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ここでは、イヌワシの生態等について、観察を通じ感じたことを書いてあります。一般的な本や図鑑に書いてあることは極力避け、なるべく新しい視点で記していきたいと考えています


イヌワシのハンティングについて




日本に生息しているイヌワシは、大きく3つのタイプに分かれると考えています。ここでは、生息環境の違い〔主に狩場(ハンティングエリア)〕からこれを分けてみました。日本のイヌワシを真に理解したり、保護を考えるうえでは、非常に重要な要因と考えています


 @日本海側タイプ
この地域に生息しているイヌワシの特徴は、主な狩場を「雪崩地」にその多くを依存しているということが言え、冬期に多雪や風衝により雪崩地や自然草地が形成される地域に生息するタイプです。
○特徴  このような場所は自然にできる(形成される)環境であることから、安定した生息状況が確保されている地域と考えられ、このような地域は当然さまざまな開発等による環境の悪化は少なく、スキー場などのウィンタースポーツなどの開発以外は少なく、植生としてもある程度安定しているとともに大きな変化が少ないことから、この地域に生息しているイヌワシは、ある程度安定した生息状況であるととも日本におけるに本来の生息地ではないかと考えられます
○生息地  日本海側や日本海性気候(いわゆる裏日本性気候)の影響を強く受けて、雪崩地や自然草地が恒久的に保たれている地域に生息しているタイプ、秋田・山形・新潟・富山・石川・福井・滋賀・兵庫などに生息しているイヌワシはこのタイプの代表であろう


 A内陸タイプ
この地域に生息しているイヌワシの特徴は、狩場を「伐採跡地」や「森林限界以上の草地」や「崩壊地・ギャップ・河川敷等」複数の異なる環境を利用しているタイプです
○特徴  場所にもよりますが、その大部分は「伐採跡地」と「崩壊地・ギャップ・河川敷等」を中心に狩りを行っています。このため、「伐採跡地」などを主な狩場にしているタイプなどは、その時々の人間の生産活動(当然林業)に、生息の可能性を左右され、戦後〜昭和40年代のいわゆる「拡大造林期」や、植生がクライマックスに達成している時期などは、このタイプのワシたちの動態は拡大していたり、安定した生息が保たれていたと想像ができますが、林業不振(国産材の低価格化)や単一な植林を続けた林業政策のつけにより、現在では、狩場の確保に大きな障害をもち、今一番減りつつあるタイプであると考えています。内陸性気候の特徴である夏は高温多雨で冬は乾燥する気候は、植物(樹木)の生育には格好の気候となり、ほおっておけば鬱閉された森林に遷移していくことから、イヌワシにとっては本来の生息地にはあらず、人間の生産活動と結びついてこそ生息地としてなりうるが、時代背景により非常に動態の増減が激しいタイプ(地域)であると考えられます
○生息地  日本海性気候の影響を受けていない北アルプス中南部地域や南アルプス・秩父山地・阿武隈山地・関東山地などに生息しているイヌワシがこの代表と考えられます。茨城県・長野県中南部・岐阜県南部・山梨県・栃木県・静岡県・群馬県の一部地域などがこの代表となろう


 B牧草地(採草地)依存タイプ
この地域に生息しているイヌワシの特徴は、狩場を「牧草地(採草地・採草放牧地)」にその多くを依存しているというタイプです
○特徴  このタイプは、「人工的に作られた自然?」の中に生息していると言えるでしょう。Aとは少し条件が違いますが、古く(たぶん明治期からだと思いますが?)は農耕馬や軍馬、戦後は肥育や繁殖牛のための牧草地(採草地)、あるいはいわゆる屋根を葺くための萱を採取する「萱場」として存在した場所を主な狩場として利用していたと考えられ、このような萱場や軍馬の育成のための放牧地などは、あちこちで減少しているが、その代わりに肉牛の繁殖や肥育が盛んになった地域などにおいては、安定してその環境が保たれていることから、それらの地域においては、その肉牛生産がなくならない限り、ある程度は今後の存続も考えられると考えています
○生息地  このタイプの代表的な生息地は、岩手県の北上山地や宮城県の南三陸地域に生息してるイヌワシがこの代表として考えられます。ひょっとしたら九州もそうではないかとも考えています(調査不足のため?です:とりあえず大分・熊本・佐賀などは少し見てきたのですが時間不足のため)


ワンポイント

 当然のことながら、上記の3分類に分けてあるが、気候区分によってきちんと線引きができて分けられるのではなく、当然日本海性気候と内陸性気候の中間型のようなところも存在します。また、内陸性気候の影響を強く受けながらも、採草地などの発達により、AとBの中間型のようなところもあります。しかしながら、イヌワシの生息要因・生息条件・保護管理方法の検討・今後の生息動態予察・などを考えるのにあたっては、日本中のイヌワシをすべて同条件で考えるのは危険であり、適切な保護管理を行う上では、このような「そこにすむイヌワシがどのような狩場に依存しているか?(主な狩場はどこか)」ということが、重要な要因となるものと考えています。
 また、それら生息条件の違いによって、生息密度も当然変化し、@の地域では、ほおっておいても、彼らを取り囲む自然環境(狩場としての)にの変化はほとんどなく、安定した形で植生などは遷移していくと思われ、生息条件はほとんど大きく変化はしていかないであろうと思われる。
 ところが、Aのように、特に[伐採跡地」に狩場の多くを依存しているタイプであれば、「伐採跡地が森林に変化していく中で」そこに生息しているイヌワシはその狩場の多くを失うことになり、最悪の場合は、そこに住むことすらできなくなる場合が考えられ、林業の衰退に伴い伐採地が更新(?)されない現在では、この内陸タイプが一番危険な状態にあることは言うまでもありません。
 Bのタイプについては、多分明治時代以降であろうと思われるが、軍馬の育成のために日本全国に牧場(採草地・採草放牧地)が開墾され、軍用馬が飼育されていた。ところが地域によっては、第2次世界大戦後、急激な木材需要の増大によりそれらの牧場やいわゆる[萱場]など呼ばれていた採草地などが植林化され、今では森林となってしまった。このような中で、林業よりも農業(牧畜・肉牛生産)を重要視していた特定の地域(北上や阿蘇を代表)にのみこのような環境が残り、現在にいたっているものと考えられるのではないか。

 このようなことを考えていくと本来(自然のなすがままにした場合)のイヌワシの日本における生息可能地域は、日本海側のみであると考えるのが自然ではなかろうか。当然内陸部にも少数の生息は考えられるが、これらは、たまたま標高が高く、森林限界があったり、ギャップができたり、断層等などの地質的な影響を受けたりと、イヌワシにとってはプラスの要因がいくつか組み合わさり現在の状況にあると考えています。当然牧場などは人間の生産行為の場であるから、太平洋気候の影響下にある処においては、ほおっておけば森林化するのは火を見るよりも明らかであろう。
 生息密度についても、当然のことながらこの3タイプでは大きく違い、@が一番高くAとBについては、周辺環境に左右されることとなる。これは餌の資源量(現存量)の違いではなく、狩場の多寡(面積・数)が大きく違うからだと考えられる。
 また、同じ日本海性気候の影響下の地域においてもそこにある山(山地・山脈)の形成過程が褶曲山地なのか隆起山地などや、火山の有無(地形・地質要因)、河川の長さや流域面積の違いなどによってもその狩場である雪崩地や自然草地のでき方や面積の違いが生じるので、当然同一な気候の影響下であっても生息条件はまったく同一ではありません。低緯度地域では高緯度地域より植林率・植林面積の比率・山地が形成される過程の違いによる谷密度の違い・傾斜度の違いなどによりその生息条件は大きく変わっていくため、そのような条件にも気をつけることが必要です。

 また、地域差と言うか北海道・本州・四国・九州ではそれぞれ気候や緯度の違いによる環境(自然環境:おもに植生の環境)による違いがあることは言うまでもありません。

 


 



『種毎の解説』


         
2001.2.1 OPEN
2002.2.1 RENEW