AVR大研究E
Automatic Voltage Regulator

秋月のLM317電源キットを作る。

とんでもないどんでん返しでLM317を使った秋月電子のキットを使うことになりました。

このICはいろいろな保護回路や便利回路が含まれているだけで動作原理はトランジスタで組むものと変わりません。

ところが何人かの方に相談を受けたのです。このキットは”規定の出力が取れない”というものです。これはキットが不良でも何でも有りません。使い方の問題です。キットの取り説にもちゃんとかかれていることなのですが、前回までの熱抵抗のことを理解してないと2,3行の説明ではその大切さが判らないのでしょう。付属の小さな放熱器では特別な場合をのぞいて間に合いません。
付属の放熱器は大研究Cのグラフで計算すると熱抵抗は8℃/W程度です。これではICの最大損失の場合対応できません。(ICもトランジスタも損失について同じように考えられます)
是非みなさんも20Wの損失に耐えられる放熱器の大きさを計算してみてください。(放熱器の実際的計算例参照)

この計算をしてみると放熱が如何に大変なことかよく解ると思います。そのためメーカ製の機器では出力電圧と比例して入力電圧を下げたり、冷却ファンをつけたり、損失の少ないスイッチング方式にしたり多くの工夫が見られます。

安定化回路の入力は
安定化回路へ入力する電源も作らずジャンク品の応用ということになりましたが当然直流でリップルが少ないことが要求されます。リップルとは整流後に残る交流成分のことです。1Aの負荷を流して制御トランジスタの電圧降下分より高い電圧が必要です。今回は直流で18~20V1A程度の電源を用意してください。入力電圧と出力電圧の差はICの規格から最小 3V 必要です。
ノートパソコンの外部電源などが大量に出回っています。
このくらいの容量があればトランスを使って作っても同じです。

下に示す回路図はキットの回路そのものです。前段の電源はキットとは別に購入したスイッチング電源です。この電源の定格電圧は18Vですが実際には少し低めで15Vの出力にはチョット心もとないので電圧を少し上げる工夫をしました。この辺は少し経験をしないと難しいかもしれませんが勇気ある人は挑戦してみてください。
電圧調整用VRがついているものもありますが無い場合は出力端子から電圧を分岐して比較回路に入っている抵抗を探します。その抵抗を変えれば電圧を変えることが出来ます。しかし大幅な変更は事故の元です。今回は約1V上げました。
皆さんが同じものを見つけるとは考えにくいので実際の変更部位については省略します。

キットには電圧設定用の可変抵抗が半固定型の小さなものになっていますのでこれはツマミを付けられる標準的なものに交換します。この抵抗値によって最大電圧が決まります。計算方法はキットに詳しく記載があります。
計算式はVout=1.25(VR+R1)/R1ですが15Vの場合を計算してみると2640Ωになります。こんな可変抵抗は購入できません。3KΩのものを使用すると電圧が高くなりすぎます。このような時はR1(240Ω)を大きくにすれば解決できます。この場合270Ω位になりますが基準の1.25Vについても個体差がありますのでR1を可変抵抗にするかあまり細かく考えないほうがよいでしょう。
安定度の観点からはR1は固定抵抗が好ましく又R1が大きすぎるのは最小負荷電流が小さくなりすぎるので好ましくありません。

C2、C4(0.1μ)はノイズ防止、D2、D3(10D-1)はICの保護です。この回路は普通の動作状態ではVinよりVoutの方が電圧は低くなります。しかし電源を切ったり、何らかの理由(実験中におきる誤接続等)でVoutの電圧が高くなるとICを損傷することがあります。その保護用として入れます。

【 0111 ja1cvf 】

放熱器の実際的計算例
秋月電子・317安定化電源キットを次の条件で使用した場合
@電源回路周囲温度:50℃通風がよければアマチュア規格で45℃くらいでもよい。
A負荷条件(最大損失条件):1.25~15V・1A(安定化回路入力を20Vと仮定。出力が短絡されたとき最大損失になるから・20W 定格最大損失(20-1.25)X1=18.75約20W)
B放熱器設置条件:通風良好、縦置き、絶縁シートなし、放熱コンパウンド(シリコングリス等)使用、輻射熱なし(外部から熱を受けない)
CLM317(NJM317)の仕様・定格損失(定格消費電力)15W、最大損失20W、動作接合温度125℃、熱抵抗4℃/W(秋月付属資料より転記)
@〜Bまでは使用者が決める条件です。実現できるかは別問題です。CはLM317の固有条件でこれを超えることは出来ません。
熱抵抗の計算(この場合資料より4℃/W)をしてみます。一般的には25℃を基準に考えます。計算式は・(最大接合温度-基準温度)/最大損失:(125-25)/20=5で5℃/Wになります。資料と差がありますがこのような場合は安全側を採用します:5℃/Wで無限大放熱器を付けた場合です。
しかし実際に使う場合はその周囲温度(この場合50℃)で考えなければなりませんから(125-50)/20=3.75となります。これは実現不能ということです。
ではどうしたらよいのでしょう。一回り大きいLM350というのもありますが熱的にはほとんど変わりません。
損失を下げるには・入出力の電圧差を小さくすることですがLM317の場合3Vが最小値です。出力電圧を可変型にするとどうしても低い電圧の設定をしたとき電圧差が大きくなります。
そこで逆転の発想です。この状態でどれだけの出力が取れるか?
キット付属の放熱器はどの程度のものでしょう。サイズを測ってみると3X3X3=9です。これは約8℃/Wです。これにICを付けると13℃/Wになります。(コンパウンド使用、絶縁シートなし)これから損失を求めると(125-50)/X=13・・・X=5.7Wとなります。これでは1Aの負荷ではほとんど電圧を可変できないことになります。そこで手元にあった13.5X9.5X2.5という放熱器で計算してみましょう。これは熱抵抗が1.3℃/W程度になります。これなら放熱器とICの接合面を考慮しても7℃/Wにはなりません。これでやっと10Wくらいの損失に耐えることになります。
話がだんだんややこしくなります。
20Vの入力で10Wの損失ということは出力10V以上なら希望の1Aを流すことが出来ます。1V出力のときは500mAまで使えることになります。*ICが熱的に過負荷になっても熱保護回路が組み込まれていますから壊れることはありません。
最初の目標よりだいぶしぼんでしまいましたがこれで我慢することにしましょう。我慢できない人はブロアを付ければ1.5Aまで使用可能です。

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