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 このページでは、猛禽類の調査にあたって、どの様な観点で調査や観察をすると
「より猛禽類に対しての理解を深める」ことができるのか
そのへんを中心に記しています


イギリス(スコットランド)のイヌワシ
photo by M.J.McGrady



 種としての総合的な調査の必要性
 恐らく猛禽に関する研究者や、その関係者の間では、この『種としての総合調査』の必要性を感じていない人は、皆無と言っても過言では無かろう
 十数種に及ぶ猛禽の種が、いったいどこまで知られているのか? だれが・どこで・どのような研究を行い・どのような成果が出ているのか? 
 成果として公表されている研究結果については、日本鳥学会の学会誌や日本野鳥の会の研究報告誌であるストリクスなどには、論文として掲載されていたり、鳥学会の大会や生態学会の大会などでも、その研究成果が発表されております。また、全国規模のNGOである日本イヌワシ研究会やオオタカ保護ネットワークにおいては、イヌワシ・オオタカなどの研究成果が蓄積されつつあるようですが、イヌワシやオオタカを研究している大学や学生達、あるいは組織に属していない人達の持つデータがすべて網羅されているわけではありません。現状では、特定の種に限定すると日本で一番情報や研究成果が集積されているとは思いますが、日本全国で行われているだろうと思われるその他の研究成果(アセスメント関係・地方NGO・大学等)をも、本来ならば網羅していき、有機的にリンクさせながら、その種の生態や生理を解明していくことが、そろそろ必要ではないのかなと考えています。生態的な項目だけでなく、できることならば、生理的な知見や、獣医学的な知見、あるいは歴史・文化的な知見などを総合したものが必要ではないのかなと・・・・・
 これは非常に難しいことであるとは思いますが、やはり情報や研究成果は集積することにより、そこから新たな解析を行うこともできるだろうし、どこまでが解明されているのか? 今後は、何を解明しなければいけないのかという課題も生まれてくるだろう

 そろそろ、種としての総合研究を行う時期に来ているのではないのでしょうか。一般的な生態(生活史)・地域特有の生態・個体数・分布状況・個体の動態(増減)・生理・文化・歴史等々・・・・・まだまだ解明しなければならないことは山ほどあります。というか、ほとんどが解明されていないことばかりではないでしょうか? 種として統一的な調査方法を用い、全国で同じような精度で必要な調査や研究を行うことにより、今よりも格段に研究が進むことは言うまでもありません。また、地域によって、あるいは種毎によっても、研究の進捗度合いにかなりの差が見られますので、地域の実情にあった研究を行うことにより、種の総合的な解明がなされるはずです

 では、次に具体的な総合研究の進め方についてですが、大枠から話をしますと、次のような関係で行ったらどうか・・・と、考えています



       ● 研究主体 (構成)
           ・環境省
           ・環境省猛禽類保護センター
           ・研究機関(大学等)
           ・研究者
           (種毎の知見の整理・調査研究計画の策定)

       ● 研究主体
           ・猛禽類研究センター
           (上記で策定された調査研究計画の実施)

       ● 協 力
          ・研究機関(大学等)
          ・研究者
          ・コンサル
          (調査研究計画実施にあたり必要な協力を行う)



 僕の考えでは、このように、国が主導をとるべきだと考えています。やはり『種』という観点で考えると、当然といえば、当然のことでしょう。問題は、それに続く組織です。今の日本の現状を考えると、民間NGOというのは、ご承知のとおり、別の職業を持った人達の集まりであり、専門に調査や研究をしている方ばかりではありません
 日本の猛禽界を考えてみると、研究者と呼ばれているほとんどは、猛禽の研究とは別の正業を持った人達ばかりで、日夜専門で猛禽に関係しているわけではないので、その人達にこれ以上の重い責を負わす必要はなく、いつまでもそのような状態では、日本の猛禽研究など進むはずなどありません。そろそろ転換すべき時期に来ているのではないでしょうか?
 それと、種としての猛禽類を考える上では、せっかく国で設立した組織を活用しない手はありません。いつまでもアマチュア(別の職業を持つ人)中心では、いたずらに時間が経過するだけで、成果の上がるスピードがまったく違います。今、求められているのは、キチンと成果の出せるプロ集団ではないのでしょうか

 そのプロ集団に、大学やアマチュアが協力をしていくという形が、ベストではないのかなと考えています。難しいこととかもしれませんが、今こそ構造改革の時期ではないのでしょうか


 記録方式の統一と記録管理
  その他にも、猛禽の研究を進めるためには、さまざまな課題が存在します

 昔から言われている、『死んでいる(眠っている)データ(記録)の活用』などと言われているのは、その最たるものではないでしょうか? アマチュア研究家が持つ未発表のデータ。アセスメント調査などによる調査結果などは、毎年、膨大なものがあるのではないかと思われます。なかには、もう少しデータを積み重ねることにより完成する研究もあるだろうし、必要なデータを追加・解析することにより、精度が高まるであろうということもたくさんあるでしょう。また、死んでいる膨大なデータを整理解析するだけでも、新しい知見がわかってくることは言うまでもありません

 数センチも厚みのある調査報告書を何十冊もまとめても、まったく意味がないことは、ほとんどの人がおわかりでしょう。これからは、そのような時代ではないのです。せっかく、電脳化が進んでいるこの時代に、紙などで情報の共有化を進めることなどナンセンスの一言でしょう

 そこで、僕が考えていることは、すべての情報の共有化のために、最末端の情報である猛禽の飛翔情報(観察情報)を統一したデータベース化する事です

 統一したフォーマットにより日本中のアマチュア研究家の持っているデータや、アセスメント調査などにより得られたデータの観察情報を、一つの場所に集積を行い、誰でもが利用可能にすることです。これを行う事により、例えば、オオタカの狩り情報を集めたい人は、必要な検索条項を入力し、検索することで、必要な情報を入手でき、あとは解析を行うだけで、簡単かつ大量のデータ処理が、瞬時にできてしまうのです
 
 さらには、GISデータなどとリンクさせることにより、植生までもを含めた質の高い複雑な解析もできるようになります

 ご承知のとおり、国の国土交通省・通産省・農林水産省、これら省庁の外郭団体、あるいは都道府県、電力会社等の持っているデータだけで膨大なものになります
 今からでも遅くはありません。これら公的な機関で持っている過去のデータを、すべて統一したフォーマットによるデータに変換をして、研究者誰でもが自由に利用できるようにしてもらいたいものです
 そうすることにより、死んでしまったり埋もれていたデータが日の目を見るというものです。そして、それこそが公共機関の使命といえるのではないでしょうか?

 膨大なデータを眠らせておくのは、損失にこそなれ、プラスに作用することは何もありません。今後の大きな課題となることともに、早急に取り組んでいただきたいと願っています







 ● 調査(観察)の目的を決めよう ●
 調査、観察や研究を行うにあたって一番大事なことは、その目的を明確にすることでしょう。むやみやたらに野山を駆けめぐっても、猛禽類にあうことすら難しいでしょう。やはり、その対象種を決めたり、その対象種のどの様な点について調べるのか? 何を知りたいのか? このようなことを明確にしておく事が第1にあげられます。例えばイヌワシの観察に行く場合、単純に見たいだけであれば、ただ見に行けばよいのですが、観察目的が何になるのかによって、『観察時期・観察時間・観察日数・観察期間・観察体制・観察機器・必要器材等々』がすべて異なりますので、その目的をはっきりさせ、当然の事ながら観察に出かける1日1日毎にも、目的意識を持っていくことも非常に大事になります


一般的な観察における注意事項(必見です)


 ● 識別にはこだわるな ●
 「識別にこだわるな」とは、乱暴に聞こえますが、初心者が良く陥りやすい落とし穴で、識別にのみ注意が集中し、猛禽類を理解することで一番大事な「彼らが何をしているのか」ということが、おざなりになりやすいからです。時間の記録やよく地図上に飛行軌跡を描くトレースなどもその範疇にはいると思います。つまり猛禽類をより理解する、あるいは理解をより深める為に大事なことは、識別でもなく、ましてや時間の記録やトレースの正確性では断じてありません。
 識別〔この章では種・年齢・個体の特徴(色彩・換羽状況等)・雌雄の判別等〕というものは、あくまでもその個体にどの様な形態や色彩の特徴があるのかがわかるだけで、きちんと識別ができるからといって、彼らの行動がわかるわけではありません。時間の記録やトレースの記載についても全く同じです。いくら観察時間がより正確になされていようと、また、トレースが正確に記載されようと、そのことから猛禽類の生態が全てわかるものではありません。時間の記録については、5分や10分程度正確な時間とずれていようと、彼らの生態を理解する上では何らの問題にはなりません。トレースについてもしかりです。
 ただこのようなことを書くと、「じゃあ識別などしなくても、いいんじゃないか?」と言われると困ってしまうわけで、「識別する」ということが全く不必要ではなく、それ以上に違うところを見たほうが、色々な事柄がわかりますよ・・・・ということです。
 では、猛禽類に対する理解をより深めるためには、どの様な点に注して観察することが必要なのか? 実例を少し示しながら、記していきたいと思います


注意すべきポイント


 注意すべき事柄は、当然種毎に違ってきますし、何を知りたいか・調査や観察の目的は何なのか・観察方法や手段の違い等により異なることは言うまでもありません。
 ここでは一般的なイヌワシの観察を事例にとって説明します。注意すべきことはたくさんありますが、一度にたくさん書いていくと更新ができませんので、とりあえず基礎的な3点からスタートします
 ● いかなる場合でも、「目(視線の先)」と「そのう」は見逃すな ●
 イヌワシ観察にとって、一番大事な項目になります(これはイヌワシだけでなくすべての猛禽類にあてはまります)。彼らの理解に際して、『イヌワシがどこを見ているのか?』ということがまず大きな観察上のポイントになります。 「飛行中どこを見ながら飛んでいるのか? あるいは止まりの状態の時どこを見ているのか?」 それだけでもある程度のことを推察することができます。
 次に重要なのは、『そのう』部分がどのような状態にあるのか? はち切れそうなほどふくらんで満腹状態にあるのか、あるいはふくらみがなく空腹状態にあるのか(実際はどれくらいの状態が空腹かわかりませんが)、つまりそのうの状態を見ることができるだけで、ふくらんでいるときには、今日は狩りをする機会が少なそうだとか、あるいはそのうが膨らんでいるときにでも、頻繁に狩りを行う場合などは、これはヒナに餌を運ぶため(繁殖をしているの)ではないか? ということが推察できるようになります
 当然ここに少し書いてあることだけではなく、色々なケースがあったり、他の要因と複合的に判断される場合ありますので、詳しくはそれぞれのケースに応じて、個々で判断してください(全てのケースについて記すことはとても面倒で、書く気力もありません)
 ● どこをどのように飛行しているのか ●
 これは、どのような環境(植生・地形)のところを飛行しているのか?、あるいは低空・中空・高空なのかという3次元的な位置関係はどうか? と言うことです。
 簡単に言いますと、例えば鬱閉された杉林の高空を飛行しているような場合は、当然の事ながらただの移動で、しかも高空を移動するということは、ある程度の距離を移動するだろうというようなことが、それだけで推察することができます
 ● どこに・どのように止まっているのか ●
これは、イヌワシがどの様な地形の、どの様な部分に、どの様な状態で止まっているか? ということを見極め、そこから彼らの行動を推察していくことです。
 例えば、見晴らしのよい山の山頂付近の見晴らしの良い枯れ木の先(樹頂部分)に止まって、四方八方を見渡しているのであれば、これは、外敵の侵入に備えた防衛のための止まりではないか? というようなことがわかってきます

 これも他の要素と複合的に判断されることが要求されます

『どこをどのように飛行しているのか』・『どこに・どのように止まっているのか』で、どんなことがわかるのか、少しだけ詳しく解説します。興味のある方は次も見てください


飛行の意味について
止まりの意味ついて
交尾行動について



       
2001.2.1 OPEN
2002.2.1 RENEW