\喘息 のち 晴れ!/
【7-1】やだー!できないよぉー


この臨床例は当時たぶん9歳N君、男の子の例です。基本的には子どもさんには私はワークをさせない方針です。しかし彼の場合、そのときワーク可能な条件が整いました。

N君は約1年前にも喘息を起こしたけど、それがなりを潜めた経緯もありましたので私に対する信頼がそれなりにあったことは確かです。だからいきなりポンとお互いが出会っての話ではありません。

さて、場所はあるフリースクールでのことです。私はそこで体の講座をもっておりました。

将来を担っていくこれからの子ども達に、今すぐは理解不能でも季節の変化に適応する体の仕組みを知り、何らか役に立つ体験をさせてあげたい。光栄なことにそんな思いでつくられた講座を担当させていただいていました。

その朝スクールに到着すると、スタッフに呼び止められN君が今日は朝から喘息が起きていることを告げられ「 参加させない方がいいでしょうか、後からでも整体をやってもあげてもらえないでしょうか 」と訊ねられました。

でも彼にもいつも通り参加してもらうことにしました。それなりに展開に任せていると何かしらタイミングがあるかもしれないと、ややのんきなことを考えました。個人的に診るのは気がすすみませんでした。

こういうとき難しいのはある人を特別扱いするそのあり方です。欠乏感の強い人の集まりの時、ある人だけを特別扱いすると連鎖的に病気が増えてくるからです。

たとえちゃんとけじめをつけて個別の扱いをしていても、子供の心には嫉妬の気持ちが湧いてくることがあるからです。それは本質的には嫉妬ではないのだけど、とにかく心の感染が起きてゴチャゴチャしてくるのはいやなものです。

その日は多少ゲーム化した体操を進めていきました。N君はしんどいのでほとんど横の方で見ていました。子ども達は楽しそうにやっていました。ちょっと区切りがついたとき、私は彼に聞きました。

「 N君、君もやらないか 」
「 ええーーー?できないよう 」
「 そうか、しんどいか? 」
「 きょうはもう駄目だーーー 」

彼はどことなく体をぐにゃーとさせる癖があり、いつにも増してぐにゃーとなっている。スタッフも積極的な気持ちでしかも優しく、
「 ねえ、やってみないー?と聞いた。 」

「 ええー?やだー 」と、更に彼のぐにゃり度は増してくる。
でもその受け答えの中にちょっとだけその気が無いでもない感触がうかがえた。
ぐにゃを使う時はわりと彼は甘えたい時だ。

「 おい、N君!、さっ、やろう、やってみよう 」

私はちょっと感情を込めてそう言って、すかさず
「 君を中心にしたゲームをやってみよう 」と、そう言った。そして皆に聞いたらOKがでた。彼は床にペタペタ手の音をさせながら這ってやって来た。

「 ねぇ、ちょっと教えてくれないか、君の胸でどんなことが起きているか教えてくれないか?別に難しい説明はしなくていい、君なりの表現でいいよ、何か穴があるとか昔話みたいでもかまわないんだ 」

「 ええとねぇ、なんかこう、どういえばいいのかなぁ、そのう 」
「 ふんふんナルホドそれで?胸がどんな感じ? 」
「 トンネルの中が両側からくっついてぇ狭くなっている感じでぇ 」
「 それでそれで?息は? 」

「 ええぇ?息?だからぁ、トンネルみたいになっているところが両側から押してきてくっ付いて狭いからぁ、息がなかなか通れないの 」

「 なぁるほど、こうなってて、ああなってて 」と、私は身振り手振りで彼の説明を繰り返した。

「 じゃぁここに、君のその胸の状況をつくってみるからね 」
私はそう言ってスタッフや他の子ども達十数人に二列に並んでもらった。そしてその間を、彼のいった通りある程度近寄ってもらって狭くした。

「 さぁて、これは君の胸だ。じゃぁ君は入ってくる空気になってくれるか? 」

「 ええーーー?やだー、できないよぉー 」

N君頑張ってやってみよう!とスタッフの優しい励ましの声。応援の声は段々と増えていった。もうこうなると人間は照れてしまう。照れは可愛いものだけど、照れにハマられても困る‥‥。

「 N君ほらほらこっちへきてごらん 」
私はそういって反発の起きない程度の強引さで列の入り口に立たせた。
「 さあ入ってみよう!君の胸の中だ。息が入らないと困っちゃう 」

彼はぐにゃっと入り込んだ。それーっ!と皆の声援が飛んだ。グワッと一瞬彼の体が緊張し、腰に力が入った。

なんと!彼は凄い勢いで中を抜け始めた。両側に立っている人の力も強まった。

ガンバレー!の声援が一杯飛び、そして、ついに彼は抜け出てしまった。

息をハァハァさせ、顔を高潮させて彼はそこに立っている。

他の子もみんなやっていいよ。やりたい者はどんどん参加して!

ワーッと子ども達が寄ってきてダーッとその狭き空洞に挑戦した。N君も続けて入っていった。そうやって皆都合3回くらい狭い処をくぐっていった。

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。

沢山の息の音とニコニコ紅潮した顔があった。

突然のエキサイティングな展開に場が明るくなった。

そう、ただそれだけがあった。

喘息はいなくなっていた。


N君、ありがとう!



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