ピアノ五重奏曲 謝罪の曲??
シューマンのピアノ五重奏曲を何度か聴いているうちに、これは謝罪の曲ではないかと思うに至りました。そのきっかけは第二楽章で空耳が聞こえたことにあるのですが、まずは順番に第一楽章から聴いてみましょう。
第一楽章の開始から1分ほど進んだところで、チェロとヴィオラが主題をかけ合いで演奏します。ここはとても穏やかな対話のように聞こえますが、実は、言葉遣いは丁寧であるものの、二人の言い争いが始まったのです。一方は怒っていて、「なぜこんなことをしたのですか?」と問いかけ、他方は「こんな事情がありまして・・・。」と言い訳をしているようにも聞こえます。前者の怒っているのがチェロで、後者の言い訳をしているのがヴィオラです。何度も何度も同じことの繰り返しになってしまい、残念ながら許しを得ることはできなかったと思われます。
なぜそんなふうに感じるかというと、第二楽章で謝罪の言葉が繰り返されるからです。ピアノの短い前奏に続いて第一ヴァイオリンが奏でる部分は、とても暗くて沈んだ雰囲気なので、それだけでも謝罪しているかのような印象を受けます。それに加えて、ヴァイオリンの音が私には「さぁせん。さぁせん。すまなかった。このとおり・・・。」と、土下座しているように聞こえるのです。一度このように聞こえると、次に続く第二ヴァイオリンやその次のヴィオラも同じように、「さぁせん。さぁせん。すまなかった。このとおり・・・。」と謝っているように聞こえてしまいます。「さぁせん」などといい加減な言葉遣いをするのではなく、「誠に申し訳ありません」と丁寧に謝るべきではないかと思うのですが、そう聞こえるのですからしょうがありません。第二楽章では何度も謝り、途中で泣きが入って涙ながらに弁解し、その後でまた「さぁせん。さぁせん。すまなかった。このとおり・・・。」と繰り返し謝り続ける結果となります。
第三楽章では、謝罪しても無駄だと考え、その場を逃げ出します。逃げる者と追いかける者の追いかけっこが始まるのです。速度記号は Molt Vivaceですから、両者ともたいへんな速さです。ときどき物陰に隠れては見るものの、すぐに見つかってまた逃げ出す、そんなことの繰り返しです。
最終楽章の第四楽章では、ついに開き直ったようです。追いつかれて逃げることもできず、ひたすら身の潔白を主張し続けます。怒っている方も言い返しますから、白熱した議論が続きます。そして最後に許しを得ることができたのかどうか、それは残念ながらよくわからないままではあるものの、何らかの決着がついたかのように曲が終わります。
シューマンは決してそのつもりではなかったはずですが、私には謝罪している曲のように聞こえるのです。