秋風が立つころ

H13.8.22(水)
とちぎ読売(山想記)掲載


 残暑とは名ばかりの、盛夏をちょっと過ぎただけのこの時期、高い山では秋風が立ち始め、夏山の終わりを告げる。 年によって多少の差はあるが、寒気が入れば初霜、ややして初雪、確実に冬に向かう。 とは言え、依然として天気が良ければ高山でも半袖で歩けるような暑い日が続く。 春と秋に天候に起因する事故が多いのは、こんな極端な変化を知らず、下界で言う”春”又は”秋”と単純に季節を捉えてしまうことが原因では無いかと思う。 山に慣れてない方に解ってもらうために、「山には下界で言う春や秋は無く、夏と冬が交互に来て季節が変わるのだ」と言う話をする。 極端な時には僅か数時間でこの変化が来る。
 もう一つこの時期に考慮しなければならないのが台風で、周期的に日本列島を襲い、東にぬければ去り際に寒気の土産を置いて行く。 でも、この周期を巧く捉え、間の晴天をつかめば、じつに快適な山行が楽しめる。 秋風が立っても、残雪が融けたばかりのところでは春の花も認められ、夏の花は言うに及ばず、秋の花も。 ナナカマドも色づき始め、木の実も食べ頃、イタチや熊そして鳥達の領分にお邪魔してちょっとお裾分けに預かる。 この時期何より好きなのは、紅葉の見頃にはまだ間がある為、登山者も少なく実に静かな事である。 短い夏に咲き競う草花の息吹もなく、穏やかな感じに包まれる。 行く夏を惜しみつつ、静かに山と向き合えるのが何ともいえない。
asayake 数年前に家族山行でこの時期の白山に出かけた。 前年も同じ山を計画し出かけたが、途中で車が故障。 あえなく日光止まりの夏休みとなった出直し山行だったのだが、その年も登山口に着く日に台風と鉢合わせの予報・・・。 でも「巧くすれば台風一過の好天か?」と期待半分で取りあえず出かけた。 予想通り台風は上陸するとスピードを増し、アプローチの途中で嵐に遭遇した。 パーキングで仮眠しながらやり過ごし、まだ少し吹き戻しの残る中を登山口に向かったが、今度は取り付きの林道が点検の為通行止め。 アクシデント続きだが、ここまで来てしまえば焦っても仕方がない。 予備日を前倒しし、永平寺や東尋坊など周辺の観光と相成った。 図らずも、山上の落日ならぬ、日本海の夕陽を楽しむ幸運を得ることとなった。
 翌日からの山行は言うまでもなく快適なものとなり、南竜ガ馬場のテン場で、朝寝ぼけ眼でテントから這い出すと、木製のベンチが霜で薄化粧、まだ八月だと言うのに・・・。 煩い子供達はまだテントの中、妻と二人、朝焼けの秋雲をバックにコーヒーをすすり、珠玉の一時を楽しんだ。
 以前は休みの都合で、図らずもこの時期に贅沢な遊びが出来たが、ここ数年休みがあわない。 混雑したお盆の山から戻って一息ついた頃、秋の雲を観ながら、「何時の日か又静かな山に・・・」と想いを馳せる。

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