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第二章 人生不平等だ

 

 

 

 

「へぇ、そんなことがあったの。楽しそうだね」

「どこがだ。いちいち説明しなきゃいかんのだぞ?」

「そこは増田が頑張れば良いだけの話だよ」

「人使い荒いな、全く」

溜め息を突きながら、満更でもないように答えた。

俺は、先程走り去っていった綾と美影の顔を思い浮かべた。

何だかんだ言っても、俺は結構楽しんでいる。

縛りつけられるだとか斬り刻まれるだとか、そんな危なっかしくも非日常なやりとりを。

一応言っておくが、俺にM属性はねぇ。

ただ単に、みんなと一ベクトル外れた所で過ごせることが、俺にとっては歓喜の極みなのだ。

ただ、もう一つわがままを言わせてもらうなら……

「あぁ〜。彼女欲しいな、こんちくしょう」

「またいきなりだね。いつも言ってることだけどさ」

倉崎が微笑を浮かべながら、呆れ八割の言葉を俺に返す。

彼女が欲しい。

この言葉は俺の耳にもタコが出来そうな程、反復している言葉だ。

だって彼女欲しいんだもん。

けっ決して彼女いない歴=年齢ってわけじゃないからなっ! 

「良いじゃねぇか。言うだけは自由だ。俺はいつか絶対に、俺専用ハーレムを作り上げてやる!」

「はいはい、頑張ってね」

全く応援する気の無い激励が俺の耳へと届く。

半ば冗談だとしても、もうちょっと構ってくれても良いのにな。

もう半分は本気で言ってるんだしさ。

我ながら、中学生みたいな思考してるな、とは思うが、

実現したいと思ってしまうのだからしょうがない。

男の性ってやつよ。

おはよう、順斗君。今日も絶好のいじり日和ね♪

「うわぁ! ……鈴本さん、朝から心臓に悪いよ。しかもいじり日和って何? どんな天気……?」

んー? こんな天気♪

「何で僕の周りには、朝から元気な人が多いんだろう……」

少し前まで、

修学旅行の就寝直前に展開されるような話をしていたはずなのに、一気に場が和やかになった。

理由は鈴本が不意に倉崎に抱きついたから。

倉崎は一瞬驚いた反応をしてから、すぐに落ち着きを取り戻し、

疲れきった表情を浮かべて額に手を当てている。

対して鈴本の方はとても嬉しそうに笑顔を浮かべながら、

倉崎の首元に腕を回して足をパタパタさせていた。

「おっす、鈴本。今日も相変わらずだな」

おはよう、増田君。あなたも相変わらずね

声も相変わらず聞こえないが、返してくれたと思うことにしよう。

ちゃんと口は動いていたし、目も合わせてくれたからな。

にしても……

「ねぇ、順斗君。今日、部活始まったら一緒に絵描かない?」

「一緒に? 良いよ。というかこちらこそ喜んで」

「ふふふ、やった」

朝から見せつけてくれるな、おい! 

会話こそ聞こえないものの、

二人の表情からイチャイチャしてることくらい俺にだって分かるわ!

 ……くそっ。何で人生こう上手くいかねぇかな……。

その後も至近距離からイチャイチャオーラを浴び続け、

心のどこかで羨望感と少しの嫉妬が込み上げてくるのを抑えながら、

俺ら三人は市村高校へと登校していった。

 

 

 

 

 

 

やっとこさ市村高校に辿り着いた時には、俺のライフはそれはもう削りに削られきっていた。

何だよ、あの鬱陶しくも邪魔しちゃいけない感じ。

ストレス溜まることこの上ねぇ……。

彼女が居れば、俺もそっち側に行けるのかね……?

「あ、おはようみんな。今日も良い天気だね」

なんて考えながら下駄箱に近づいたら、学年一いや学校一モテる男が俺達に挨拶をしてきた。

神と同等な程の後光を後ろに背負っているような、輝かしい笑顔を浮かべて。

「うん、おはようレイ君」

おはよう。確かに最高のいじり日和ね

「まだ引っ張るのそれ?」

「おう、おはようさん。レイ」

俺らも挨拶を返す。

その後、鈴本が靴を履き替えるために、少し俺らから離れた。

俺ら男性陣も靴を履き替えるために、それぞれの下駄箱の扉に手を掛けた。

「あれ? 増田君。綾さんと美影さんは今日は休みかい?」

「いや、なんぞ間違った見解を正すために、一旦家に帰っちまった」

「ははは、なにそれ。でも良かった。てっきり、風邪かと思っ――」

 

ドサドサドサ……!

 

「「「…………」」」

扉を開けると、ある人物の下駄箱から大量の手紙が溢れ出してきた。

誰のかと言うと……まぁ言わずもがな学校一の人気者さんのですよ。

「凄い量だね……」

「よっ市村高校一モテる男」

「あはは、これは僕も何て言ったらいいか……」

とりあえず茶化してみたが、そんなものに構っている余裕も無いらしく、

レイは笑顔を引きつらせながら足元に落ちた手紙を眺めていた。

そしてレイは靴を履き替える前に、床に落ちた手紙を拾い始めた。

俺と倉崎は急いで上履きに履き替え、一緒にレイの足元に散らばった手紙を拾いにいった。

「ありがとう、二人共。助かるよ」

「大丈夫大丈夫」

「良いってことよ。これ、ラブレターだよな……?」

たまたま手に持った手紙を見て、ふと呟く。

俺の手の内にあるその手紙は、

淡いピンク色をしていて、後ろにはハートのシールで封がしてあった。

開けるわけにもいかないからこれ以上は確認不可だが、やっぱりラブレターだよな。

「そんなこと言ってないで、早く拾ってよ。このままじゃ遅刻しちゃうよ」

「お、おお。すまん」

倉崎から注意を受けて、俺は再び目の前の手紙の山を拾い始めた。

(ラブレターか……。俺、一回も貰ったことねぇや)

改めて格の違いを感じ、俺は手紙を一枚一枚拾う度に、何だか悲しい気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

今日はずっと気分が乗らなかった。

周囲を見渡してみれば、クラスメイトの男女が仲良く談笑していて、

はたまた廊下に出てみたら腕を組んで歩いているカップルが居たり……。

普段は意識したことも無かったが、

いざ意識してしまうと、たとえ自分が見たくなくても視界に入ってくる。

その度に惨めな思いになるのが凄く不快だった。

放課後、俺は極力周りを見ないようにして美術室に向かった。

 

 

 

 

 

 

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