第二章 初対面は抱擁から
「倉崎〜! 一緒に飯食おうぜ〜!」 昼休み。開始早々と増田が僕の席のそばに椅子を置き、昼食のお誘いをしてきた。 「……」 「私達も入れて♪」 間髪入れずに柊さんと西園寺さんも、僕の席の周りに椅子を置き、 すっかり僕の机の上は、各々の持ってきた弁当でいっぱいになる。 僕も持ってきた弁当を置き、四人で食べ始めた。
「お、今日も美味そうだな! 綾、美影」 「今日は、鳩の肉で作った鶏の唐揚げ」 「は、はとぉ? なんで、んなもんが――」 「私が仕留めた」 「相変わらずたくましいね、西園寺さん」 「……ありがとう」 「いや、多分褒めてないからな?」 「いいえ、今のは自然な言い回しだった。褒めてるに一票」 「増田には悪いけど、ちゃんと褒めてるからね?」 「なんですとっ!?」 「やった♪ 私の勝ち」 「負けた奴は、罰として私が斬り刻む」 「重っ! 罰がS級犯罪者の処刑並みに重い!」
こんな感じにとてもほのぼのした(?)雰囲気で、楽しい昼休みを送っている。 昼食の時間が終わってからも、まるで腹ごなしと言わんばかりに、 増田は柊さん、西園寺さんと(半ば命懸けで)遊んでいた。 僕は、そんな三人を見守りながら絵を描けるこの時間が、凄く好きだった。 (そうだ! 今日は三人を描いてみよう。躍動感があって良い絵が描けるかもしれない……!) 所狭しと教室の中を駆け回る、増田と西園寺さん。 その光景を見届けながら、時々茶々を入れる柊さん。よし! いける! ……? 「えっと、何か用かな?」 絵を描き始めようとしたら、いつのまにか僕の目の前には、見知らぬ女生徒が立っていた。 「あなたに話があって来た」 「?」 目の前にいる女の子は、口をパクパクとさせるだけで、言葉を発していないように思えた。 というよりも、ただ聞こえないだけなのかな? 教室の中は例の二人ないし三人が暴れ回っているし、 その光景を見ながら、ヒートアップして歓声を上げている男子生徒も何人かいる。 正直言ってかなりうるさい。 「ごめん。もう一回大きな声で言って。分かると思うけど、周りがうるさくて聞き取れない」 そう言って僕は立ち上がり、女の子の方に耳を傾ける。 女の子も精一杯声を出そうとするが…… 「実は! あなたに話があってきたの!」 「えっ? ごめん! 良く聞こえないよ!」 相変わらず、僕の耳に女の子の声は届かない。 もうこれは周りを黙らせるしかないか? と思い始めたその時―― 「!」 「これなら、聞こえる……」 いきなり目の前の女の子が、僕の首に手を回し抱きしめる様な感じで僕に密着してきた。 確かにこれなら近くなるから、声も聞こえやすくなる……って明らかにおかしいでしょう! 見れば、教室の中にいる人達は、皆僕らの方を見ており、 熾烈な激闘を繰り広げていた増田と西園寺さんまでもが、こちらを向いてキョトンとしている。 困惑している僕らを完全に無視し、 いきなり抱きついてきた女の子は、気にせず僕にこう囁いた。 「放課後……。美術室に、来て」 「は、はい……」 その囁きは、とても清らかで、安らかで、そして魅力的な声だった。 女の子特有の甘い香りと、 抱きつかれている事も作用し、嗅覚、触覚、聴覚を同時に攻められていた。 その手の免疫がほとんど無い僕は、すっかり脱力しきってその場に座り込んでしまった。 そしてその澄んだ声の持ち主は、僕に用件を伝えるだけ伝えて、悠々と教室を出ていった。 「誰? あの子?」 「うわっ! ひ、柊さんっ?」 気がつくと、目の前には女の子の代わりに柊さんが居た。 色々としっちゃかめっちゃかで全然気付かなかった。 「誰、と聞いている」 そう言って顔をずいっと僕に近づけてくる。 初めて僕の部屋を訪れた時を彷彿とさせるように(だから近いって!) 僕は柊さんを手で制しながら正直に答えた。 「わ、分からないよ。僕だって今困惑している所なんだ」 「嘘。初対面であんな事するのは不自然」 あんな事、というのは恐らくじゃなくても、抱きついてきた事を言っているのだろう。 確かに初対面では普通しない事だけど、 僕だって何故あんな事になってしまったのか、訳が分からない……。 「で、本当はどうなの?」 柊さんの機嫌がどんどん悪くなっていくのが分かる。 徐々に黒いオーラを纏いながら、ジト目で僕を尋問してくる。 でも僕は、本当に知らないんだって! ひー。誰か助けて〜!
続
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