写真とクラシック音楽などなど・・・

思い出



 二人の男の子ももう今年は九つと十になった。積み木で遊ぶ時間は過ぎてしまった。一世代は本当に短いものである。時は小川の水のように流れる。川の底に残るのはただ幾つかの小石である。美しい小石、人はこれを思い出と呼ぶ。

湯川秀樹 「目に見えないもの」p93 講談社 学術文庫




 記憶は意識と無意識とを綯いまぜながら遠い過去から現在に至っている。現在この瞬間に、意識はその水面に浮かぶあらゆる印象を受けとめるが、やがて次の瞬間には印象はさまざまの破片に分裂し、その或るものは早く或るものはゆるやかに海の底に沈み始め、それらは常に記憶によって意志的に保存されているものと、いつかは甦る可能性を持ちながら意識界の周辺に浮游しているものと、そして海底に埋没して永久に浮び上がる機会を持たないものとに分れるだろう。

福永武彦 「幼年」p74 講談社 文芸文庫