TOP

前の章へ / 目次 / 次の章へ

 

 

第四章 すり林檎の作り方

 

 

 

 

3人一緒に部屋へと帰る。

中に入ると、そこには微笑みを浮かべた倉崎達が居た。

各々、部屋に置かれた椅子に座っていた。

「おかえり。……ほら、増田は早くベッドに戻る」

「分かってるよ」

帰って早々と、倉崎から咎められる。

しかしその言葉に刺は無く、怒っているというより、心配しているといった方が良いだろう。

俺も素直にベッドの中に戻った。

「はい、増田君。すり林檎。少しでもお腹に何か入れておいた方が良いわよ」

裕子から小皿とスプーンを受け取る。言われるがままに俺はすり林檎を口に運んだ。

「お、うめぇな。これ」

「ふふふ、良かった」

裕子が笑顔を浮かべる。

相変わらず、煌びやかしくもどこか無邪気さの残った笑顔ですことで。

はっきし言ってかなり可愛いです。

「あ、そうだ。……はい、綾ちゃん。これ」

俺がすり林檎を食べていたら、裕子が何かを思い出したかのようなジェスチャーをした後、

おもむろにテーブルに置かれていたバスケットから、ある果物を綾に手渡した。

「これは?」

綾が聞き返す。まぁその果物というのは、林檎のことなのだが……。

別に綾が林檎を知らないというわけではない。

何故、自分に林檎を手渡してきたのか。という意味での問いだ。

「作ってあげて。その方が増田君も喜ぶだろうから」

「……すり林檎を?」

「ち、違う違う。うさぎよ。もう、綾ちゃんたら」

裕子が慌てて訂正をした。多分、裕子は綾の冗談として取ってそうだな。

そして多分、綾は本気で言ったと思う。世間知らずさはまだ治りそうにない。

素手or日本刀ですり林檎が出来るのなら、是非ともお目にかかりたいね。

……綾なら本当にやってのけそうだから困る。

「うさぎは切れ込みを入れてから、切るだけで出来る。ほら、こんな感じ」

見かねた美影が綾のフォローに入った。

手馴れた手つきで林檎に切れ込みを入れている。

どうでもいいが、どこからその果物ナイフを取り出したんだ?

「分かった?」

「分かった。要するに……」

綾が林檎を直上に放った。その後、素早く刀を抜き、空中にあった林檎を斬った。

斬られた林檎は予め手に乗せられていた皿に綺麗に着地した。

「こう?」

「……もうそれで良い」

真顔で聞き返す綾に、美影も少々呆れ気味なようだ。

方法はどうあれ、皿に着地した林檎は確かにうさぎの形をしていた。

「おお、見事な出来栄えだね」

「それはもちろん。我が部が誇る凄腕彫刻師なんだから」

「なんで部長が誇らしげにしてるんですか……?」

感心している倉崎。

胸を張って我が物顔な琴音。

そんな琴音に対して呆れが入っている裕子。

……何か、平和だな。って凄く思った。

「じゃあ食べようか。綾さんが作ってくれたうさぎは増田君専用。

他にも果物はたくさん持ってきたから、みんなで食べよう」

テーブルに置かれたバスケットを手に取り、レイは笑顔でそうみんなに促した。

その後は、美影と裕子が皮を向いてくれたりして、

俺達は7人でプチ果物パーティーを開始した。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ増田。ちょっと良い?」

「ん? 何だ」

果物を全部剥き終えて、

美影と裕子も果物パーティーに参加し始めた頃、倉崎が俺に話しかけてきた。

反応すると、倉崎は怪訝そうな顔をして話を続けた。

「ずっと気になってたんだけどさ。気を失っている間、何か夢でも見てたの?」

「あっそれ、私も気になった」

「僕も、右に同じ」

倉崎の話に何人か、というかもう全員が耳を傾けていた。

その中でも琴音とレイが特に食いついてきている。

「夢は……まぁ……うん。見てた、には……見てた」

俺は極力歯切れが悪いように答えた。何故かっていうと、あまり聞かれたくないからだ。

最初から最後まで、色んな意味でっ。

「歯切れが悪い。そんな言い方不自然。ちゃんと答えて」

美影が不機嫌そうに俺を睨む。

何でそこまで機嫌が悪いのか分からんが、今回ばかりは許してくれよ……!

いや、ほんとマジで。

「ま、まぁ良いじゃねぇか。この話はまた今度ってことで。ところで、最近の政治情勢は――」

「はぐらかすな。お前がそんな話をするわけがない。さっさと白状しろ」

話を明後日の方向へ飛ばそうとしたら、

日本刀を突きつけられて、強制的に中断させられてしまった。

綾も何でか怒ってる。え、何で?

「ちょ、ちょっと待てって。とりあえず落ち着け。何でそんなにご機嫌ななめなんだよっ」

「それは……ねぇ」

「まぁ、あれは気になるわよね」

「むしろ聞かない方が不自然」

「僕はちょっとみんなと違う意味でだけど……。でも、僕も気になるな」

「増田君、早く言った方が良いんじゃない?」

どうやら俺の逃げ場は無いようだ。

何だか分からんが、この場にいる6人全員、俺の夢に興味津々らしい。

「さぁ答えろ」

残り数センチの所まで突きつけられた。

ちょっ! 危ないからっ。当たったらどうするつもりだ!

「わ、分かった。話すっ。話すから。とりあえずその日本刀を早くしまえ!」

「……ちっ」

「え、なに今の舌打ち」

「気のせい。気にしない方が自然」

「いや、今明らかに舌打ちしたよねっ? 俺、聞いたもん。この耳で確かに聞いたもん! 

な、みんなも聞いただろ? あの露骨なまでの舌打ちを――」

「うるさい黙れぐちぐち言ってないで早く話せ」

「理不尽だっ!!」

そんなこんなで一悶着あった後、俺は夢の内容を話すことになってしまった。

しかも詳細にという条件付きで。どうしてこうなったっ?

 

 

 

 

 

 

前の章へ / 目次 / 次の章へ

TOP