第一章 262144分の1のクラス替え
美しき花々が咲き誇り、春うららかに陽気な日々が続く今日この頃。 僕らは新たな門出を迎えようとしていた。 「君達は今日。また新たな一歩を踏み出すわけだが――」 普段着崩している制服を、この時ばかりはビシッと着こなし、 眠気と共に舞い込んでくる校長先生の話に耳を傾ける。 「どうか、一日一日を後悔しないように過ごしてほしい。人生は一度きりであって――」 そろそろ立っているのが辛くなってきた……。 貧血で倒れる人が出てこないことを祈るばかりである。 「――ありがとうございました。続きまして、各クラスを担任する、教師の紹介を――」 今年でついに3年生か……。 全然実感無いなぁ。それに今年は受験も……いや、今は考えたくはないな。 「1年8組は、大山先生。教科は数学です。続いて、2年生を担当する先生方を――」 そういえば、今年は何組になるのかな? 数字にこだわりは無いけど、出来れば気心の知れた人と同じクラスになりたいな。 「――ありがとうございました。これで、始業式を終わります。 生徒諸君は指定された教室に移動し、次の指示に備えてください」 そうして僕らは、体育館を後にした。
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「それじゃあ、新クラスを発表するぞ。名簿を渡すから、出席番号順に取りに来い」 ガヤガヤとざわつきながら、一人づつ先生から新クラスの名簿を受け取りに行く。 受け取った人から、新クラスへと移動していくシステムだ。 まぁ大体の人が、移動する前に一喜一憂したり、親しい人達との別れを惜しむんだけどね。 「次、倉崎」 「はい」 そうこうしている内に、僕の番がきた。 受け取る際に、一年間お世話になった鈴木先生にお礼を言ってから、僕は名簿を受け取った。 (僕のクラスは3年4組か。えーっと、知ってる人は……) 上から目を通していく。正直言って、あまり知らない人達ばかりだった。 しょうがないのかな。増田に付きまとわれるまでは、ロクに他人と関わってなかったし。 ちょっと不安になりながらも目を通していると、 自分の名前を通過して少し下に行った所で、 僕はようやく知り合いの名前を発見することが出来た。 (あっ。西園寺さんと同じクラスだ。良かった、これでぼっちになることは回避出来――) 「くーらっさきぃ〜。何組だった? 何組だった? いや、みなまで言うな。当然俺と同じクラスに決まっている」 ほっと胸を撫で下ろしていると、 思わずぶっ飛ばしたくなるようなニヤケ面を浮かべた増田が、 同じくぶっ飛ばしたくなるようなテンションで話しかけてきた。 いつものことだから、そんなに気にはしないけど。 「ちなみに、俺は4組だったぜ? んで、倉崎は何組だったんだ?」 満面の笑みで増田が問いてきた。さっきは言うなって言ったくせに。 「僕も4組だよ」 「おお! やっぱり同じクラスか! 今年もよろしくな、倉崎」 よほど嬉しいのか、思いっきり僕の肩をバンバンと叩いてくる。ちょっと痛い。 「あとよ、倉崎。実は衝撃の事実が発覚したんだ」 「衝撃の事実? どうせ下らないことじゃないの?」 「いや、今回のはガチだぜ?」 珍しくマジトーンになった増田が、僕に言った衝撃の事実とは――
「いやぁまさか全員同じクラスだとはね」 「……まるで奇跡」 「本当に奇跡よね。私、一瞬自分の目を疑ったもの」 「8クラスある中で、特定の7人が同じクラスになる可能性は……262144分の1。 こんなの不自然……!」 「美影、そういうのは野暮ってもんだぜ? ていうか、一々計算したのか」 「気持ちは分かるけどね。ここまで低確率だと、誰かの陰謀を疑いたくなるレベルだよ」 「でも嬉しいなぁ。今年は楽しい一年になりそうね♪」 これを衝撃の事実と言わずして何と言うか。僕らの内の誰もが驚きを隠せなかった。 それと同時に、僕らは喜びに包まれてもいた。 「とにかく、今年もよろしくね。みんな」 「こちらこそ♪」 「よろしく〜」 「うん、よろしく」 「……よろしく」 「我は……! 我は、認めんぞ! これは、白羽共の陰謀に違いな――」 「いい加減認めろ」 増田が往生際の悪い柊さんを小突いた。 小突かれた頭を抑えながら、柊さんが涙目混じりに呟く。 「痛い……」 この場が笑顔に包まれた所で、 一喜一憂タイムは終了し、新クラスでの初めてのHRが始まった。 「えー、このクラスの担任を務める、鈴木だ。 見知った顔もちらほら見えるが……まぁ、一年間よろしくな」 担任は2年次に引き続き、鈴木先生でしたとさ。
続
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