田園交響曲
この曲には、「田園交響曲」という名称がつけられている。もともとは「田園交響曲」という名称だけだったが、後に交響曲の番号をつけるとすれば3番目だということで、交響曲第3番とも呼ばれるようになったらしい。
全体を通じて、都会の喧噪とは無縁の穏やかさを感じる。静かでゆったりとした部分がほとんどを占める曲であるが、決して退屈ではない。素朴な味わいがあり、安らぎを感じることのできるユニークな交響曲である。
第1楽章は、まるで田園の夜明けのようだ。とても静かでゆったりとした朝である。しかし、まだ薄暗く、朝靄のせいで遠くは霞んで見えない。いつまでもまどろんだままで、なかなか明るくならないままに終わっていく。イングリッシュホルンやハープも活躍し、静かではあるが多彩な音色を聴くことができる。
第2楽章に入っても、静かでゆっくりとしたところは変わらない。ヴォーン・ウィリアムズの交響曲は楽章によって曲想が大きく変わることが多いのだが、この第2楽章は第1楽章の雰囲気をそのまま引きずっている。うっかりすると次の楽章に進んだことに気がつかないかもしれない。まだまだ朝靄は晴れず、むしろさらにどんよりとして暗くなってしまった感がある。いつまでも太陽が現れないので、それならば代わりに・・・と思ったのか、トランペットのソロが明るさを与えようとしているかのようだ。ただし、どこかくすんでいて、ほんのりと明るいといった程度なのだが・・・。そこで少し賑やかになるかと期待させながら、すぐにまた静かになり、その後もゆっくりと穏やかなままである。ホルンがトランペットのメロディーを思い出したように繰り返し、それに続く弦楽器のハーモニーがだんだんと弱くなってppppで静かに静かに楽章が終わっていく。
第3楽章に入ると、田園の人々が動き出したようで、ようやく活発になってくる。軽快になりつつ、少しずつ音量も増えてくる。金管の合奏が入りながら、ようやく、じわじわと盛り上がってくるが、賑やかさも中くらいである。盛り上がりきらないまま煮え切らずに静かに、そしてゆっくりになって終わってしまう。
第4楽章は、ソプラノの歌詞のないヴォーカリーズが特徴的。少し不気味でシュールであるが、明日に向かっての祈りが込められているように感じる。途中には自然の雄大さのようなものをじっくりと感じさせる部分もあり、様々な楽器の音の重なりを楽しむことができる。そして最後は再びヴォーカリーズで静かに静かに終わる。