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交響曲第3番「英雄」第4楽章 − 天国への階段



 クラシック音楽を聴いていると、頭の中でいろいろな想像が浮かぶことがあります。何度も聴いているうちに、その勝手な想像がつながって一つの物語のようになっていくことがあります。作曲者の考えとは全く違っているかもしれませんが、そんな聴き方も面白いものです。
 というわけで、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の第4楽章です。この曲は、ベートーヴェンがナポレオン・ボナパルトに献呈するつもりで書いたのですが、ナポレオンが皇帝に即位してしまったことに失望し、スコアの表紙の献呈名を消してしまったという話が伝わっていますね。第4楽章を聴きながら私が想像したことを書いてみることにします。



 最終章である第4楽章は、とても賑やかに始まるのですが、すぐに静かになり、ポツン、ポツンと少ない音符での演奏が続きます。ここでは主人公である英雄がとまどっているように感じます。おそらく、英雄が第2楽章の「葬送行進曲」で篤く葬られた直後の状況を表しているのです。ここはどこなのか、どうして自分はこんな状況にあるのか、そんなことも最初は理解できずに、状況を把握するまでに少し時間が必要だったのでしょう。
 ほどなくして第4楽章の主題が登場します。この主題が様々に展開されるのが第4楽章の聴きどころなのです。そして、その展開が物語の展開とも結びつくのです。
 主題のメロディは次のとおりです。ベートーヴェン作曲のバレエ音楽「プロメテウスの創造物」のフィナーレでも使われています。





 この主題が最初に演奏されるとき、私には何者かが英雄に優しく語りかけているように聴こえるのです。そしてその何者かは、天上の世界から英雄を天国に誘っているのです。そのためにはこの主題のように美しく優しいメロディでなくてはなりません。次に英雄は、天国とはどういうところなのか、なぜ自分はそこに行かなくてはならないのか、どうやって行けばいいのかを質問します。それに対して何者かがいろいろと説明します。しばらくの間、英雄と何者かとの会話が続き、すぐには理解できない英雄の口調がときには激しくもなります。

 この楽章の約半分が過ぎたころ、雰囲気ががらりと変わります。スピードダウンしてとても静かになり、オーボエがゆったりと演奏します。ここで英雄がはっきりと悟ったのです。自分は確かに死んでしまったこと、天国に行くしかないことを悟ったのです。あらゆることが腑に落ちた英雄は、精神的な落ち着きを取り戻しました。




 次に、ホルンが勇壮に演奏します。ここで英雄は天国に行く決意を固め、雄々しく立ち上がりました。全身に力が漲ってくるのを感じます。ここから終曲まで、英雄は後ろを振り返ることはありません。後戻りなしの一直線です。





 ホルンの強奏の後、英雄が天国への階段を昇ります。オーボエの次のメロディは、階段(又は梯子)を昇っているように聴こえます。一度そう思うと、次に聴くときは階段を昇っているようにしか聴こえなくなるのが不思議です。(ここもゆっくりなので、楽譜では十六分音符ですが、楽譜を見ていなければ八分音符のように聴こえます。)



 その後、また静かになります。階段を昇ったあと、暗くて狭い道を手探りしながら進んでいるのです。ずうっと向こうにポツンと明かりが見えるので、その方向にゆっくりと歩いていきます。

 すると、急に前方が開け、大音量とともに眩しい光が英雄を包み込みます。ついに明るい光の世界である天国に到着し、曲はフィナーレとなります。

 と、私はこんなふうに第4楽章を聴いて想像するのですが、そうすると、ベートーヴェンとしてはせっかくナポレオンのために素晴らしい天国を用意したにもかかわらずナポレオンに裏切られてしまった、そのとても残念な思いもまたよく理解できるように思うのです。