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交響曲「グレイト」



 CDのボックスセットをいくつか購入しているうちに、同じ曲の演奏がたくさんたまることがあります。その典型例がシューベルトの交響曲「グレイト」です。演奏時期の古い順から並べて、これだけ集まりました。

 フルトヴェングラー ベルリン・フィル(1953年)
 ミュンシュ指揮 ボストン響(1958年)
 クレンペラー指揮 フィルハーモニア・オーケストラ(1960年)
 ヴァント指揮 ケルン放送響(1977年)
 テンシュテット指揮 ベルリン・フィル(1983年)
 ガーディナー指揮 ウィーン・フィル(1997年)

 この交響曲は演奏時間が長くて1時間くらいかかるので、あまり気が進まなかったのですが、こんなにたくさんあることに気がついて、もったいないので全て聴いてみました。その感想を一言で書くと、さすがは「グレイト」と称されるだけのことはある・・・ということです。魅力ある要素がふんだんに次々と登場します。そして大事なことは、シューベルトが作曲することの楽しさや幸せを感じながらこの曲を書いたのだろうなあ・・・と聴いていて思えることです。時間に余裕のあるときに、ゆったりとした気分で聴いてみたい交響曲です。
 この交響曲はシューベルトの第8番とされる場合と第9番とされる場合がありますが、いずれにしてもシューベルトとしては最後の方の作品であり、生前には演奏されたことがなく、シューベルトの死後にシューマンが楽譜を発見したとのことです。

 そんな「グレイト」、いろいろな魅力がつまっている中で、私が特に気に入った部分をいくつか紹介したいと思います。

1.曲の始まりのホルン
 第一楽章の冒頭、この曲はホルンで始まります。ここで奏でられるメロディーは、第一楽章において別の楽器によって何度もくり返されます。ホルンから木管楽器に引き継がれ、そして弦楽器が流れるように続く。この移り変わりがなんともスムーズで優雅であり、その後の展開に大きな期待を持たせてくれます。

2.第二楽章のホルン
 第二楽章の3分の1くらい過ぎたところ。弦楽器が静かに静かに鳴っているところで、ホルンが同じ音程の音を一拍おきに8回鳴らし、そこから1音ずつゆっくりとクレッシェンドしながら降りてくる部分があります。実に巧妙で印象深い部分であり、効果的に次につながっていきます。シューマンは、この部分について「全楽器が息をのんで沈黙しているあいだを、ホルンが天の使いのようにおりてくる」と説明しているそうです。

3.第四楽章のホルン
 第四楽章は、同じ音程で「タンタンタンタン」と4つ並ぶ音型が何度も何度も繰り返し登場するのですが、その中に異彩を放つ部分があります。静かになって無音になったところで、ホルンが同じ音程で「ポンポンポンポン」と吹きます。3つ目からはクラリネットが加わり、5つ目からはオーボエも加わります。このホルンが登場するところで、それまで賑やかだった曲想が急に変わり、ほのぼのとしたというか、のびやかというか、天真爛漫というか、悪く言えば何も考えていないというか、あの能天気なシューベルトになってしまうのです。ホルンの柔らかな音がポンポンポンポンと並ぶだけなのに、それまでの様々な出来事をすべて一瞬にして消去してしまうくらいの圧倒的な破壊力なのです。何なのでしょうか、これは? 絶妙な「脱力感」と言ってもいいかもしれません。

 ホルンばかり続いてしまいました。ホルン以外にも書くべきことがあります。

4.第三楽章の中間部
 第三楽章の中間部は、とても幸せな気分に浸れます。シューベルトらしく、歌詞をつければすぐに歌いたくなるような美しく滑らかな旋律。きっと素晴らしい歌になることだろうと思います。穏やかな幸せを感じることができる部分です。

5.上昇するメロディーと低音部
 第四楽章の後半で、同じようなメロディーが4小節ごとに2度上昇しながら何度も繰り返されて続くところがあります。そのときの低音部の動きが実に気持ち良いのです。低音部は4小節ごとではなく8小節ごとに3度上がっていき、上がるたびに低音部がズーンと響いてきて気分を高揚させてくれます。メロディーと低音部の音程の上がり方が同じではないにもかかわらず、両方が力を合わせているように聴こえてきて、とても印象的です。

6.チェロの対旋律
 ヴァイオリンや木管楽器が主旋律を奏でているときにチェロがクレッシェンドしながら対旋律を弾くところが何カ所かあります。それまで静かに隠れていたチェロが満を持して主役として登場してきたようです。チェロ奏者が喜んで演奏しているであろう情景が瞼の裏に浮かびます。