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 ここでは、猛禽類の保護について私の私見を述べさせてもらいます。猛禽類の生態的な地位における重要性は、ほとんどの人において異論はないだろうと思います。ここでは、どこにでも書いてあるようなことはほおっておいて、冷静に考えて『猛禽類の保護』がどのような形で実現されるべきか? 現実を踏まえてそのあるべき姿を見出していこうと考えています

保護すべき種の選定

時間軸を考える・目標を設定する




 最初にも書きましたが、種毎と地域個体群(あるかないかわかりませんが)毎の動態の把握が必要になっていると考えております。種によっては、地域個体群ということではなく、生活パターン毎に分け、動態の把握をする必要があるかもしれません。
 具体的には、ハヤブサ・チョウゲンボウ・ツミなどのように、旧来の営巣地に固執しているタイプと、新しい生息環境に住みついているタイプがある場合などは、地域個体群という考え方よりも、生活パターンなどで区分するほうが、正確な場合もあるかもしれません。
 また、イヌワシでも日本海性気候・内陸性気候・採草放牧地依存タイプ別にわけるなど、その種が持つ環境特性を理解した区分に分けることが必要になるかもしれません。いずれにせよ、旧来のような「そこに生息している個体の保護」一辺倒では、どうにもならないことは明白です。
 「種の保存」とはどういうことなのか?・・・・・まず、ここを先に議論し、その後、種毎の現状把握→保存すべき種の選定→圧迫要因の究明→圧迫要因の除去・生息環境の創出・・・というプロセスで進められ事が、本来のプロセスではないかと、考えています。

 では、具体的なプロセスについて説明しますと

1.種毎の現状把握について

 一番大きな問題として、種毎の分布や個体数を把握するのに、膨大な時間がかかることでしょう。この問題につきましても、大型猛禽(イヌワシ・オジロワシ・クマタカ・ワシミミズク・シマフクロウ)、稀少猛禽(キンメフクロウ)、隔離分布猛禽(オガサワラノスリ・ダイトウノスリ・カンムリワシ・リュウキュウコノハズクなど)、また草原棲の猛禽(ハヤブサ・チョウゲンボウ・ノスリなど)は、比較的簡単に生息数や分布は把握できると思います。
 それに対して、森林棲の猛禽(ハイタカ属)などは、生息数を正確に把握するのはほぼ不可能なため、営巣環境や生息環境の分布状況などから、判断することになるかもしれませんが、それはそれで、仕方がないと思います。おおよその生息数を算出する必要はあると思います。
 種毎の地域個体群別、あるいは生息環境タイプ別の個体数及び分布を把握しながら、併せてその個体群毎の動態(増減)をも掴んでいかなければなりません。
 イヌワシで例えて説明しますと、日本海性気候に属するタイプのイヌワシは安定して生息をしている。採草放牧地依存タイプは少々減少している。内陸性気候タイプは大幅に減少している。そうして種としての全体では斬減傾向にある・・・・・というような、緻密な動態把握が必要になります。

2.保存すべき(保護が必要な)種の選定

 1の段階で、種毎及び生息タイプ別(あるいは地域個体群)の現状把握を済ませた後には、どの種を保存すべきかという問題になってきます。当然の事ながら、種として選定されるということだけではなく、ある種の中の特定な生息タイプのみを選定する場合も出てくるでしょう。今までのように、何もわかっていないのに、なんとなく種を選定するというような馬鹿げたことはしないほうがよいでしょう。世間に混乱を生じさせたり、正確な自然保護思想の啓発の邪魔になるばかりですので、データに基づいた適切な評価が求められるところです。

3.圧迫要因の究明

 2の段階で、保存すべき種または種のタイプを決めた場合に、なぜ、どのような理由でその種やタイプ(あるいは地域個体群)が減少をしているのか、ということを究明しなければなりません。生息環境が減っているからなのか、営巣場所が減っているからなのか、餌が減少しているからなのか、重金属汚染などの生理的な要因からなのか、越冬地の越冬環境の悪化によるものなのか・・・・などなど
 種や生息タイプ別に応じて、それぞれ減少要因を解明しなければなりません。

4.圧迫要因の除去及び生息環境の創出等

 3により、種やタイプ別の減少要因が明らかになった場合は、それらの圧迫要因を適切な処置方法で除去することが必要です。営巣環境や生息環境が失われていることが原因の場合には、営巣環境や生息環境になりうる場所(環境)を、新たに創出してやるということも必要になるかもしれません。


 今の日本の社会状況や、これからの社会環境を推測すると、森林施業の方法(内容)を、これから真剣に考えていく時代になってきたと、考えています。開発行為などは、種や自然環境に与えるインパクトは、たいしたことはないのです。一番重要なことは、『林野行政』なのです。
 日本の猛禽・自然などの将来は、この『林野行政のあり方』一つにかかっているのです。



 ここ数年、環境省(旧環境庁)で出した「猛禽類保護の進め方」のガイドラインのおかげで、日本中でとんでもない悲劇が繰り返されています。しかし、ほとんどの人達がその悲劇に気がついていないという現実の方を、僕はうれいています。
 僕がなぜ「悲劇」と呼ぶのかを少し書きますと

 1番目の悲劇は、ご承知の通り、イヌワシ・クマタカ・オオタカだけが守られるべき種であるというような定義をされていることがあります。
 なぜこの3種だけなのか?・・・・・誰も答を出してくれません。ただガイドラインに出ているだけ・・・・・というのが、事業者側・保護側問わず返ってくる答えです。子供じゃあないのだから、いいかげんにやめてほしいですね。

 この部分が、ガイドラインが示されたための一番の罪の部分でしょう。なぜ、罪の部分かといいますと、一番の間違いは、種の選定にあるのではないでしょうか。前回書いたとおり、僕は守るべき種やタイプを選定するのにあたり、生息数と動態を把握する必要があると考えているからです。
 確かに、時代の要請とはいえ、もう少し慎重に運ぶべきものではなかったのだろうか、というのが、僕の印象です。

 2番目の悲劇は、3種だけが注目される猛禽というレッテルを貼られ、他の猛禽や自然は、ほとんど無視をされているという現実でしょう。これも大きな問題です。
 猛禽にだけ注意を図るということで、他の野生動植物種はまったく無視されています。確かに、このガイドラインは、猛禽3種だけのガイドラインのため、他の野生動植物種に触れる必要はないのかもしれません。しかし、本当の自然保護というものは猛禽3種を守るのが目的ではないのです。日本全体が猛禽3種を守ることが自然保護に繋がるというような、幻想というか魔術にかけられてしまったような感じがします。これは、ガイドラインの制作者ではなく、受ける側の問題なのですが、自然保護のための体系的な政策がなされていないことにも起因するものであると考えています。

 3番目の悲劇は、生態がまったく違う3種と、開発行為の内容(性格)がまったく異なる多種の事業を一つに捉えてしまっていることです。
 イヌワシとオオタカを比べてみれば一目瞭然です。草原棲と森林棲の猛禽の代表種の両種です。営巣の習性もまったく違うし、狩りの習性もまったく違います。土地利用の重要度などにいたっては、較べる比もないくらい違います。これを同レベルで評価するというのには、少し無理があるのではないでしょうか。
 開発行為の内容の違いについても同様です。例えば、ダムを建設するということと、道路を建設するということでは、改変される環境の質や、影響を受ける野生動植物種がまったく違います。その根本的な部分についても、まだまだキチンと整理されていないような気がします。
 なお、この部分につきましては、いつか整理をして考えを詳しくお伝えするようにします。

 4番目の悲劇は、僕がうれいている現実についてです。簡単にいうと、わかっている人は、既にわかっているのですが、大部分の一般の人は1〜3の事についてはまったく知らないし、へたをすると自然保護の現場にかかわっている人すら知らない、よく理解されていない事につきます。
 既に、間違ったことが常識として一人歩きしてしまっていることですね。このような一般から常識とされていることを、ひっくり返すことは容易ではありません。まず数年では不可能でしょうし、下手をすると、このままの状況で進むかもしれません。しかし、こればかりは、どうしようもありません!

 罪の部分だけを強調してしまったようで・・・・・別にあら探しをしているわけではありません。少しでも、よくなるようにということで、僕なりの主張をしているだけです。

 さて、次には功罪の
功の部分についても、少し触れておきましょう。ガイドラインが果たした役割でもいくつかの良かった面もあります。一番大きいのは、なんといっても日本中の人の目が3種の猛禽の存在を知ったということにつきます。また、存在を知ったと同時に、守られるべき鳥であるということを知ったことでしょう。
 ここ数年間の間に、もっとも有名になった鳥達でしょう。コウノトリ・トキ以来ではないでしょうか。この部分での果たした功績は非常に大きなものであると思います。たぶん、自然保護団体などが束になってかかっても、このようなPRはできなかったことでしょう。宣伝する費用などを計算すると、もの凄い金額になることでしょう。そういう意味での効果は、非常に高いものであったことと考えています。



 最後に、この件に関する僕の考えを少し

◆行政レベルの話になってしまい恐縮なのですが、例えば各都道府県にはそれぞれ「○○県自然保護審議会」なんていうものが必ずあり、そこで、自然に関する審議ことや、環境アセスメントに関する審査が行われたりしています(違うところもあるかもしれませんが・・・)。猛禽に関する事を審議したり審査するのに、審議会の委員に猛禽のことを理解している人がいなかったりなんていうことはザラにあります。ごく普通の出来事です。これは、国においても、そういう傾向は同じくあります。
 これでは、橋脚専門の設計家にダムの設計を依頼するようなものでしょう。あるいは、生理学の専門家に、生態についての講演を依頼することと同じです。依頼する方もする方だし、依頼されて受ける方も受ける方です。
 この問題がさまざまな弊害をもたらしていることは、皆さんすでにお気づきの事と思いますが、このことも、なかなか解決する問題ではありません。幸いなことに、少しずつではありますが、この傾向も解消されつつあるように感じますので、将来的には、キチンとした保護政策の立案がなされていくこととは思いますが・・・・・・・

  


  



            
2001.12.31 OPEN
2002.2.1 RENEW