AVR大研究C
Automatic Voltage Regulator

放熱と熱抵抗
AVRの熱的保護

実験用電源装置はいろいろな負荷が接続され極端な場合電源装置の能力を超える負荷が接続されたり 出力が短絡されたりすることも考えに入れておかなければなりません。
この電源装置の仕様は【1〜15V・1A】としておきます。動作について理解できればあなたは自由に仕様を変更して設計できるでしょう。

大研究Bでは電気的な回路保護について考えました。過大電流が流れると制御回路が壊れるのでそれをどうやって防ぐか考えました。
大研究Cでは正常な動作状態での熱的保護”放熱”について考えます。

見慣れた図が再び登場です。
この回路でQ1を除く回路には負荷の変動によるストレスはあまり大きいものではありません。 回路に流れる電流の最大条件を考え見合った部品を用意すればよいでしょう。
もちろんQ1も同じなのですが、流れる電流による発熱が予想されます。
Q1は大研究@でお話したように抵抗と同じ働きをしています。つまりQ1の電圧降下分が損失となって発熱すことになります。 この電圧降下の最小値は規格表にVce(sat)と表示されます。動作中はそれより大きくないと出力電圧を制御できません。
これが入力電圧と出力電圧の差になります。今回は最大出力電圧は15Vですから入力電圧は仮に20Vとしてみます。
負荷が軽いときあるいは無いときはQ1に流れる電流はR3,R4に流れる電流だけ(Q2のベース電流はわずかなので無視)ですからほんのわずかです。
しかし最大負荷では1A(実際にはR3、R4の電流も加算される)ですから出力15Vの場合
(20−15)X1=5(W)、出力1Vでは(20-1)X1=19(W)約20Wの発熱(熱損失)になります。

この熱によってQ1はどんどん熱くなります。そしてQ1の温度が175℃(シリコントランジスタの場合)を超えると壊れることになります。
そこでこれを冷やすために放熱と言う作業が必要になります。
発熱が小さければ何もしなくても一定温度で平衡が取れます。最初にお話したQ1以外の部品がこれに当たります。

放熱の方法はいろいろあります。
放熱器(放熱板)を使う方法。熱源に熱伝導のよい板などをつけて熱を拡散させます。
風を送って周囲温度を上昇させないようにする。送風効果は絶大で放熱器全体に1m/sくらいの送風で放熱器の熱抵抗を 1/5〜1/10くらいにすることができます。
その他水冷なども考えられますが放熱器を使った自然空冷一般的です。

今回の例では約20Wの熱損失があります。放熱のことを考えるにはカロリーやジュール熱を考える必要はありません。 簡単な熱抵抗という考え方で解決できます。
高温になったトランジスタ(ジャンクション、接合部分)の熱を動作可能な温度、たとえば室温に下げればよいわけです。
トランジスタ⇒放熱器⇒大気温という具合に熱を伝え温度を下げます。大気温は実際には室温あるいは筐体の温度ということになります。
トランジスタを発熱源、大気を負荷と考えれば間の放熱器は電気配線の抵抗のように見えます。この抵抗が小さければ放熱が行われます。
そこでこの放熱器を抵抗として考える熱抵抗という考えが出てきます。

熱抵抗は直列、並列も可能で全く同じに考えることが出来ます。しかし電子部品の抵抗器と違い最終的には空気との接合ですから、 空気の流れに大きく影響されます。ケースの中に放熱器を組み込めば室温ではなくケース内温度で考えなくてはならず 水平置きやフィンが横になるような空気が対流しづらい置き方では当然熱抵抗が大きくなります。
たとえ正確な熱抵抗がわかっている場合でも十分余裕を見ることが重要です。

写真の放熱器はあるメーカ製の電源装置に使われていたもので鉄シャーシーに水平に取り付けられていました。 計算上は間に合ったのかもしれませんが大きな問題点があります。
*水平に取り付けてある。・・・ヒダがトンネル状で空気の対流が悪い。
*真鍮の薄板で熱伝導に問題あり・・・真鍮は熱伝導が悪い素材です。
*トランジスタの接触面に大きな穴をあけてある。 ・・・放熱板の面積から考えると面積の減少はわずかですがトランジスタとの接触面の減少は熱抵抗の増大につながります。

小さな増幅用のトランジスタは発熱も少ないので特別な放熱の必要はありません。
パワートランジスタは定格いっぱいに使うことが多いために放熱が必要で放熱器を取り付けやすい形になっています。
規格表を見るとPc=50Wなどと書かれています。これはケース温度を25℃としたとき50Wの損失まで使えるということです。 このときのジャンクション温度(Tj)は175℃(トランジスタの種類によって違いがあります)です。これはシリコントランジスタの上限温度です。 そしてこのトランジスタの熱抵抗は175-25/50=3(℃/W)・・・単位はオームではありません。
このトランジスタを例題の電源装置に使えるでしょうか?

実際に使用することを考えると周囲温度は40〜50℃を考える必要があります。 50℃であれば175-50/20=6.25(℃/W)ですから6.25-3=3.25℃/W以下の放熱器を使用しなければなりません。 これは放熱器とトランジスタの接合部分にある絶縁シートの熱抵抗(約1℃/W)も含まれます。 ということは2℃/W程度の放熱器が必要になります。

【トランジスタの接合部分の熱はケースのフランジ、絶縁シート放熱器そして大気へ放散される】

放熱器は熱伝導のよい厚手のアルミ材を使うことが多いです。薄いものは熱伝導の考えから不利になります。 そして空気との接触面を多くするためたくさんのヒダをつけたものが使われます。空気の対流を考えればヒダが立てになるようにするのが望ましいです。

【あまりよろしくない放熱器の例】
大きな取り付け穴は熱抵抗の増大になります。

水谷電機工業のホームページ に熱抵抗の詳しい計算式や放熱器について解説があります参考にしてください。


【 0109 ja1cvf 】

【参考資料】
放熱器の熱抵抗は空気と触れる表面積で求めることが出来ます。 しかし放熱器は表面積を多くするため多数のヒダをつけていますから表面積の計算は容易ではありません。 左のグラフは包絡体積から概略の熱抵抗を知ることが出来ます。 正確にはメーカのカタログで調べますが特価品などを使うことが多い私たちの工作ではとても役に立つグラフです。

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