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第三章 彼女の反応は……?

 

 

 

 

さて、部活に参加するか。

柊さんには、後で渡せば良いよね。

僕は手に持っていた手紙を、折れないように大事にポケットの中へと入れた。

歩いて美術室に向かう。

(いや、早めに渡しておいた方が良いか……)

後でといって忘れてしまったら大変だ。

ここは柊さんを探そう。

設置し直しって言ってたから、教室付近にいるはず……。

僕は向きを変え、教室方向へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

「あ、いたいた。柊さーん」

案の定、柊さんは3年4組前の廊下にいた。

壁際にしゃがみこんで再設置の作業をしている。

僕が声を掛けると、彼女はこちらの方を向いて立ち上がった。

「どうしたの? 部活に行ったんじゃ」

「そうなんだけど、ちょっと柊さんに用が出来ちゃって」

「私に、用?」

首を傾げた柊さんに、僕はポケットから手紙を取り出して彼女に手渡した。

「はい、これ。知り合いから渡してくれって頼まれたんだ」

これくらいの説明に留めておけば良いだろう。

後は中身を見れば分かってくれるはずだ。

柊さんは僕から手渡された手紙を受け取った。

「手紙? 読んでいいの?」

「うん」

微笑みながら頷く。

柊さんは便箋を丁寧に開け、中に入っていた手紙を読んだ。

「こ、これは……」

手紙を凝視し、驚愕の表情を浮かべる。

続けて柊さんが発した言葉は、僕の想像を遥かに超えたものだった。

「果たし状……!」

「えっ!? 果たし状!?」

そんな馬鹿な。果たし状なわけがない。

いや、一概に無いとも言い切れないが、

さっきの雰囲気的にも、それと時代的にも、

果たし状なんてことは万に一つもないと思うんだけど……。

「だってほら、見て」

そう言って、柊さんは手紙の文面をこちらに向け、読むように促した。

怪訝に思いながら目を通すと、そこにはこう書かれていた。

『今週の金曜日の放課後。校舎裏の桜の木の下で待っています』

「ね? 果たし状でしょ?」

同意を求めるように再度問いかけてくる。

対する僕は内心少し困っていた。

「い、いやこれは……」

確かに果たし状に見えなくもないけどさ……。

ほら、もっと学生らしい解釈があるじゃん。

こう、青春真っ盛りって感じのさ。

何とか察してはくれないかと曖昧な返事をした僕だったが、柊さんは首を傾げる一方だった。

(これは、流石に言った方が良いよね……)

僕の口から言うのは無粋だとは思ったけど、このまま行かせて Ready Fight! されても困る。

何より正一君が可哀そうだ。

せっかく勇気を出したのに、これじゃ不憫すぎる……。

「柊さん。これは果たし状じゃないよ」

「え?」

本当に分からないのか、驚いた顔をして聞き返す柊さん。

僕は最後に一瞬ためらった後、柊さんにその手紙が何なのかを説明することにした。

「それは、ラブレターだよ。柊さん宛ての」

「ラブレター? え、でもここには時間と場所しか書かれていない」

再び文面に目を通しながら言葉を返す柊さん。

僕はそんな柊さんに、落ち着いた口調でこう言った。

「多分、直接想いを伝えたいんだよ。だから、こういう文面なんだと思う」

「…………」

僕がそう説明すると、柊さんは少し驚いた表情を見せてから黙り込んでしまった。

しばし僕達は黙り込む。

多分、これで良かったと思う。後は、この2人次第だ。

「ねぇ、順斗」

「? なに?」

僕がそう返すと、柊さんは僕にぐいっと顔を近づかせてこう問いかけてきた。

その表情は、少し困惑しているように見えた。

「これ、ラブレターなの?」

「そ、そうだよ……多分」

言い切れないから逃げ道を作る僕。

いや、そうじゃない確立なんて、それこそゼロに等しいけど。

というか、柊さん顔近いって……!

「ど、どうすればいいの?」

続いてシンプルに柊さんはそう問いかけてきた。

そう言う彼女の頬はほのかに紅潮している。

僕は優しく微笑みながらこう返した。

「それは、僕に聞いちゃダメだよ。その手紙を宛てた人は、柊さんの返事が欲しいんだから」

「で、でも! 私……こんなこと初めてだから……」

不安そうに僕にすがりついてくる。

僕は柊さんの目をしっかりと見据えて言った。

「大丈夫だよ。柊さんの正直な返事を返してくれば良いんだ」

「正直な、返事?」

「そう、正直な返事。何を心配することもないよ。柊さんの思った通りに返せばいい」

「……そういうもの?」

僕は黙って頷いた。

すると柊さんは手紙に再度目を移してから、顔を少し俯かせてこう言った。

「じゃ、じゃあ……頑張って、みる」

前は、僕が柊さんに背中を押してもらった。

だから今回は僕が背中を押してあげる番。

僕は笑顔を浮かべて、彼女にこう返した。

「うん、頑張って」

 

 

 

 

 

 

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