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第四章 町は今日もいつも通り

 

 

 

 

2月19日。要するに次の日。

俺の気分はすこぶる良好だった。夕方から朝まで寝たおかげで、疲れもだいぶ取れている。

制服のまま寝てしまったから、シワだの何だのがやばかったが、

予備を引っ張りだしている暇もないので、

俺はその制服を着たまま、朝の支度を済ませて家を出た。

 

 

 

今日も昨日と似たような感じだ。

下駄箱には大量のラブレターが。

クラスでは女子の出待ち。

昼飯はたくさんの女子と仲良く食事。

昼休みは告白巡り。

そして、放課後は部活。

異なっている所といえば、朝に倉崎とレイに会わなかったことくらいか……。

でも、琴音とはまるで示し合わせたかのように所々で会った。

その度に奇襲されたり、驚かされたり、からかわれたり。部活中も何かと関わってくる。

そして部活中では、琴音プラス篠原も一緒である。

まぁ試薬品Xを使ってから、俺と篠原は付き合っているようだから、

それも当然と言っては当然なんだが……

 

 

そんな生活が何日か続いた。

今言ったことの他にも、恋愛ゲームのイベントのような出来事がいくつかあった。

しかし三日程続いた所で、だいぶ俺自身も適応出来るようになってきていた。

琴音の扱い方も分かってきたし、

ラブレターや告白についても、最初程の喜びは感じなくなってきていた。

 

 

今日は2月21日。

俺がモテモテになってから、4日目の金曜日だ。

俺はこの日、みんなに放課後部活を休むことを伝えて、一足先に帰路に着いていた。

理由は、綾に謝るため。

綾はあの日以来、一日も学校に顔を出さなかった。

そして美影も、綾と同じくここ数日学校を休んでいる。

軽い気持ちで、次会えたらで良いや。

なんて考えていたから、俺は未だに謝れていない。

休んでしまう可能性も考えておくべきだった……。

というわけで、俺は今綾が居ると思われるモスラバーガーに向かっている。

(こんなに間が空いて……。綾、許してくれるかな?)

不安を抱えながら、俺はバイト先までの道中を一人で歩いていった。

 

 

 

 

 

 

モスラバーガーまであと10分くらいといった所で、

いくつかの民家が立ち並ぶ市村住宅街にさしかかった。

ここは確か、病院で同室になったおっさんが綾に襲われた所だ。

俺は少し、嫌な気持ちになった……。

 

「おい、こいつどうする?」

「そんなの決まってるじゃない。

私達に生意気な口聞いたぶん、それ相応の罰を受けてもらうのよ」

「そ、そんなっ……。私、何も――」

「うるせぇ! そういうのが生意気だってんだよ!」

「きゃあ!」

 

「ん?」

住宅街を通り過ぎようとしていた所で、どこかから誰かと誰かの話し声が聞こえた。

しかも、だいぶ穏やかではない。

「こっちの路地か?」

聞いてしまった以上、無視するわけにはいかない。

俺はいくつかある路地の中から当たりを付け、その奥へと入っていった。

 

 

 

「おらっ! 何とか行ってみろよ!」

「やめっ……。やめ、て……ください――」

「あ? 聞こえねぇなおい!」

 

「こっちか……! ――――居たっ! おい! そこで何やってる!」

路地の奥に入っていくと、その先には準公園候補の空き地があり、

そこで数人の集団が誰かを取り囲んでいたようだった。

大声でその集団に声をかけると、取り囲んでいた中の何人かがこちらに目を向けた。

「……誰だお前」

敵意丸出しで睨みつけてくる。

この町は本当に治安が悪い……。警察は一体何やってんだ?

「通りすがりの高校生だ。お前らは……見た所、市村中学の連中か?」

「だったらどうしたって言うの。アンタ、まるで関係ないじゃ……増田さん!?」

「えっ本当!? うっわっマジじゃん。マジもんの増田さんじゃん!」

「は?」

なんか取り囲んでいる中の内、やけにケバい女子連中が俺の名前を連呼し始めた。

様子もおかしい。いきなり慌ただしく、身じろぎをし始めた。

「おい、増田って誰だよ。もしかしてこいつ、お前らの知り合い――」

「ちょっと! 増田さんをこいつ呼ばわりなんて良い度胸してんじゃないっ」

ケバい女子が一緒に居た中学男子に掴みかかった。

なんか仲間割れが展開され始めたけど……どういう状況だ、これ?

「すいません、連れが失礼を……。ほら、アンタ達っ行くよ!」

「おっおいっ。まだ話は……」

中学男子はケバい女子に引きずられるようにして、どこかへと行ってしまった。

そして、この場に残されたのは――

「「…………」」

いきなりの展開に付いていけない俺と、囲まれていたと思われる女の子だけだった。

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫? 怪我は無いか?」

流石に間が保たないので、俺は女の子の近くに歩み寄り問いかけた。

「だ、大丈夫です……。あっあの! 助けて下さって、ありがとうございました」

慌てて立ち上がって頭を下げる女の子。

ざっと見渡してみたが、至って大きな怪我はしていないようだった。

「そうか、良かった……。見た所、君も市村中学の子か?」

暴行を受けていた彼女も、先程撃退したガキ共と同じく、市村中学の指定制服を着ていた。

「は、はい。そうですけど」

「そうか……」

こんな人気の無い所に連れ込んで、みんなで寄ってたかって暴行未遂……。

これは、もしかしなくてもあれだよな。

(いじめか……)

なんとかしてやりたいが、俺にはどうすることも出来なかった。

でも、このまま見て見ぬふりは――

「……あのっ!」

しばらく考え込んでいたら、女の子が俺の方を真っ直ぐ見据えていた。

少し反応が遅れたが、返事を返す。

「? どうした?」

「もし……もし良かったら、少し相談に乗ってもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

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