私はシューベルトの曲をたくさん聴いているわけではありませんが、この演奏は、今までに聴いたシューベルトの交響曲第5番とは全く別の曲のようです。
出だしから優しさに溢れています。第1楽章は、Allegroにしてはあまり速くない落ち着いたテンポで、ゆっくりと進みます。なんと穏やかなのでしょう。どこにも争いごとのないかのような平穏な雰囲気が漂っていて、安心して身を任せることができます。まるで天国で聴く音楽のようです。「鱒」のメロディに触れたときと同種類の感覚とも言えますが、そんなことはどうでもよくなってしまうような穏やかさです。
第2楽章は Andante con moto なので、さらにゆっくりとし、平穏な雰囲気が満開になります。
第3楽章のホルンの高音がとても美しくて聴き惚れてしまいます。中盤で曲想が急に悲しげに変わる部分があり、そこも上品でありつつ、胸を締め付けられるような切なさを感じます。全体的にるんるん気分な中で、わずかではありますが、これくらいの異質な部分があってよかった思います。
第4楽章はようやく速く軽やかになります。それほどテンポが速いわけではないのに、実に軽快。最後まで荒々しさとは無縁の、優しくて美しい演奏なので、幸せな気分に浸ることができます。
この演奏はお勧めできます。カール・ベームによる他のシューベルトの交響曲も聴いてみたいと思います。