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◆ 作家のこころ




 人の持つ本性として、自分と共鳴するものを欲することがあると思う。自分と共鳴するものを探すというのが、人の行動の原点のひとつになっている気がする。
 人にたいして興味を持つ、いろいろな人と広く接するというのは、そこからなにかを得ようという以外に、自分と同じ価値観を持つ人を探し、自分の支えになってもらいたいと思っていることではないか――。
 どんな人でも潜在的にそんな意識があるように思える。そして、それはたとえば「人間嫌い」を自認する人に特に強く働くものなのかもしれない。アクが強く人と馴染めない、人と共通のものが少ない。そんな、一見、人との接触を好まないように見える人に限って、内面では自分を理解してくれる人を強く求めている。
 人間付き合いのよい、誰からも好かれるタイプの人なら、日常生活からそんな欲求が満たされるかも知れない。
 でもそうでない人達。そんな人達は自分の殻にこもるか、そうでなければ自分から広く発信するようになる。自分に合う人を探すのではなく、自分をアピールして、見えない壁の向こうからの返事に期待する。例えば、文章というかたちで。
 文字に自分を託す。たとえ返答がなくてもいい。発信したときから、「姿は見えなくともこれに共鳴する誰かがいるに違いない。また今の時代には理解されずとも未来には誰かがわかってくれるにちがいない」、そう信じる。
 自分を外に表現するということは、そういうことなのではないか。
 作家、俳人、画家、音楽家、その他アーティストと呼ばれる人達。人々から評価され、今は幸福そうに見える人達でも、案外その始まりは孤独に対する打開策だったのかもしれない。
 普段の生活で、自分を理解してくれる人に囲まれている人は、あえて自分を表現しようなんてしない。そんなことをする必要がないから。
 周囲に話しかける人がいないとき、そんなときに創作が生まれるのかもしれない。






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焚き火のまえで 〜山旅と温泉記
by あきば・けん
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