問題に直面しているのは、四十億年の歴史を持つ地球ではなく、たかだか二百年間の経済的・社会的実験のいくつかにすぎません。問われているのは、「私たちは生物圏をコントロールできるかどうか?」ではありません。 − そんなことはできません。 問われているのは、「私たちは自分たちをコントロールできるか?」ということなのです。人間の数や貪欲さ、傲慢や浪費をコントロールできるのか、そして、地球が私たちの存続をこれからも認めてくれるよう、地球と共存できる考え方による新しい世界を生み出すことができるかどうか? なのです。 |
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「地球にやさしい」といういい回しを、マスコミをはじめ、皆がじつに気軽に多用するのが気になってしょうがない。我々が社会をつくり、その生活の振る舞いのなかで、地球に対してやさしいなどという行為が、そう簡単に存在すると思っているのだろうか。
人間圏は、地球システムから物質やエネルギーの流れを横取りすることで拡大を続け、世界人口の持続的増加に見るように、その膨張の勢いを抑制しようとはしてこなかった。その結果として食糧問題、環境問題、資源エネルギー問題、人口問題などが起きているのだから、人間圏そのものが地球システムにとっての問題児ということになる。 しかも、人間圏にとって地球システムは不可欠な存在だが、地球システムから見ると人間圏は必ずしも必要ではない。 このような一方的な関係であるにもかかわらず、好きなだけ横取りしている確信犯ともいうべき人間圏のほうが、基本的な態度を改めもせずに「地球にやさしく」と呼びかけること自体、大いなる誤解であり傲慢というべきである。 |
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自然は大事だ、なぜなら自然は次のような役割を果たしているからだ、というような説明をよく私たちはおこなう。しかし本当はそれで十分な説明ができたと思っていない。自然はその価値を説明しきれないほどの大きさ、深さを持っているからこそ貴重だと、私たちは内心感じているのであるから。
人間の生に関することや、自然に関すること、つまりベルクソン流に述べれば自然と人間の生命にかかわることがらは、科学的に論証することはできない(ベルクソンは生命をもとらえうる新しい自然科学を模索しているのだが)のではないかと、いま私たちは感じはじめたのである。 |
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人間の性欲、食欲、物欲、“手抜き欲”は、すべてが「いいこと」になっている。つまり、僕らの世代は欲望を顕わにするのは「いけないこと」だと教わっていたのが、いまや金を儲けてそうした欲望を満喫できる人間こそが偉いやつだというような時代になってしまった。これだけ多くの人間が欲望を解放してしまったら、資源や環境や空間が無限に供給されない限り成立しないわけです。地球はいうまでもなく有限ですから、さまざまな問題を引き起こすことになる。 |
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まず虚心坦懐に現実を見ればわかる通り、高度成長やバブル期を経たここ数十年のあいだに、日本人が伝統的な美意識を急速かつ徹底的に失っているわけではない。「文化騒音」になんともない平均的日本人でも、梅の咲くのを喜び、桜の開花予想に心をときめかせ、浴衣がけの婦人をあだっぽく思い、ハッピを着けたお兄さんをいなせだと感じる。晩夏の虫の音にしみじみした感じを抱き、「夕焼けこやけの赤トンボ」に郷愁を覚える。すなわち、「観念としての自然」に対するわれわれの感受性はほとんど変わっていないのである。 日本人の「からだ」はこうした「観念の自然」を愛でつつ、現実の自然を破壊し尽くすことに矛盾を感じない。「観念としての自然」は、いわばわれわれのウチにあるものであるから、それはいかなる現実の自然の荒廃によっても傷つけられないのである。猥雑の極致である商店街の道端に咲いた一輪のタンポポや電柱に止まる一匹の赤とんぼに「春」や「秋」を感じることができる。団地の窓辺に小型鯉のぼりを吊るし・・・・・・どこまでも続く灰色のコンクリートの同じ形の建物群のただ中にいて、これだけで観念としての「季節感」は保たれるのである。 日本人の「からだ」はきわめて象徴的に外界の光景をとらえる。日本画に描かれている日本は現実の日本ではない。それは、象徴的な日本・観念的な日本、つまりあるべき日本である。われわれの目や耳は、外界からみずからが携えている観念を「読みとろう」とする傾向が強い。受容的であるように見えてそうではなく、能動的に自然に定型的な意味を付与する傾向が強い。だから、電柱・電線や原色の看板でびっしり埋め尽くされた猥雑な日本の街を熟知しているはずの人々が、折に触れて「日本人は簡素を求める。『無』の重要さを知っている。」と語って矛盾を感じないのである。 |
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中島義道 「うるさい日本の私、それから」p148 洋泉社 |
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加藤則芳 「メインの森をめざして アパラチアン・トレイル3500キロを歩く」p85 平凡社
赤瀬川原平 「運命の遺伝子UNA」p216-217 新潮社 |
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