交響曲第5番
この交響曲第5番は、総譜の表紙に「dedicated without permission to Jean Sibelius」と書かれているように、シベリウスに献呈された曲である。
私はシベリウスの交響曲が大好きであり、そしてシベリウスの交響曲にどこか通じるところがあるヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番も、初めて聴いたときから惹きつけられて好きになった。ヴォーン・ウィリアムズの9つの交響曲の中で最も好きな曲だ。特に第3楽章が素晴らしい。
第1楽章は、シベリウスの第4番を思い出させるような低弦の響きから、重苦しさを予想させるように始まる。すぐにホルンや他の楽器が加わってだんだんと広がりが生まれ、広い平原を遙かに見渡すときに感じるような、平穏と高揚とが混じり合ったような雰囲気が醸し出される。その後で平原の天候が悪化し、風が出て雨も降るが、やがて元の穏やかな気分に戻り、日が暮れていくように静かに終わる。
第2楽章は短いスケルツォ。活発であるが落ち着きもあり、テンポは速すぎない。ちょっとした気分転換といったところ。
第3楽章は終始ゆったりとした楽章で、とても素晴らしい。オルガンの響きを思わせるような弦の和音で始まり、そこにイングリッシュホルンが悲しげなメロディーとともに登場する。少し後で管楽器の和音をバックとして弦楽器がイングリッシュホルンのメロディーをユニゾンで奏でるところは、深い深い思いに沈み込むようで感動的である。このあたりの音の響きは、シベリウスの交響曲第7番の冒頭5分間ほどの荘厳な響きに似ているように思う。その後のオーボエとイングリッシュホルンが互いに吹きかわすところも美しい。
この楽章を聴いて思い浮かべるのは、成層圏の遙かかなたの真っ暗な宇宙から青い地球を俯瞰するようなイメージである。神々しく、そして清らかである。最後はヴァイオリンのソロ、そしてホルンのソロに導かれながら、静かな弦の低い和音で終わる。
第4楽章は、第3楽章から雰囲気を少し変えつつも、第3楽章の厳かな雰囲気に浸っている聴衆の気分を壊さないようと考えたのか、チェロのみで慎重に始まる。だんだんと楽器が増えて活発になり、金管も登場して明るさを感じるようになる。しかし終盤はまた穏やかになり、最後はいつものように静かに終わっていく。
この第5番も、第3番と同じように、すべての楽章が静かに終わっていく。その沈積していく音に耳を傾けていると、周囲の物と自分との関係や、この世界の中での自分の居場所がわからなくなるというか、そんなことはちっぽけなことであってどうでも良いとさえ思えてしまう。