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バッハ


バッハの無伴奏チェロ組曲

 バッハが作曲した無伴奏チェロ組曲は、題名のとおり伴奏なしで1本のチェロで演奏する曲です。第1番から第6番まであり、それぞれが6つの曲から構成される組曲です。1番から6番まで全て演奏しても、普通はCD2枚に入る長さです。チェロの独奏曲として有名で、多くのチェロ奏者が録音しています。私が持っているCDは、買った順に次の4種類。同じ奏者が2回以上録音している場合がありますので、録音された時期も書いておきます。

ヨーヨー・マ (1982年録音)
ヤーノシュ・シュタルケル (1992年録音)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ (1992年録音)
ポール・トルトゥリエ (1983年録音)

 これらはどれも一流の演奏家によるもので、素晴らしい演奏です。私には甲乙や優劣をつけることはできません。それぞれの良さがあります。同じ曲でも奏者によって印象がずいぶんと異なりますので、聴いてみての感想を書くこととします。

 



ヨーヨー・マ

 1982年、ヨーヨー・マが26歳のときの録音。私が持っている他の三人のCDがいずれも60歳代になってからの録音であり、既に巨匠としての地位を確立した後の演奏であったのに対し、このときのヨーヨー・マはとても若い。恐れを知らない若者らしく、自由にのびのびと弾いている。明るく、そして爽やかな演奏である。どんなに難しそうなところでも聴く人に難しさを感じさせず、すいすいと流れるように弾いていく。それでいてゆっくりと演奏するところでは十分に歌っている。
 今から20年以上前、私が初めて買ったバッハの無伴奏チェロのCDが、このヨーヨー・マだった。それからしばらくの間、ヨーヨー・マ以外の無伴奏チェロを聴いたことがなく、無伴奏チェロと言えばヨーヨー・マの演奏しか知らなかった。
 今から20年以上前には家にパソコンもワープロもなかったから、年賀状の宛名書きは手書きだった。宛名書きをしていた部屋には、ヨーヨー・マの無伴奏チェロが流れていた。当時は湘南海岸に近いところに住んでいて、ベランダからは広い海が見えた。このCDを聴くたびに、そんなことを思い出す。あの頃、子供が生まれたばかりで、私も若かった。


ヤーノシュ・シュタルケル

 1992年、シュタルケルが67歳のときの録音。ヨーヨー・マの次に買った無伴奏チェロがシュタルケルのCDである。
 聴いてみて、同じ曲なのにヨーヨー・マと大きく違っていることに驚いた。チェロの太くて重い音に、まず驚かされる。ひとつひとつの音をしっかりと、ゴリゴリと弾いていると言ってもいいくらいだ。最初は武骨な印象を受けなくもないが、よく聴くと力強いながらも丁寧な演奏であり、じわじわと良さがわかってくる。
 バッハの無伴奏チェロはこう弾かなくてはならないのだというように、シュタルケルが信念を持って弾いているような、そんな気がする。シュタルケルの強い思いが伝わってくる。


ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ

 1992年、ロストロポーヴィチが64歳のときの録音。シュタルケルの無伴奏チェロがヨーヨー・マと大きく違っていることがわかり、それではロストロポーヴィチはどうなのだろうと思い、CDを買ってみた。
 64歳という年齢の割には若々しい演奏である。ヨーヨー・マの若さには及ばないにしても、壮年くらいかと思うような、そんな印象である。演奏には余裕が感じられ、朗々と歌い上げるところなどではスケールの大きさを感じる。ロストロポーヴィチの自信にあふれた演奏だと思う。
 ロストロポーヴィチのCDは、ほかにブラームスのチェロソナタを持っていた(ピアノはルドルフ・ゼルキン)。チェロの重々しくて暗く沈んでいくような音が記憶に残っていたので、バッハの無伴奏チェロもそうなのだろうと予想していたのだが、こちらはもっと明るく感じる。聞き比べてみると音質が大きく変わっているようには思えないので、曲と演奏スタイルによるものなのだろう。


ポール・トルトゥリエ 

 1983年、トルトゥリエが69歳のときの録音。艶やかでもあり、渋くもある音色が印象的。じっくりと聴かせる演奏であり、優雅さの中に枯れた味わいも感じることができる。秋の夜長に一人でしんみりと聴くような場合にお勧めしたい。
 シュタルケル、ロストロポーヴィチ、トルトゥリエの3人とも60歳代の録音であり、とりわけトルトゥリエは70歳も目前である。しかし、どれもしっかりとした演奏であり、そんな年齢を感じさせないことに驚く。