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第三章 ○○○―△△△△―××××

 

 

 

 

「はぁはぁ……。んじゃひとまず話が一段落着いた所で……修学旅行の話をしようではないか」

「修学旅行?」

約10分間の死闘の末、ようやっと増田が話題の方向転換に成功する事が出来た。

我が美術部の女性陣達は僕らの主張を一切耳に入れようとはせず、

それに付け加えて自らの主張を曲げる事も無かった。

だから説得の方は滞りに滞り、対する男性陣の方は心身共にボロボロになってしまった。

「そう、修学旅行。どうにも納得がいかねぇ」

そんな絶望的な状況を打破してくれた増田は、来年度の春にある修学旅行に不満を持っていた。

というのも、これにはとある理由がある。それは増田だけではない。

この場にいる人達はもちろんのこと、僕らの学年ほぼ全員が不満を持っていた。

「確かにそうよね……。せっかく楽しみにしてたのに……」

篠原さんも残念そうな顔をしていた。かく言う僕もその内の一人。

そう、あれは冬休みに入る間近。担任の先生が帰りのHRに連絡した事がきっかけだった……

 

 

 

「あー。今日はみんなに重要なお知らせがある」

帰りのHR

それぞれが帰り支度を終え、後は号令を待つのみという時に、

普段あまり喋ることの無い担任の鈴木先生が突然立ち上がって言った。

珍しい事態にクラス中がざわつき始める。

そんな僕らに構うことなく、先生は淡々と話し始めた。

「来年度に君達が待ち望んでいる修学旅行についての件だが……。

今回から班での自由行動が無しになった。

だから寺院の見学等はクラス単位で回る事になる」

「えー!」

「はぁ!?」

「ふざけんな! どういう事か説明しろ!」

「楽しみにしてたのに……」

クラスのあちこちから驚愕と怒りに満ちた言葉の数々が飛び交った。

僕の隣にいる増田も騒ぎ立てこそしないものの、とても険しい表情をしていた。

修学旅行の自由行動。

それはギッチギチに制限がかかった修学旅行の中で、

唯一と言っても良い程、開放的に行動出来る時間。

何にも縛られることは無く、当然誰からの監視の目も無い。

みんなで仲良く観光するも良し。

普段とは違った気分でゲーセン等に行くも良し。

二人っきりでデートするも良し。

あるいは班同士でメンバー交代し、仲良い者同士で遊ぶも良し。

楽しみ方はそれこそ無限大。

そんなまさにメインイベントとも言っていい自由行動が、いきなり無くなった宣言されたのだ。

暴動、ブーイングは起こって当然と言える。

「まぁ聞け。お前ら」

低くしかし良く通る声で、その場を収める先生。

騒いでいた生徒達も、とりあえずみな口をつぐんだ。

静かになった所で先生は再度話し始めた。

「これはお前らの安全を考えた上でだ。

最近、物騒な事件が多発してるからな。修学旅行先で何かあったらそれこそ事だ」

「…………」

「分かってくれたようだな。それでは、帰りのHRを終える。全員気をつけて帰るように」

 

 

 

以上回想終わり。

この話は僕らのクラスだけでなく、

他のクラスにも同様に伝えられたようで、僕らの学年全体に衝撃を与えた。

「先生の言ってる事も分かるけど、少し神経質すぎる気もするよね」

レイ君の言う通り、先生達の言い分も分かる。

もし修学旅行中に何か起きたら、修学旅行自体が無くなりかねない。

その事をきっと危惧しているのだろう。

でも自由行動が無くなるなんて……。

僕らはその板挟みの中で葛藤していた。

「そこでだ」

増田が身を乗り出しながら、力強くこう言った。

「俺ら美術部は学校側とは離れ、独自に行動する事を提案する!」

「えっ!? それってどういう――」

「要するに、抜け出す! 全日自由行動だ!!」

この発言には全員が動揺を隠せなかった。

普段、増田は突拍子もない事ばかり言ってるが、今回はその範疇を遥かに超えている。

この場にいる全員に違反行動をしろ、と相当無茶苦茶な事を提案してきた。

「でも、そんな事しちゃ駄目なんじゃ……。下手したら警察沙汰だよ?」

篠原さんが申し訳なさそうに反論する。

まぁ確かにバレたら凄く怒られるだろうし、その時の僕らは実質行方不明状態だ。

警察も乗り出してくるだろう。

そうなってしまったら、僕らの退学処分もありえなくない。

「ちょっと待ってろ。今、確認を取る」

篠原さんの主張を聞いた後、増田はおもむろに携帯を取り出し、何かを打ち込んでいる。

何をしているのかは気になったけど、今はそんな事どうでもいい。

僕らは増田の確認が終わるまで、しばし無言でそれぞれ思案にふけった。

 

 

 

 

 

 

(えーっと、掲示板掲示板……っと、あった!)

携帯でとあるHPにアクセスし、その中にある掲示板に文字を書き込む。

『京都に住んでる奴居ないか? 知り合いでも良い。

 あと市村高校関係者の奴、居たら挙手を頼む』

『は〜い、京都に住んでま〜す』

『ノ』

『ノ』

書き込むのとほぼ同時に返答が返ってきた。

話が早くて助かるぜ。

俺は再度掲示板に書き込んだ。

『京都に住んでる奴、後で俺と連絡先を交換してくれないか? 頼みたい事がある。

都合が良くなったらここに連絡してくれ。→ ○○○―△△△△―××××』

『了解!!』

『俺らは?』

学校関係者と名乗る人が質問をしてきた。俺は即座に返信を返す。

『どんな形で学校に関わってる? 先生だと非常に助かる』

『事務員だわ……スマソ』

『そうか……。もう一人は?』

『うーん……。一応、先生……かな?』

そう書き込んだのは会員番号16番。意外にも番号が若くてびっくりした。

歯切れの悪い書き込みではあったが、俺は藁にもすがる思いで懇願した。

『実は頼みがあるんだ……。来年度の修学旅行。俺らの離脱を手伝って欲しいんだ』

『離脱、とは?』

『要するに、みんなの目を盗んで団体から抜け出して、

学校側とは別に俺らは俺らで修学旅行をするって事だ。16番にはその手助けをしてほしい』

返信は無い。俺は続きを書き込んだ。

『する事は簡単だ。

ただ、俺らの離脱を黙認して、他の先生方を抑えるだけ。

これだけで良い。頼む』

『それは……彼女らのためか?』

返信が返ってきた。

その書き込みからは何故か凄みを感じて、俺は一瞬気圧されてしまった。

それでも俺らの思い出のために、俺は勇気を持ってこう書き込んだ。

『そうじゃなきゃお前らに頼まんさ』

返信はしばらく返ってこなかった。

流石に駄目なのか? と、半ば諦めかけていたその時――

『……良いだろう』

『本当かっ!? ありがとう、16番!』

『なに、礼には及ばんさ463番。

若い内に冒険を繰り返すのが、若者の特権だ。こちらは何とかする。

お前らは存分に楽しんでこい』

『おう、最高の修学旅行にしてくる事を約束する』

『綾さんを、頼む』

この書き込みを最後に俺は携帯を閉じ、他の6人に結果報告をするために顔を上げた。

 

 

 

 

 

 

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