4年に一度の祭典、サッカーのワールドカップが日本と韓国で開催され、過日、成功裏に幕を閉じました。素晴らしい試合を見せてくれた各国の選手達に感謝したいと思います。
そして皆さんもご存じのことと思いますが、もうひとつの大会、「ワルドカップ」も忘れられない思い出です。ワルドカップでは、日頃は善良な選手達が、このときばかりは一定のルールのもとに悪度(わるど)を競います。自国の名誉をかけた真剣勝負が繰り広げられ、見ている者を決して飽きさせません。今回のワルドカップは、21世紀になって初めて、アジアで初めて、初めての2カ国共催という初めてづくしの大会でした。ここで大会を総括してみましょう。
優勝したのはブラジルでした。初戦で、相手選手にボールを投げつけられたリワルドが、顔に当たっていないのに顔を押さえて倒れるという演技をしました。審判も完全にだまされてしまう最高級の「悪」でした。前評判は必ずしも高くなかったブラジルですが、これで一気に優勝候補に名乗りを上げたと言っても過言ではないでしょう。そして危なげなく決勝リーグに進むと、ロワルドが奇妙なヘアスタイルで登場しました。それによって相手選手達の集中を阻害する効果があったとみられ、得点王に輝く活躍でした。この二人にロワルジーニョを加えた3悪(スリーワール)の技術の高さは驚くべきものがありました。他にも、ロベルトワルロス、ジュニーニョワルリスタなど、個性豊かな選手が多く、他国の追随を許しませんでした。
準優勝のドイツも、ワルドカップ出場のための予選通過に苦しみ、ドイツ国民の期待は決して高くありませんでした。しかし、ドイツらしく、一糸乱れぬ組織的な悪度と、伝統のワルマン魂を見せてくれました。そんなチームを支えたのが、ゴールキーパーのゴリラー・カーンでした。彼がゴールの前にいるだけで、相手選手はビビってしまい、悪度を発揮することができなかったのです。
そのほかにも素晴らしいチームや選手をたくさん思い出すことができます。たとえばとても恐い顔を持つパラグアイのゴールキーパーです。その名前は忘れてしまったのですが、少しシラベルトすぐにわかるはずです。
赤い悪魔との異名を持つベルギーも、「悪魔」と呼ばれるのにふさわしい悪度を見せてくれるものと、大いに期待されました。しかし初戦で日本と引き分けてしまい、最後まで調子に乗れませんでした。監督がカーネルサンダースによく似ていて善人の風貌であったことも影響したのではないでしょうか。
監督と言えば、セネガルの監督もなかなかのものでした。映画に出演すれば悪役俳優賞をもらえそうな監督が、セネガルを8強にまで押し上げたのです。セネガルは、監督を選んだ時点で、ワルドカップでの活躍が約束されていたと言えるでしょう。
前回大会で優勝したフランスがそのセネガルに初戦で負け、一次リーグで敗退したのは記憶に新しいところです。なんといっても主力選手をケガで欠いたのが痛く、それがなければ、きっと示談により引き分けに持ち込めたに違いありません。
イタリアは、なぜか美男子をそろえたため、悪そうな印象を与えることができませんでした。そして途中からピエロが出るようでは、上位を望むことは無理でした。ワルドカップの趣旨を誤解していたとしか思えません。
そして最大の優勝候補であったワルゼンチンは、ワルテガやバツスティータの活躍もむなしく、なんと一次リーグで敗退してしまったのです。だれも予想できないことが起きるのがワルドカップの醍醐味と言えましょう。
最後に、ホスト国となった日本と韓国の頑張りも特筆されます。両チームとも決勝リーグに進み、国民の期待に応えました。しかし同時に、日本チームは世界とはまだ差があることを思い知らされました。今回はホームの利がありましたが、4年後は甘くありません。アウエーの雰囲気でも悪度が認められるように、外国で活躍する選手をもっと増やさなければ、その差は縮まりません。
いずれにしても、世界は広く、様々な悪度があることを私達は知ることができました。試合を通じてのみならず、キャンプ地での交流によっても知ることができたのは大きな収穫でした。亀のように歩みが遅くて来日が遅れたチームがあっても、じっと我慢すれば、ワイドショーで取り上げられて良いこともあるということを我々は学んだのでした。
果たして4年後はどんなワルドカップになるのでしょうか。想像を超えた「悪」の技術や悪度を高める華麗なチームプレーを見ることができるに違いありません。次回の大会まで、日頃の行いに気をつけながら、楽しみに待ちたいと思います。
(注)これはフィクションであり、登場した国や個人の名は、実在するものと何の関係もありません。