弦楽四重奏曲第7番(ラズモフスキー1番)
6番までの初期の弦楽四重奏曲は、完成度は高いと思うが、モーツァルトやハイドンの影響を受けて華やかに仕上げなければならないという枠を自らにはめているように感じる。ベートーヴェンにしか書けない曲という印象はあまりない。
しかし、7番を聴くと、ベートーヴェンは弦楽四重奏曲で自分が何をやるべきかを定めて、自信を持って自分のやりたいように自由に作曲したように思われる。この曲はスケールが大きい。まるでオーケストラが演奏する交響曲を聴いているようだ・・・と書くと大げさだと思われるかもしれない。その通りであって、弦楽器4本がオーケストラに匹敵するわけがないから、いくらなんでも大げさなのだが、そんなふうに感じてもおかしくないくらいなのだ。
私が特に好きな部分は、第1楽章冒頭のチェロの旋律と、それがバイオリンに受け継がれて発展していくところ。この曲がどんどんと広がっていくようで、スケールの大きさが予感される。第3楽章も素晴らしい。ゆったりとした美しいメロディーと弦楽器のハーモニーに耳を傾けたい。第3楽章から第4楽章に切れ目なくつながるところは、巧妙にして精緻である。バイオリンがぴりぴりするくらいの緊張感を持って第4楽章につなげる。そして第4楽章に入ると勇躍チェロが登場し、第3楽章までとは全く違う世界に連れて行ってくれる。ドアを開けたら違う景色が広がっていたというような感覚。ただし、ここでチェロの意気込みが強すぎてはいけない。さりげなさも大事だと思う。この曲はチェロが重要な役割を担っているので、演奏が気に入るかどうかはチェロが鍵を握っている。
7番とその後に続く11番までの中期の5曲により、ベートーヴェンは弦楽四重奏というジャンルにおいて全く新しい世界を切り開いたと言ってもよいと思う。