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ここでは、猛禽類の保護について私の私見を述べさせてもらいます。猛禽類の生態的な地位における重要性は、ほとんどの人において異論はないだろうと思います。ここでは、どこにでも書いてあるようなことはほおっておいて、冷静に考えて『猛禽類の保護』がどのような形で実現されるべきか? 現実を踏まえてそのあるべき姿を見出していこうと考えています |
猛禽の繁殖成績と増減 |
猛禽の繁殖成功率の低下が、少し前から叫ばれています。繁殖成功率とは、産卵・孵化したヒナが、無事に巣立つまでの割合です。イヌワシ・クマタカ・オオタカなどでは、この繁殖成功率が低下していることが確認をされています 『繁殖成功率の低下=減少』ということに繋がるかどうかわかりませんが、重要な指標であることは間違いありません そこで、今回は繁殖成功率と個体数の増減について考えてみたいと思います 正確に検証するためには、「巣立ち後の生存率」「繁殖年齢」「平均寿命」などの諸要素を勘案しなければいけないのですが、現在のところ、これらについては、ほとんどわかっておりません。この中でも僕が注目しているのは、「寿命」です。ここでは、推測を前提にイヌワシとオオタカのいくつかのケースについて考えてみることにしました <<ケース1>> ●イヌワシの場合 繁殖年齢は4〜5歳齢と言われ、飼育下では45年以上も生きていますし、野外では、確か最長22年という記録が残っていると思いました。ほんとうのところは、これから明らかになってくるとは思いますが、野外においては、10〜20年の間ではないかと考えています。このことから、いくつかの仮定を行い、「繁殖成功率と個体の増減」「巣立ち後の生存率」「繁殖年齢」「平均寿命」などの相関関係について考えてみることにします ここでは、繁殖個体群入りの年齢4歳・繁殖成功率30%・巣立ち数1と仮定して計算してみます。巣立ち後の生存率は計算していません (1)寿命が10年の場合 オスとメスのペアが、それぞれ10年間生きるとし、4歳から繁殖個体群に入ると仮定すると、10年間の後半6年間が繁殖可能時期となります。繁殖成功率を30%とすると、その間にヒナを無事巣立ちさせることのできるのは約2回(約2羽=1.8羽)ということになります この場合、個体数の増減は、差し引きー0.2となり、20%の減少率となります (2)寿命が15年の場合 オスとメスのペアが、それぞれ15年間生きるとし、4歳から繁殖個体群に入ると仮定すると、15年間の後半9年間が繁殖可能時期となります。繁殖成功率を30%とすると、その間にヒナを無事巣立ちさせることのできるのは約3回(約3羽=2.7羽)ということになります この場合、個体数の増減は、差し引き+0.7となり、35%の増加率となります (3)寿命が20年の場合 オスとメスのペアが、それぞれ20年間生きるとし、4歳から繁殖個体群に入ると仮定すると、15年間の後半14年間が繁殖可能時期となります。繁殖成功率を30%とすると、その間にヒナを無事巣立ちさせることのできるのは約5回(約5羽=4.5羽)ということになります この場合、個体数の増減は、差し引き+2.5となり、125%の増加率となります かなり荒っぽい計算で、他の要素などまったく勘案していませんが、こんなものだろうと思っています。個人的には、イヌワシの野外での寿命は、体長や体重から考えても、(2)のケースの15年前後だろうと考えています。また、「巣立ち後の生存率」をまったく勘案していないので、増加率が35%というのは、計算上だけのことであり、2.7羽がすべて繁殖個体群入りすることは考えられないので、実際の増加率はプラスに働くことはなく、マイナスに振れるであろう事は、想像がつきます いずれにせよ、体長・体重とも大きな鳥ですので、「巣立ち後の生存率」はかなり高いものと想像されますが、ヒナ1羽の重みというか、たった1回の繁殖行動でも重要であることが、このことからも言えるのではないかと考えています <<ケース2>> ●オオタカの場合 繁殖年齢は2〜3歳齢と言われ、飼育下では20年以上も生きていますし、野外では、正確な記録はわかっていません。ほんとうのところはこれから明らかになってくるとは思いますが、まあ、6〜12年程度の間ではないかと考えています。このことから、いくつかの仮定を行い、「繁殖成功率と個体の増減」「巣立ち後の生存率」「繁殖年齢」「平均寿命」などの相関関係について考えてみることにします ここでは、繁殖個体群入りの年齢3歳・繁殖成功率70%・巣立ち数2と仮定して計算してみます。巣立ち後の生存率は計算していません (1)寿命が6年の場合 オスとメスのペアが、それぞれ6年間生きるとし、3歳から繁殖個体群に入ると仮定すると、6年間の後半3年間が繁殖可能時期となります。繁殖成功率を70%とすると、その間にヒナを無事巣立ちさせることのできるのは約2回(約4羽=4.1羽)ということになります この場合、個体数の増減は、差し引き+2.1となり、110%の増加率となります (2)寿命が9年の場合 オスとメスのペアが、それぞれ9年間生きるとし、3歳から繁殖個体群に入ると仮定すると、9年間の後半6年間が繁殖可能時期となります。繁殖成功率を70%とすると、その間にヒナを無事巣立ちさせることのできるのは約4.2回(約8羽=8.4羽)ということになります この場合、個体数の増減は、差し引き+6.4となり、540%の増加率となります (3)寿命が12年の場合 オスとメスのペアが、それぞれ12年間生きるとし、3歳から繁殖個体群に入ると仮定すると、12年間の後半9年間が繁殖可能時期となります。繁殖成功率を70%とすると、その間にヒナを無事巣立ちさせることのできるのは約6.3回(約13羽=12.6羽)ということになります この場合、個体数の増減は、差し引き+10.6となり、1106%の増加率となります こちらも、かなり荒っぽい計算で、他の要素などまったく勘案していませんが、こんなものだろうと思っています。個人的には、オオタカの野外での寿命は、体長や体重から考えても、(1)と(2)のケースの中間くらい7年前後だろうと想像しています。また、巣立ち後の生存率をまったく勘案していないので、増加率が100%というのは、計算上だけのことであり、巣立った個体がすべて繁殖個体群入りすることは考えられないので、「巣立ち後の生存率」はかなり低いものであると、想像できます。実際の巣立ち数は2を越えているだろうし、繁殖成功率を60%と低く仮定しても、7年生きるとすると、巣立ち数は8.2となりますので、「巣立ち後の生存率」が、24%で増減はおおよそゼロになり横這いとなります。また、30%と仮定すると、個体数の増加率はプラスに転じます いずれにせよ、オオタカについては、「巣立ち後の生存率」は、25〜30%くらいではないかと想像をしています イヌワシとオオタカを比べると、1羽のヒナの重みや、1回の繁殖の重要さの比は、比べる事ができないくらいイヌワシの方が、重要であろうことは想像に難くありません 結局のところ、何が言いたいかというと、このようなことを正確に理解していないと、正しい保護思想(重要性の順序づけ)も生まれてこないのではないのかと言うことです ですから、少々野蛮な考えになるのかもしれませんが、オオタカのヒナや成鳥などを捕獲して、さまざまな調査や研究に利用したとしても、大勢にはけし粒ほどの影響もないだろうということが予想されます。それとは逆に、イヌワシなどの個体数が少なかったり、繁殖成績が低いものは注意が必要とされることは、あたりまえのことです いずれにせよ、現在は、種毎の大まかな【繁殖成績】くらいしかわかっていません。これからは、繁殖成績だけではなく、【個体の寿命】・【巣立ち後の生存率】あるいは【繁殖個体数】・【繁殖予備個体数】などを明らかにしていくなかで、種としての評価(絶滅危惧度合いの判定)をしていくことが、詳細な生態の調査研究とともに、求められている一つではないかと考えています |
2002.9.20 OPEN |