも続く緑の大平原。雄大な景色が眼下に果てしなく広がっている。ただし、そこに人間の姿は見えない。まだ地球上に人類は登場していない。そんな大昔、地上に鳴り響いている曲があるとしたら、この曲、シベリウスの交響曲第7番が最もふさわしい。人類が登場する前なのにどうして交響曲が聞こえてくるのか? そんな細かいことを気にしてはいけない。

 私が知っている交響曲の中では、最も好きな曲である。もしもあなたがシベリウスを知らなくて、これからシベリウスを聴いてみようと思ったなら、第7番を聴くことをお勧めする。最初はとっつきにくいかもしれないけれど、何度聴いても第7番が気に入らないようだったら、シベリウスの他の交響曲を聴くのは時間の無駄だろうと思う。



パーヴォ・ベルグルンド指揮  ボーンマス響

 穏やかでゆったりとした演奏である。特に曲の始まりからトロンボーンの主題が終わるまでの約6分間はゆったりとしている。情感も豊かであり、蕩々たる音の流れに身を任せたくなる。この曲の特徴である壮大な雰囲気を感じることができる。この曲にふさわしい演奏だと思う。そして迎えるトロンボーンの主題も悠々たるものであり、素晴らしい。もう少し目立っても良かったかもしれないが・・・。
 細かいことではいろいろと難がある演奏なのかもしれないが、素朴な味わいがあって、私は好きである。


パーヴォ・ベルグルンド指揮  ヘルシンキ・フィル

 ベルグルンドがボーンマス響の後に録音したもので、基本的には同じ路線の演奏。ただ、ボーンマス響よりもいくぶんテンポが速めである。全体的に丁寧な演奏なのだが、反面、力強さが不足しているようにも感じる。聴いている者は勝手だと、つくづく思ってしまう。これも素晴らしい演奏なのに・・・。


パーヴォ・ベルグルンド指揮  ヨーロッパ室内管

 他の演奏に比べて弦楽器の人数が少ない編成のオーケストラのせいか、各パートがきちんと分かれて聞こえる。すっきりしていて気持ちがいい。ベルグルンドの3回の録音の中では最も新しいということもあり、洗練された演奏に仕上がっている。無駄が排除され、研ぎ澄まされた感がある。端正な演奏と言ってもよい。これがベルグルンドの到達点なのだろうと思う。
 惜しむらくは、トロンボーンの音が少し硬いこと。もっときれいな音だったらさらによかった。


パーヴォ・ベルグルンド指揮  ロンドン・フィル(2003年)

 何度もこの曲を指揮しているベルグルンドらしく、悠々たる演奏が最初から最後まで繰り広げられる。ただし、トロンボーンのソロは、可もなく不可もなしであり、少々物足りなさが残る。途中、もう少し軽快に演奏してほしいと思う場所もないわけではない。最後の終わり方はさすがであり、ゆったりと、そして長めに音が続いて終わるので、満足感を味わうことができる。
 第3トラックの5分後に、はっきりとした人の声が聞こえる。おそらくは指揮者のベルグルンドの声だろうと思う。ベルグルンドの力の入りようが伝わってくる。
 ライブ録音であり、雑音はあまり聞こえないものの、2003年と新しい割には録音があまり良くない。最後の音が長めに演奏されるが、その音が完全に消えてから拍手が始まるところは好感が持てる。


オスモ・ヴァンスカ指揮  ラハティ響

 演奏時間が23分と長く、遅いテンポである。曲の前半はとてもゆったりとしていて、音量が抑えられているから、フィンランドの冬の静けさを感じるような演奏である。トロンボーンの主題も、平穏な流れの中での比較的抑制された盛り上がりになっている。ただし、平穏すぎて起伏が感じられず、力強さが足りないようにも感じる。
 演奏が進むにつれてだんだんと熱を帯びてくるので、前半部分をちょうど良い音量で聴こうとしてWalkmanのボリュームを上げると、後半での大きすぎる音に困惑することになる。コンサートホールで生で聴くべき演奏なのかもしれない。


ペトリ・サカリ指揮  アイスランド響

 比較的ゆっくりとしたテンポで、繊細かつ美しい演奏になっている。シベリウスの特徴の一面が出ている。その反面、全体的に力強さが不足しているようにも感じる。バイオリンの高音域のビブラートが強いせいか、感傷的に聞こえ、他の演奏とは印象が違う。残念ながら、この曲が持っている壮大さが薄れているのではないだろうか。
 このような演奏スタイルは、交響曲第7番ではなく、第6番でこそ真価を発揮する。第6番を聴くと、もともと美しい曲であるこの曲が清らかさを増して、最善の演奏になっていると思う。私にとってペトリ・サカリとアイスランド響の組み合わせは、シベリウスの交響曲第6番のためにあるといっても良いくらいである。第6番をお勧めしたい。 


ユッカ・ペッカ・サラステ指揮  フィンランド放送響

 演奏時間が20分を切っていて、テンポが速い。もう少しじっくりと聴かせてほしいと思う。テンポが速いせいで中だるみすることなくどんどん進んでいくから、終曲部分になって速度が急に落ちると、とてもゆったりと終わるように感じる。こういう演奏もあるのかと思う。
 肝心のトロンボーンの主題は音量が弱く、あまり目立たないのが残念なところ。


マゼール指揮 ウィーンフィル

 躍動感のある演奏である。出だし部分は少し速めだが、その後は遅からず速からず、ちょうどよいテンポ。コントラバスの豊かな低音が気持ちよい。トロンボーンの主題も明瞭である。熱のこもった演奏になっているわりには美しさが保たれているところ、聴いていて身体が揺れそうになるところなど、さすがはウィーンフィルだと思う。他の演奏とはひと味違うシベリウスの7番を聴くことができる。
 ただし、終盤はほんの少し頑張りすぎているようにも感じる。トロンボーンも音が硬くなっている。もう少し抑えぎみの方が私好みである。ウィーン・フィルのオーボエの音色が変わっているところが、私にはちょっと気になる。


マゼール指揮 ピッツバーグ響

 驚くなかれ、演奏時間が26分もかかっている。それだけテンポが遅いのだ。実にゆっくりと曲が進んでいく。どれだけ遅く演奏することができるか、マゼールが限界に挑戦したかのような演奏である。
 こんなに遅いと普通なら間延びして退屈になってしまいそうなものだが、この演奏は最後までしっかりと聴くことができる。ゆったりとしていて雄大であり、こういう7番もいいと思う。
 ただ、これだけ遅いと管楽器奏者にとっては息を続けるのがたいへんなので、とてもつらかったのではないだろうか。トロンボーンの主題は立派に吹かれていて感心するのだが、トロンボーンが目立つようにそのほかの楽器の音量が抑えられている。その結果として、この重要な部分の盛り上がりが不足している。その点がほんのちょっとだけ残念である。


渡辺暁雄指揮 日本フィル

 渡辺暁雄が指揮する日本フィルのシベリウスの交響曲の中では、3番が最も気に入った。とかく地味になりがちな3番が、溌剌としていて、明るく爽やかな演奏になっている。そして6番も、ハープが効果的に使われていて、美しい。
 あぁ・・それなのに・・・。私にとって最も大事な7番は、なにかが足りないように感じて欲求不満が残ってしまう。他の素晴らしい演奏と比較してしまうからなのだろうか? 無難にまとまっているものの、あまり特徴が感じられない。曲の冒頭から数分間はゆったりとしていて良いのだが、トロンボーンの主題はビブラートが強すぎて、違和感がある。もっと大らかに、ストレートに吹いてほしかった。残念でならない。ここでひっかかったために、そこから先の演奏に気持ちが入り込めなかったのかもしれない。 


ブロムシュテット指揮 サンフランシスコ響

 ブロムシュテットが指揮するサンフランシスコ響の演奏は、シベリウスの交響曲の全集を通じて、明るさと重厚さを兼ね備えている。安定感のある低音部を基礎として多層の建物がしっかりと築かれているような印象を受ける。そして、奇を衒(てら)うことのない堅実な演奏を聴かせてくれる。7番も例外ではない。前半はゆったりとした中にも盛り上がりは十分。中盤ではほどよく軽快な部分を織りまぜる。
 とても丁寧な演奏のせいか暖かさを感じるのだが、この曲にフィンランドの冬を思わせるような厳しさも期待してしまう私にとって、その点は残念ながらマイナスである。トロンボーンの音にもう少し豊かさがほしいこと、ところどころ弦楽器の高音部のビブラートが強すぎることも惜しいと思う。


レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィル

 ティンパニが目立ちすぎて雑に聞こえる。音量が大きすぎる部分がある。と、最初に気になる点を書いてしまったが、それにもかかわらず、私はこの演奏が好きだ。
 細かなことにとらわれないおおらかな演奏である。それぞれの演奏者が自由にのびのびと演奏しているようだが、全体として程良くまとまっている(ただしティンパニを除いては・・・。)。全曲を通じて大きなうねりと前に進む力が感じられ、実に雄大である。聴いていると、暗雲たちこめる中を悠然と飛んでいく大きな鳥の姿が思い浮かぶようだ。黒い雲のすきまから明るい光も見えている。
 これでティンパニが控えめかつ丁寧で、そしてトロンボーンの音がもう少し柔らかくて超然としていたら、どんなによかっただろうか・・・。


カラヤン指揮 ベルリン・フィル

 艶やかな弦楽器。よく鳴る管楽器。トロンボーンの主題は朗々としていて気持ちが良い。これ以上は望めないくらい、見事に、そして完璧に吹ききっている。トロンボーンの経験のある私にとっては神にも匹敵するレベルであり、ほかにどんな形容詞を用いればよいのかわからないくらいだ。ただただ絶賛するのみである。第5番を聴いたときも感じたが、ベルリン・フィルの金管は本当に素晴らしい(他のパートももちろん十分に素晴らしい)。
 細かいところまでカラヤンの目(耳)が行き届いていて、全体的に緊張感のある張りつめた演奏となっている。気軽に聴こうとするのは無理であり、精神を集中して聴かなければならない。聴き終わると充実感が残るが、疲れも感じることとなる。
 この曲は大きな鳥が大空を悠々と飛び去って行くように終わる。この演奏は最後まで力を抜かないから、まるで勢いよく宇宙空間に飛び出していくかのようである。それもまた魅力のひとつなのだろう。 


バーンスタイン指揮 ウィーンフィル

 とても美しく、優雅な演奏。演奏時間が24分50秒と、とても長い。手持ちのCDの中では、マゼール指揮ピッツバーグ響の次に長い。全体的にゆっくりと柔らかに進み、あくせくしたところがない。それはそれでよいのだが、表情が豊すぎるところもあり、こってり感が強い。寒さよりも暖かさを感じるような演奏であり、緊張感や北欧の自然の厳しさのようなものはあまり感じられない。もう少しさらっとした演奏の方が私の好みである。 


コリン・デイヴィス指揮 ロンドン響

 コリン・デイヴィスは何度かこの曲を録音しているが、これは2003年のもので、ライブ録音。全体的に音が十分に鳴っており、ティンパニの音にも迫力がある。力強く重厚な演奏である。前半部分はゆったりとした中で盛り上がりも十分。中間くらいに速く軽快な部分があり、メリハリが感じられる。何をやりたいのかが明瞭だから、聴いていてストレスを感じない。気持ちの良い演奏である。
 終曲では弦楽器だけでなく金管の音も最後まで力強くはっきりと聞こえるのが珍しいが、これは私の好みではない。それから、金管の音が硬いと感じるところがある。トランペットやトロンボーンはもともとそういう楽器だからしょうがないが、せめてホルンはもっと柔らかな音を出してほしかった。


サカリ・オラモ指揮 バーミンガム市響

 「ペトリ・サカリだけがサカリではない。俺もサカリだ!」と言わんばかりのサカリ・オラモであるが、シベリウスの交響曲第7番に関しては、ペトリ・サカリに肉薄しながらもわずかに及ばないように思う。
 すっきりとした音であり、一つ一つの音をあまり引きずらずにさっぱりとした仕上がりである。それにもかかわらず盛り上がるべきところはそれなりに盛り上げてくれる。
 演奏時間が21分26秒だからさほど短いわけではなく標準的な範囲に入るはずなのだが、実際の演奏時間よりも速く感じ、中盤は軽快ではあるが急ぎすぎのような気がする。そのせいか、重みがあまり感じられず、やや軽い印象を受ける。


エイドリアン・リーパー指揮 スロヴァキア・フィル

 演奏時間が20分25秒と、比較的短い。立ち止まることなく、すいすいと進んでいく。もう少しじっくりと聴かせてもらいたいと思う部分がないわけではない。
 決して力みすぎることなく、響きが硬くならないのは好感が持てる。真っ白な雪に覆われた風景が思い浮かんでくるようであり、爽やかである。その反面、逞しさや雄大さを十分に感じることができず、物足りなさが残ってしまう。


サイモン・ラトル指揮 バーミンガム市響

 実にゆっくりと、じわじわっと曲が始まる。なかなかよい雰囲気を漂わせていて、その後の展開に期待を持たせる。そして、美しく流れるような演奏が続く。
 しかし、残念ながら盛り上がりがいまひとつ足りない。丁寧な演奏なのだが、全体的に平板に感じてしまう。川に喩えれば、山から流れ出した清らかな水が淀むことなく流れているのだが、大河に成長しないままに海に到達してしまうような、そんな印象を受ける。


ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィル(1965年)

 曲の始まりの部分は速すぎるくらいで、せかせかしていて落ち着かない。そのうちすぐに少しゆっくりとなり、この曲らしい雄大な雰囲気を感じることができるようになる。
 4分40秒くらいのところで早くも登場するトロンボーンは、音量が大きくて立派だが、ビブラートが強すぎるように思う。ビブラートが強いと、人為的というか作為的なものを感じてしまい、北欧の自然の荘厳さといった雰囲気が不十分になってしまう。
 金管がとても力強く鳴らすところは、この曲の他の演奏ではなかなか聴けない。私にとっては、ちょっとやりすぎの感がある。終曲部も、ホルンの音が大きく聞こえる。
 張りつめた緊張感とメリハリのある演奏なので、この曲に厳しさと迫力を求める人にとっては、なかなかよいかもしれない。ただ、ライブ録音であり、雑音や聴衆の咳が聞こえてしまうのが難点。

 

トーマス・ビーチャム指揮 ヘルシンキ・フィル

 1954年の古い演奏なので、残念ながら録音状態は良いとはいえない。演奏時間は19分23秒と短い。出だしからぐんぐんと進んでいく。この時代はこのような速い演奏が普通だったのだろうか?
 速いばかりではなく、歌うべきところはそれなりに歌っている。そのせいでテンポが大きくゆらぐので、意外な展開に目(耳?)が離せない。ファゴットの音が聞こえるべきところでフルートの音の陰に隠れてあまり聞こえないので、「あれ?」と思うことも・・・。独特の演奏であり、おもしろく感じた。


アシュケナージ指揮 ロイヤル・ストックホルム・フィル

 美しい演奏であるが、こぢんまりとまとまっている感があり、「荘厳」な印象を期待して聴くと裏切られることになる。前半部分はテンポが速くてすいすい進み、気持ちがついていけない。トロンボーンは一貫して無表情を決め込んでいるかのようであり、印象が薄くて共感できない。残念ながら、私の好みの演奏ではない。Walkmanから削除してしまった。二度と聴くことはないだろう。
 同じCDに録音されている組曲「カレリア」は、魅力的な作品に仕上がっている。アシュケナージを聴くならば、第7番のような骨太の曲ではなく、軽くてきれいな曲が良いのではないだろうか