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第三章 作戦開始

 

 

 

 

次の日。倉崎の部屋にて。

「では、これから『祝! 倉崎復活&篠原笑顔奪還作戦in文化祭』の説明を開始する!」

「……」

「おー」

昨日から引き続き、僕の家からお送りします。

現在、僕を含めた数人は各々好きなように座り、増田だけが部屋の真ん中に仁王立ちしている。

そして増田は作戦隊長よろしく、僕らに奪還作戦なるものの説明を開始する予定らしい。

……どうしてこうなった?

「ちょっと待って! 色々突っ込ませて!」

「現在、発言は許されていない! だが、倉崎なら許す。で、何だ?」

「何だ? じゃないよ! 何でこんな大仰な事になってるのさ! 

作戦って何っ? ていうか笑顔奪還作戦って、篠原さんから笑顔を奪っちゃ駄目でしょ!」

僕は見たいと言っただけだ。なのに、奪還作戦って……。僕の感動を返せ! 

こんな事態となっている要因の一つ、

増田は僕の突っ込みをさらりと受け流し、そのまま話を続けた。

「では、作戦内容を説明する。

まず、綾率いるA班は俺と一緒に文化祭実行委員長を脅し……もとい申請をしに行く。

良いか? 綾」

「分かった。どこまで斬り刻んで良い?」

「……。つ、次。美影率いるB班は実際に設営するブースに必要な機材集めだ。

出来るか? 美影」

「フハハハ! そのような小事、我には容易すぎる愚問よ。

白羽共め、今回こそ確実に、この呪縛布に封印されしアルテミスの力で、

塵も残さず葬り去ってくれるわ!」

「……」

「ねぇ、ちょっと。増田こっち来て」

僕は増田を部屋の隅に呼び出し、他の二人に聞こえないような声で耳打ちをした。

「手伝ってくれる人が増えるのは、凄く嬉しいんだけど……。本当に大丈夫なの? あの二人」

ちらりと目をそちらに向けてみると、二人共妙なオーラを纏って、目を輝かせている。

正直言ってかなり不安だ。増田も僕に合わせて耳打ちで返す。

「ま、まぁ大丈夫だ。二人共、ああ見えて良い奴らだし、腕も確かだ。

やる気もあるようだし……」

結構褒めているが、増田は発言中、一向に僕と目を合わせようとしない。

ていうか腕も確か? ……僕の中の不安が増した。

僕が疑惑の視線を送っていると、またもや増田は受け流し、再び話し始めた。

「よし! じゃあ倉崎も納得した所で――」

(してないしてない!)

「早速、委員長の所に行くか綾。あ、美影は倉崎と一緒に展示の準備をしててくれ」

「了解」

「分かった」

「えっ、ちょ、増田! まだ話は終わってな――」

「じゃあな、倉崎! 幸運を祈る!」

そう言って西園寺さんの手を引き、脱兎のごとく部屋を飛び出して行ってしまった。

一方、部屋に残された僕と柊さんの間には、沈黙が流れていた。

(準備って言われたって、一体何をすれば……。しかも柊さんと二人で。

そもそも柊さんってどんな人なんだ? 見るからに怪しい人だけど……)

右目と左半身を包帯で覆っていて、何というかとても痛々しい。

怪我か何か、とも思ったけど普段の生活を見てると、怪我をしてるわけでもなさそうだ。

(現に西園寺さんと一緒に、柊さんが増田を追いかけてる所を何度も見かけたし……)

それでいて先程の謎の言動。……八割くらい何を言ってるのか分からなかった。

約一ヶ月前くらいからクラスメイトではあるけど、どうすれば良いのだろう……。

僕が色々な事を思案していると、後ろから肩をポンポンと叩かれた。

「? 何、柊さん?」

「そろそろ、展示の準備。始めましょ」

「え? あ、うん」

「私は、何をすれば良い?」

首をやや傾けて、僕に問いかけてくる柊さん。

その様子は普通の女の子だ(包帯が無ければ)

……先程のイメージとは大分食い違う。

僕は違和感を感じながら、とりあえず指示を出した。

「じゃあ、そこの押し入れの中に入ってる箱を、取り出してくれるかな?」

「分かった」

頷きも同時に返してくれながら、柊さんはすぐ横にあった押し入れを開けた。

「これ?」

柊さんは入ってすぐの所にある箱を指差し、小首を傾げて、僕に問いかける。

「うん。その中にたくさん入ってるんだ」

「ん。……! これ、全部?」

「そう。そこに入ってるの全部……」

こうして見ると、結構な量だったんだなぁ。描いてる時はあまり感じなかったけど……。

箱の中には僕が描いた絵が描かれているキャンパスが、規則正しく入れられていた。

柊さんは箱を取り出してから、その中から何枚か抜き出して一枚一枚、丁寧に見始める。

「……凄い。これ程の完成度でこの量は……。一枚どのくらいの時間で描くの?」

「え? その程度なら三時間もあれば……」

「嘘! そんなの不自然!」

僕が答えたら、いきなり声を張り上げて顔をずいっと近づけてきた。

目線をどこに向ければ良いのか凄く迷う……。

僕は居心地の悪さを感じながら、柊さんを落ち着かせるために腕で制し、話を続ける。

「本当だって。……そこにある絵には、心が無い」

「心?」

通常の距離に戻りました。

「そこにある絵は、僕が自暴自棄になってる時に描いた絵だ。素直じゃなかった時の、ね」

「……」

「でも、それも一種の僕だ。だからその中から厳選する。柊さんにはその手伝いをして欲しい」

「分かった」

どうやら分かってくれたらしく、せっせと箱からキャンパスを取り出し始めた。

しかし改めて自分の描いた絵を見てみると……うーん。全体的に暗いな……。

やっぱり、作品に作者の意思が出るっていうのは本当のようだ。

「とりあえず、全部出してみた」

「うわ、多いね」

僕の部屋のほとんどが絵で埋まっていた。良く見渡してみると、廊下にも何枚か置かれている。

「全部で、四十二枚あった」

「……二人で相談して決めようか」

「ん。了解」

その後は、僕と柊さんで一つ一つ丁寧に吟味していった。

 

 

 

結果十枚程に絞れた。

「……ふぅ。こんな物かな?」

「ん。お疲れ様」

「うん、お疲れ様。柊さん、手伝ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

微笑みながら二人共、双方にねぎらいの言葉を掛ける。

少し、一息ついていると柊さんがポツリと呟いた。

「……でも、全体的に暗い」

確かにそれはある。でも、これだけで気持ちを伝える気は無い。

「うん、その点は大丈夫。これから描くよ」

あと一つ描き上げる。……今の、僕の正直な気持ちを詰め込んだ絵を。

「そう。……手伝った方が良い?」

「いや、この件は手伝わなくて良いよ。最後の絵は、僕だけで仕上げなくちゃいけないんだ」

そうじゃなきゃ意味が無い……。

「分かった。……助けが必要ならいつでも呼んで」

「ありがとう。頑張るよ僕」

「ん。頑張って」

柊さんは微笑みながら頷きを返して、やがて僕の部屋を出ていった。

……見た目に反して凄く優しい人だった。

何故包帯を巻いてるのかは、いまだに分からないけど……。

部屋に残った僕は最後の絵に取り掛かり始めた。

 

 

 

 

 

 

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