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ここでは、イヌワシの生態等について、観察を通じ感じたことを書いてあります。一般的な本や図鑑に書いてあることは極力避け、なるべく新しい視点で記していきたいと考えています |
親子で飛翔するイヌワシ photo by higuchi |
イヌワシのハンティングについて |
イヌワシについては、いくつかのハンティングパターンがあることが知られています。ここでは、ハンティングの方法や、環境などについて少し書いてみます ○開放地におけるハンティング ここでいう開放地とは、自然草地・雪崩地・伐採跡地・採草放牧地・崩落地などの樹木がほとんどなく、草本性植物で覆われた環境を対象として考えてみます このような環境のなかでは、イヌワシはノウサギやヘビを中心とした中型以上の鳥類(ハト大以上の鳥類)や、中型獣(テン大以上のほ乳類)を求めハンティングにやってきますが、やっぱりメインは、ノウサギであり、地域や季節によってはヘビとなったり、あるいは、山岳地における伐採跡地や崩落地においてはヤマドリであったりします。 このような環境の場所においては、イヌワシは次のようなパターンで狩りを行います ・高空を飛行しながら、獲物を探餌し、獲物をみつけると急降下してアタックする この場合の高空とは、開放地より約100m以上の高空を想定しています。この場合は頭(顔)を下に向け、ゆったりと上昇せずに何回も旋回を繰り返したり、移動するにしてもゆっくりと下を見ながら移動する場合が多いです。 ・低空を飛行しながら、獲物を探餌し、獲物をみつけると急降下してアタックする この場合の低空とは、開放地より約100m以下の低空を想定しています。この場合は常に頭(顔)を下に向けているわけではなく、左右を見回しながら探餌している行動も見られます。時には小さい沢などにおいて低空を何回も旋回する場合もあります。過去にハンティングに成功した場所などは、特にしつこく旋回しながら探餌を続けたりします。 山岳において尾根や沢の出入りがあるような複雑な地形の所では、一直線に飛行する場合もありますが、図面上のコンター(尾根・沢の出入り)に沿って、沢の部分にくると沢の奥に回り込み探餌するということがしばしば観察できます。 時には、ペアで飛びながら片方がヤマドリなどを追い出す行動である、ペアでの共同ハンティングも観察される場合があります。 ・付近の樹木などに止まりながら、獲物を探し見つけると急降下してアタックする 樹木に止まりながら探餌する場合は、伐採跡地・雪崩地・崩落地・採草放牧地などでよく見られるパターンです。周囲に残る森林の林縁部の樹木や、開放地内に残された樹木や枯れ木などをよく利用し、開放地面を見回しながら探餌をします。自然草地などでは、付近にある岩などに止まって探餌したりします。また、高木がない場合や、広大な開放地の場合などは木の切り株や岩などを利用する場合も多々あります。このような場合は、ハンティングだけの目的ではなく休息や見張りを兼ねての止まりの場合もありますので、きちんと見分けるのには総合的な観察力が必要となります。 ・空中で飛行しながら、飛行中の他の鳥類へのアタック この場合のハンティングの見分け方には少々注意が必要です。なぜかといいますと、直接的にアタックする場合は誰でもわかるのですが、完全に獲物をねらっているのに、獲物もそのイヌワシの行動を察知して、イヌワシのアタックから事前に回避する場合があるからです。こういう場合は、イヌワシもアタックすることをやめてしまうからです。 では、このアタックするまでのパターンを少し紹介します。 イヌワシが飛行中の他の鳥類にアタックする場合は、そのほとんどが、上空から急降下しながらアタックします。そのため、同じくらいの高度を飛行している他の餌鳥類を見つけ、アタックする場合は、自ら旋回しながら高度を上げるようになります。そのイヌワシの行動を見て、回避しようとする餌鳥類はイヌワシにアタックされまいと、同じように旋回をしながら高度を上げイヌワシより下方に位置することを避ける行動を起こします。ねらった獲物がこのような回避行動をとると、しばらくしてイヌワシはアタックをあきらめ、どこかへと飛び去ります。狙った相手が高度を上げない場合は、確実にアタックします。このような餌鳥類の行動は、間違いなくイヌワシからのアタックを避ける行動であるため、実際にアタックしなくてもハンティング行動のひとつと見なしてよいでしょう。僕が観た範囲では、トビやノスリなどがこのような回避行動をしているのを観たことがあります。 また、空中でのハンティングの対象種としては、クマタカを除く他のタカ類・ハト類などが対象となるようです。クマタカを襲うとは思うのですが、いまだかつて観たことはありません。もしかしたらクマタカは、イヌワシと空中で遭遇するより前から回避行動をとる場合が多いので、見かけるケースが少ないのかもしれません。 空中ハンティングで狩られる餌鳥類は、当然の事ながら幼鳥や亜成鳥が多いです。回避するということを知らないものがやられます。 ・森林でのハンティング 森林でのハンティングには、2通りのパターンがあります。一つ目のパターンは森林内に飛び込み林床部にいる獲物を狩る場合です。この場合は中小型ほ乳類が多い気がします。そして、開放地が比較的少ない内陸部に生息するイヌワシに、よく見られる特徴といってもよいでしょう。ひどいところでは(?:表現が悪いが・・・)、かなり密な森林内にも狩りに飛び込むこともあります。特に餌となる中小型ほ乳類がよく利用する水場や塩場などがあるところでは、観察する機会が多くなってきます。 二つ目のパターンは、森林の樹冠部にいるヘビ(アオダイショウ)を狩る場合です。この場合は、ヘビが鳥のタマゴやヒナを食べる5月〜6月が中心でこの時期にしか観ることはできず、森林の上空を通過中にいきなり森林に下降するようなことがあれば、だいたいはこのヘビねらいの狩りになります。 ・沢筋でのハンティング この場合、観察する機会は非常に少ないのですが、イヌワシがよく訪れるような沢筋などを歩いているとヤマドリなどが食われている食痕を見かけます。ときに沢筋の木にパーチしながら獲物を狙ったり、沢筋をゆっくり低空で飛翔しながら獲物を探す姿が見られます。 ・その他 特にハンティングではありませんが、冬期に雪崩・転落・豪雪、狩猟による怪我などで死亡したシカやカモシカ、イノシシなどの死体も食べます。なかなか観る機会は少ないのですが、カラスやトビが先に見つけ食べているものを、横取りする場合もあるようです。この時期の吐き出すペリットを観ると、シカなどの毛が混じっていたりすることからも推察することができます。 以上、簡単ではありますが、ハンティングのパターン的なことをまとめてみました。次には、餌動物の面から、もう少し突っ込んで解析してみると・・・・・ ○開放地(自然草地・雪崩地・伐採跡地・採草放牧地・崩落地などの樹木がほとんどなく、草本性植物で覆われた環境)とひとえにいっても、そのすべてがまったく同じ環境であるわけではなく、地域や地質、緯度・標高、気候・人為要因などによっても、その組成のあり方がすべて違ってきますので、代表的な餌動物がどのような環境を好み、開放地においてどのような分布をしているかについて簡単に書いてみます ・ノウサギ 開放地内でも、身を隠すようなブッシュッ的なところが連続してある場合、比較的開放地に広く分布して生息しているが、ブッシュッ的なところがほとんだ無い伐採跡地などでは、林縁部から20m前後の所にしか分布していません。 ・ヤマドリ 開放地内においてというよりは、ある一定の条件をクリアしていれば、生息していると考えたほうがよいでしょう。そのクリアすべき条件とは2つあり1つ目は、餌となる植物があるかどうかがポイントです。草本ではイネ科の植物が豊富にあること、木本ではマメ科の植物が豊富にあることなど・・・・が、ポイントになるのではないかと思っています。2つ目は、身を隠すことのできるブッシュッもしくは林が必要なことはいうまでもありません。ここで注意していただきたいことは、この部分については、あくまでも僕の想像だけでまだ検証しておりませんので、ご容赦下さい。 ・ヘビ これもヤマドリと同じく餌動物に依存する部分がかなりあります。ですから、開放地全体に比較的広く分布はしていますが、沢や湿地などの水辺環境や林縁部などには、比較的密度高く生息していたりという特徴を持っていますが、開放地全体には生息しております。 以上、簡単に記しましたが、当然の事ながら北海道から九州までの日本のイヌワシ生息地すべてにぴたりと当てはまるものではありません。その地域に生息している多種との関係や植生に応じて微妙に変化していきますので、これはあくまでも目安というように考えて下さい。 |
ワンポイント【重要】 |
結局、イヌワシの『狩り』という行為は、狩られる餌動物の生態を知らなければ、まったくわからないに等しいことだろうと考えています。つまり、イヌワシを観察しているだけでは、『狩り』の全貌は見えてこないということです。なんといっても、餌動物からのアプローチをしなければ、将来に結びつく研究にはなり得ません。 例えば、大部分のイヌワシはノウサギを主食としていますが、ノウサギがどのような植物を好んで食べるのか? どのような植物は食べないのか? また、その好む植物はどのような環境に生育するのか? また、そのような環境を維持するにはどのような管理が必要なのか? あるいは、積極的にそのような環境を創造するためにはどのような施業が必要なのか? 餌であるノウサギを増やすには、そのノウサギが好む植物が増えるようにするのもひとつの手段であるので、真剣にイヌワシの保護を考える上では、上記の事などは明らかにしていかなければならない最低限必要不可欠な研究であることは間違いありません。これは、ノウサギだけのことではなく、ヘビやヤマドリについても同様のことが言えるでしょう。本来はこのような研究に着目しなければいけませんし、このような事象を正確に把握しなければ、保護や保全に直結してはいきません。この保護や保全に関しては、別項で詳しく書きますので、とりあえずここまでです。 不思議なことに、ここまで理解していなければ、大袈裟にいうと「イヌワシの狩り」や「イヌワシの保護について」など語れるはずはないと考えているのですが・・・・・ちまたでは、いろいろと保護・保全策が取りざたされております。 もう一度、イヌワシの保護保全には、どの様なことが本当に必要なのか、正確に考え直す時期に来ていることは間違いありません。 |
2001.9.9 OPEN | |
2002.2.1 RENEW |