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『猛禽類とは』などという見出しですが、このページでは、私の考えている『猛禽像』なるものを、さまざまな観点から見た猛禽類について紹介していきたいと考えています


造巣活動について

生息域で分ける分類と渡りなどについて



種間関係について

 「ツミが市街地に進出しだしている」というような報告がなされてから、すでに10数年が経過しようとしています。ここでは、このことについて、少し考えてみたいと思います

 「ツミが市街地に進出している」ということは、事象としてはまったく間違いということではなく、小さな寺社や学校、はては街路樹みたいなところでも繁殖(営巣)するということが、すでに知られていますが、ここで問題になるのは、「なぜ、市街地に進出してきたのか?」ということなのです

 「山野に餌となる小鳥が少なくなったから」・「市街地の方が安全であるということを、ツミが認識し始めたから」・「市街地の方が餌動物が多いから」などなど、さまざまな理由が考えられているようなのですが、はたして、そのような理由からなのでしょうか?

 オオタカの項でも若干触れているのですが、日本における森林(植林地)は、樹齢や植栽密度を見てみると、現在、その大部分がオオタカの生息(営巣)に適した森林になっています。伐期令である50年生前後を迎えていて、このような森林が、オオタカの営巣林となっています
 では、この森林が、20〜30年前は、どのような森であったか考えて見ることにします。そうすると、これらの森林は30年生前後の森林であったはずで、そのほとんどは、オオタカが営巣できるような森林ではなく、ハイタカやツミの営巣に適した森林であり、事実、ハイタカやツミがたくさん営巣していました
 しかし、歳月を重ねることにより、これらの森林も、植林木が大きくなったり、除間伐が行われたりすることにより、少しずつオオタカの営巣に適した森林へと変化していき、現在、オオタカが営巣しているという現状なのです

 さて、ここで重要なことは、オオタカとツミとの種間関係を考えねばならないことにあるのです
 ハイタカやツミの生息域(営巣地)であったところを、オオタカが奪ってしまったため、ツミは、仕方がなく市街地周辺へ分散せざるを得なかったのではないのか、ということなのです。つまり、「ツミの市街地進出」とは、積極的にツミが進出をしたということではなく、オオタカの進出により、今までの生息地を追われたことの結果であり、このことこそが、オオタカとツミとの種間関係ということなのです

 現実は、すべての森林が同じ令期ではなく、さまざまな令期の森林であることから、ハイタカを交えてのもっと複雑な関係であることは言うまでもありません
 すべての植林地が50年生前後の林であるはずもなく、現在でも、ハイタカやツミの営巣に適している若齢林はある程度残っています。ただし、このような場所(環境)は、ハイタカとツミが争ってその環境を奪っているはずですから、上位種であるハイタカが優先種になると考えられ、そのような環境にも生息できない(あるいは、ハイタカにも追われた)ツミが市街地へと、営巣地を広げていると考えた方が自然だと思います
 もちろん、ツミやハイタカにとっての競合種は、オオタカのみならず、ノスリなども若干はあてはまるような感じもするのですが、もっとも種間関係が及ぼしているのは、オオタカとの関係でしょう

 オオタカの営巣地周辺で、ハイタカやツミの営巣をあんまり見かけることはありません。なかには、このことを、いわゆる「棲み分け」と勘違いしている人がいるのですが、これは、棲み分けという理論ではなく、ただ単純に生態的下位種であるハイタカやツミが、オオタカの営巣地周辺に営巣すれば、ほぼ確実に狩られてしまうからであって、ハイタカやツミが、オオタカから逃避(危険回避)をしているだけではないのかなと考えています

 もちろん、この種間関係というのは、ハイタカ属だけに見られる現象だけではありません
 「イヌワシとクマタカ」・「イヌワシとトビ」・「イヌワシとノスリ」・「クマタカとオオタカ」などというように、ここに挙げただけではなく、たくさんの種間関係が存在します(もちろん、同種間のさまざまな関係などもあります)。
 このような種間関係を、正確に理解しておくことが、猛禽や自然を理解する事には非常に大事なことの一つなのです
 そのためには、ある特定の種だけを観察していたのでは、このことは見えてきません。幅の広い視野を持って、さまざまな事象のすべてを把握することが大事になります
 とは言いながらも、では、『どのようにして対象種を見ることが大事なのですか?』というようなことを、しばしば尋ねられるのですが、これこそは、一口で簡単に言い表せないものなので、いつも表現に窮してしまいます
 そこで、今回は参考になるかどうかわかりませんが、事例を挙げながら、種間関係を把握するために注意すべき猛禽観察時のポイントを2点ほど記してみます

◆ケース1
 「クマタカが、生息地から普段はあまり使われないような場所に飛び去る」というような行動をしたと仮定します。このような時に重要なことは、望遠鏡でいくらクマタカだけを見ていても、クマタカの行動の意味などはわかるはずはありません。おかしいなと思ったら、それを察知して、クマタカの飛んでいく先や、飛んでいく反対の方向を見なければいけないのです
 ひょっとすると、飛んでいく先に別のクマタカがいて、追い出しに飛んで行った(テリトリーの防御等)のかもしれないのですが、望遠鏡で飛んでいるクマタカだけを追っているうちに、侵入クマタカが逃げ去ってしまったのでは、結局のところ、何を目的に飛んでいったのかという重要なポイントを見落としてしまいます。あるいは、反対の方角からイヌワシが飛んできたのかもしれません。それとて、クマタカだけを望遠鏡で追っていたのならば、イヌワシが侵入してきたことすら、わかるはずはなく、イヌワシとの種間関係が見えてこないとともに、クマタカが逃避(回避)していたという行動の意味もわからないのです

◆ケース2
 「イヌワシとトビが遭遇した」とします。これも同じで、望遠鏡でイヌワシだけを追っているのでは、トビとの関係を見る(知る)ことができません。トビがどのような行動をとるのか?・・・・・が、イヌワシとトビの関係を見るポイントとなります。イヌワシがトビなどの猛禽を狩るときには、相手より高いところから急降下して捕獲します。これは、オオタカなどのように追跡して捕まえることはできないからなのです。相手よりも高空に上がることがポイントとなります
 ですから、トビなどと遭遇した場合に、イヌワシが旋回上昇する行動を見せたときには、この時点で、完全に狩り行動に移っているのです。逆に、トビだけが旋回上昇をすることもあります。これは、イヌワシに捕獲されたくないために、トビが自ら回避する行動なので、このような行動が見られるだけで、この地域に生息しているイヌワシは、トビを狩っていることがわかるのです。もちろん、イヌワシとトビが同時に旋回上昇をする場合もあります。このような場合は、イヌワシの方が途中であきらめてしまうことがほとんどで、トビは逃げることができるのです

 (余談ですが、逃げることを知らない幼鳥や若鳥が犠牲になるケースが多いです)

 対象がノスリなどの場合は、彼らは猛然と森林内に逃げ込みます。この行動も、イヌワシの捕獲から逃れようとするノスリの回避行動(防御行動)の一つです
 いずれにせよ、このような場合でも、イヌワシだけを望遠鏡で見ていたのでは、このような他種との関係など、まったく理解できるはずはありませんし、また、行動の内容(意味)を把握することもできません



 もちろん、この2つのケースだけではありません
 猛禽同士でも、他にさまざまな接点が生じるケースがあるのですが、これは、地域に応じて生息する猛禽種や生息密度等が違いますので、一概に書き示すことはできないのですが、基本的には対象種だけを望遠鏡で追っているのでは、他種との関係は、なかなか見えてこないと言うことだけは、おわかりかと思います
 イヌワシやハヤブサなどが谷などで急降下すれば、その先にいるであろう餌動物を見ることがなくても、狩りをしているのだろうくらいは、誰しも理解できるのでしょうが、そのように代表的な行動だけがわかるのだけでは、真の意味での観察眼が身に付いているとは思えません
 常に、注意深く観察して、平時と違うような行動や、移動などが見られたり、他種と遭遇したり、近くであれば視線の先であったりと、さまざまなことに気を配りながら観察をし、望遠鏡で見ている時でも、時には双眼鏡に持ち替えて観察をしたり、観察対象種のみではなく、出現した非観察対象種を観察したりと、臨機応変に対応することが大事だと思います

 このように、注意深く観察をしていくうちに、猛禽の新たな一面や、他種との関係なども、徐々に理解できてくると思われます








2002.11.1 OPEN