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山梨県の生息状況・隔年繁殖について

クマタカの営巣地とその保護について
 クマタカの営巣地あるいは営巣環境については、巷間さまざまなことが言われています。もちろん、このようなことはクマタカだけではなく、イヌワシやオオタカなどについても同様なのですが、果たして、言われているとおりなのかどうか? 少し考えてみたいと思います
(折に触れて、今回の内容と近い事を書いたりしているかもしれませんので、重複するところもあるとは思いますが、その場合はお許しください)


 さて、クマタカの営巣条件としては、次のような事がさまざまな書物に書かれていたり、一般的にいわれているようです


@急傾斜地であること

A(針葉樹の)大木に架巣する


 そうして、「急傾斜地にある(針葉樹の)大木に好んで営巣する」などと考えられています。もちろん、地域によっては、他にも言われている事があるのかもしれませんが、概ねこんなところでしょう

 では、はたしてこれらのことが正しいのかどうか。僕なりに検証していきたいと思います
 まずは、@の急傾斜地を選択しているという条件についてです。クマタカの営巣地を調べてみると、恐らく80〜90%くらいは、この「急傾斜地」という条件を満たしている事と思います。そうなると、確かに「急傾斜地」という条件を選択しているようにも思われます(もちろん、この「急傾斜地」という定義についても何度以上を急傾斜地と定義するのか? という問題もあるわけなのですが、ここでは、特にそのような細かい事にこだわることなく、それぞれの主観にお任せするということにし、普通に見た感じでの急斜面と思われるだろうという程度の斜面を、便宜上「急傾斜地」と呼ぶことにしています)

 次にAの(針葉樹の)大木に営巣するという条件なのですが、こちらの方も、恐らく80〜90%程度は、この条件にあてはまるものと思われます(この大木という条件についても、直径で何cm以上のものを大木とするのか。という事もあろうかと思いますが、このことについても、ここでは特に定義することなく、かなり大きくて太そうな木を「大木」と呼ぶ事にします)

 このように、一つずつみてみると、何らおかしそうにも感じないし、クマタカの営巣条件については、この2つそれぞれを満たしているように思えます。僕も、数少ないこれとは違う事例を取り上げて反発するつもりもありません。では、何が言いたいかという事になるのですが・・・・・
 ここで、考えなければいけないのは、「大木」というキーワードです。なぜこの言葉がキーワードになるのかと言いますと、まず最初に考えなければならないのは、「大木の分布」についてです。つまり、『そのクマタカが生息する地域において、急傾斜地・緩傾斜地・平地等の森林において、同程度(密度・面積等)で大木が分布しているかどうか?』という事を検証しなければなりません。『急傾斜地・緩傾斜地・平地等の森林それぞれが同じ植生を持ち、等しく大木が分布しているかどうか?』ということを考えなければならないのです。ここまで書けば、既におわかりの事と思いますが、ほとんどの場合は、大木が分布しているところなどは急傾斜地に偏っている事がわかるはずです。もちろん、すべての地域にそのままあてはまるとは思いませんが、大部分の地域では、クマタカが営巣できそうな大木や大木を含む森林は、ほとんどの場合急傾斜地にしか分布していません
 このような現状の中で、「急傾斜地」という言葉が持つ意味は、はたしてあるのかというのが、僕が疑問に感じている点なのです。つまり、クマタカは、T「急傾斜地を選択しているのか?」 はたまた、U「大木を選択しているのか?」、V「急傾斜地にある大木を選択しているのか?」ということで、ニュアンスは微妙なのですが、内容は大きく違ってきます。キーワードは大木であると書きましたが、問題は、この大木についての考え方なのです。もし、急傾斜地だけではなく、緩傾斜地や平地に、同じような大木(大木のある森林)があるとすれば、どうでしょうか? 考えてみてください!
 
 いずれにせよ、このことについては、数々の事例の積み重ねから導きだされている事で、人間の一方的な想像のうえからでてきたものです。逆にクマタカの側から考えてみると、急傾斜地でなければならない理由がまったく見つかりません。ときおり「親が入出巣する時に、急傾斜地であるほうが入出巣し易い」とか、「幼鳥が巣立つ時に急傾斜地の方が、上昇気流を捉えて飛行しやすいだろう」とか聞いたりしますが、クマタカというのは、入出巣する際には、空中から直接入出巣するというよりも、ほとんどの場合が、森林内を伝わってきながら入出巣しますし、幼鳥の巣立ちに至っては、巣立ち後すぐに飛行する事はなく、ほとんどの場合は、森林内を数十mくらい枝伝いに移動するだけで、イヌワシのように巣立ち後すぐに飛翔の訓練をする事など、まずあり得ません。他に考えられるとすれば、急傾斜地であることにより、外敵の侵入を防ぎやすいというくらいでしょうが、これについては、ほとんど説得力が無く、まあ、あり得ないことでしょう
 ですから、僕は「急傾斜」という条件は、クマタカには必要条件ではなく、あくまでも「大木」だけが、必要条件だと考えているのです

 現在の山野を見渡しても、大木の残っている森林は、急傾斜地や亜高山にあるくらいです。それで、クマタカは、営巣するために 『大木を求めていったら、それらが残っているのは急傾斜地だけだった』 ということだけで、「急傾斜地で大木のある場所」を選択しているのではないのだと


 結局のところ、@「急傾斜地」とA「大木」ということを、それぞれ別に考えてはいけないという事なのです。両者の事をリンクさせながら考えていかないと、真実は見えてこないのではないか・・・という事が重要ではないかと考えています。結果的に見れば、「急傾斜地に生えている大木」に営巣している場合がほとんどなのですが、このことは、あくまでも結果論だけであって、クマタカ営巣条件の真実ではないという事です(僕だけが思っているのかもしれませんが・・・)
 

 では、なぜ急傾斜地にだけ大木が残されているのでしょうか?

 このことを知ることも、猛禽や自然を知ることや、保護を考える上でも大きな意味を持つことと思っています。結論から先に申し上げますと、 
森林法における保安林制度』 の影響があるからなのです。この保安林制度というのは、かなり厳しい規制内容になっていて、保安林機能の内容によっては、樹木を伐採することがほとんど不可能な場所すらあります。水源涵養保安林・流出防備保安林・風致保安林・保健保安林・なだれ防止保安林などなど、全部で17の機能を持つ保安林が設定をされていて、特に『土砂流出防備保安林』『土砂崩壊防備保安林』という機能を有する森林については、国土保全のためにも厳しい制限が設けられている保安林でもあります
 現在の日本を見てみると、クマタカが好んで営巣しそうな大木がある程度の集団で残っているところは、そのほとんどが保安林なのです。『急傾斜』な山地の森林については、そのほとんどが前述した『土砂流出防備保安林』『土砂崩壊防備保安林』に指定をされている森林なのです(地域の森林の所有形態の多岐さによっては若干違ってくることもあります)。急傾斜な地形であるから、森林を伐採してしまうと、表土の流出、土砂の流出、崩壊・崩落、土石流などの危険な災害が起きてしまいますので、大袈裟なことを言うと、日本という国がある限り、伐採されることなどは普通考えられません。このような機能を持つ森林ですので、古くから伐採されることがなく、今でも大木が残されているようになっているのです
 さて、実際の山を見てみると、クマタカが営巣している森林が、保安林の分布と結構重なり合っていることがわかります。また、大木の残っている森林についても、ほとんどが保安林と重なっていることがわかります。つまり、クマタカの営巣地(森林)は、
保安林によって提供されていることになるのです
 このことがクマタカを知ることでも、保護を考えるうえでも大事なことだと僕は考えています。正確にはわかっていませんが、山梨におけるクマタカの営巣地は、90%以上が保安林内です。正確に調べていけば、恐らく、限りなく100%に近い数字になるのではと思っています。このことは、本県が急峻な山岳県であるということが大きな要因であろうことは想像がつきますが、全国的に見ても同様な傾向であるはずだろうと考えています。地域によってさまざまな事情があり、多少は違ってくると思いますが、全国レベルで見ても、クマタカの営巣地は恐らく90%以上が保安林内であろうと考えています

 このような森林(保安林内)を主な営巣場所としていると、簡単に開発されるようなことは、ほとんどありません。考えられるのは、ダム・道路・送電線などの公共的な開発行為くらいでしょう。しかし、ダム・道路・電力などの需給をを考えると、今後新たな需要が起こるとはとうてい考えられず、保安林制度がある限りクマタカの営巣地は、開発行為に直接さらされることは、ほとんどあり得ないであろうと考えられますので、このまま保護対策など何もせず、ほおっておいても「種」というレベルでの保護については、僕はまったく心配をしていないのです



 


 


『種毎の解説』


          
2003.8.11 OPEN