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第二章 勧誘競争

 

 

 

 

放課後。

午前中で全ての時程が終了し、今は美術室でのんびりとした時間を送っている。

久しぶり〜。私の定位置♪ ん〜やっぱり落ち着く〜

何やら椅子に座って、

目の前の机に体を預けながら、ほんわかとした笑顔を浮かべている。凄く幸せそうだ。

「もう部長。みんな居るんですから、もうちょっと部長らしくして下さい」

あと5分〜

「シャキっとして下さいよ。

今年は何としても、新入部員を手に入れなければならないんですから」

はっ! そうだった……

篠原さんの説得により、ようやく鈴本さんが脱力モードから、気持ちを切り替えたようだった。

と思ったのだが、今度は必要以上にオロオロし始めた。

どうしよう……。勧誘とか何も考えてなかった……。

えーっと、まずポスターを作って、校門前で待ち伏せして……それから、それから――

「す、鈴本さん? ちょっと落ち着いて……」

声を掛けても、その声は鈴本さんには届いていなかった。

頭を抱えて、一定距離を行ったり来たりしている。顔色も随分と青ざめていた。

新入部員……。失敗したら廃部。嫌、そんなの嫌……。どうにかしなくちゃ、どうにか……

何かを呟きながら、教室中を歩き回っていた鈴本さんは、

いきなりその呟く口をつぐみ、同時に歩き回るその歩をも止めた。

「部長?」

篠原さんが心配に思って、鈴本さんに駆け寄った。

何度か声を掛けたり体を揺すった後、篠原さんは僕らの方へ向き直り、こう言った。

「……私達で何とかしましょ」

僕らは黙って頷いた。

 

 

 

「それにしても、本当にどうしようかしら。何かしようにも、時間も人員も足りないわ」

話し合いが始まるや否や、篠原さんは沈んだ声でそう言った。

僕らの学校は、公に勧誘する場を提供していない。

部活側が出来る手段としては、ポスターを掲示するか、

それこそキャッチセールスよろしく、校門前等で勧誘するくらいしか出来ない。

……当然、人数は多い方が効率が良い。

「校門前はもう運動部の人達が占拠してたよ。キャッチはもう期待出来ないかも」

レイ君が様子を見に行ってくれたようで、美術室に足を踏み入れながら、そう僕らに報告した。

やっぱり一等地は早々に取られちゃうよね……。

「じゃあ、ポスター?」

「まぁそれしかないかな」

とりあえず最善と思われるポスター作成に取り掛かろうとした僕らだったが、

篠原さんはまだ悩んでいるようだった。

「ポスター……。いいえ、でも今回は倉崎君が居るから。でも……」

「どうした、篠原。まだ何かあるのか?」

「……なんでもないわ。それじゃあ、早速ポスターを作り始めましょうか」

そうして僕らは、急いで勧誘ポスターの作成に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

それから俺らは急ピッチでポスターを描き進め、

その甲斐あって数日で学校中に掲示することが出来た。

のだが……。

 

ポスターを掲示してから約一週間後。

美術部には未だに新入部員はおろか、見学者すらも来ないという状態だった。

「……来ないな」

「うん……来ないね」

何度このやり取りをしたことか。

重苦しい空気を感じながら、暇を持て余していると、篠原がぽつりと呟いた。

「今年も駄目なのかなぁ……」

そう言う篠原の表情は、とても悲しげで。半ば諦めの入った声だった。

「だ、大丈夫だって。きっと今日は誰か来てくれるはずだよ」

「だと良いのだけれど」

倉崎が篠原のフォローに入る。

しかし、そう言う倉崎の表情も、篠原と同じく沈んだ表情だった。

(きっと今日は、きっと今日は。と言い続けてもう一週間か。

そりゃ落ち込むわな。どうにかしてやりたいが、新入部員だなんて俺にはどうしようも――)

 

プルルルル。プルルルル。

 

「おわっ! すまん、俺だ」

無機質なコール音と、情けない俺の悲鳴が美術室内に木霊した所で、

俺は慌ててポケットから携帯を取り出した。

(ったく、誰だよ。これでふざけた内容とかだったら、覚えてろよ)

俺は通話ボタンを押しながら、迷惑になることを考慮して、少し倉崎達から離れた。

「もしもし」

電話の相手は、どこかで聞いた事があるような渋めの声の持ち主だった。

「もしもし、私だ。遅れて済まなかった」

私? そんな挨拶をする奴は、俺の知り合いにいないんだが。

……いや、心当たりが一人だけ。

「すまん、ちょっと出てくるわ」

俺は携帯のマイク部分を指で抑えながら、走って美術室を飛び出していった。

(どこか、どこか人気の無い所に……!)

「きゃっ!」

「おっと、悪い!」

美術室を出た所で、誰かと接触しそうになってしまった。

とっさの反応で何とかニアミスで済んだが、相手側は大丈夫だろうか?

少し罪悪感を感じながら、俺は人気の無い所を探してその場を走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

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