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第三章 呪われし……

 

 

 

 

そして日も暮れかかった頃、俺らは柊の第三希望であるお化け屋敷の前にいた。

「さぁ着いたぞ。ここが富士ランドが誇るお化け屋敷『呪われし廃病院』だ」

見るからにおどろおどろしい雰囲気が立ち込めている。

所々崩れかかっているし、中からは他の客の悲鳴が聞こえる。

かなり作りこんでるな。俺も少し怖くなってきた。

というのも、富士ランドのお化け屋敷は、日本でもトップクラスの怖さを誇るらしい。

俺も入るのは初めてだった。

「……」

「おおー! 格好良い!」

柊は露骨に喜んでいるな。聞く限り名前が気に入ったらしいが、お前まだ中二病残ってないか? 

そして西園寺さん? 何であなたは刀を構えているんですか?

「日本刀はしまえ。大丈夫だから、ただのアトラクションだよ」

俺に促されるまま、西園寺は刀から手を離す。

「いらっしゃいませ。三名様ですね?」

「っ! は、はい。そうです」

あぁびっくりした。何も入口の人までお化けじゃなくても良いだろ全く……心臓に悪い。

入る際にいくつか注意事項を言われ、ライトを一つだけ手渡される。

「では、いってらっしゃいませ」

ギィと不気味な音を立てて目の前の扉が徐々に開く。

中は数メートル先も見えない程、真っ暗で不気味だった。

「じゃ、じゃあ入るか」

「「……」」

二人は無言で俺の数歩後ろを付いてくる。頼むから今回ばかりはなんか喋ってくれよ……。

俺は恐怖ですくむ足をどうにか奮い立たせ、意を決して中に入った。

すると突然後ろの扉がバタンッ! と閉まった。

「うわっ!」

「きゃっ!」

「何だ、扉かよ……。驚かせやがって。ん? 柊か?」

左腕に柔らかい感触を感じたので、見てみると柊が俺の腕にしがみついていた。

というかこの感触はもしや……! 

いや、考えるな。邪な考えは捨てろ! 

こういう時、男がする事は女の子を安心させてあげる事!

「大丈夫か? 柊。平気だ、俺が付いてる」

「今の反応は自然だったはず。……いや、もっと声を高くした方が自然な気が……」

俺の励ましなんか露知らず、あくまで自然とは何かを追求し続けている。余裕ですね、柊さん。

……あれ? 目から汗が流れてきたぞ? おかしいな……。

「……」

滲む視界で右の方に目を向けると、西園寺が居合い切りの体勢で辺りを警戒していた。

何もそこまでしなくても……。

その後も次々と俺達に恐怖が襲いかかった。

血だらけの病室。突然動き出す治療道具。どこからか聞こえてくる患者達の悲鳴やうめき声。

その度に俺や柊は悲鳴を上げた(俺は素で叫んでるが、柊は演技か素なのかよく分からない)

ただ、恐怖ポイント毎に柊がくっついてくるので、結構、嬉し――。おっといかんいかん。

西園寺の方はというと、悲鳴こそ上げないものの、随所で刀を構え、

俺らの後ろにぴったりくっついて来ている。こいつなりの怖がり方なのだろうか? 

そしてついに来てしまった。

初めて来ると言ってもここが絶対に山場だという事は容易に想像が出来る。

 

霊安室。

 

病院などで、一時遺体を安置しておく部屋。つまり、病院で最も死者がいる所。

遊園地側も特に意識して作ってるようだ。

明らかに、雰囲気が今までとは比べ物にならないくらい不気味だ。

扉で仕切ってはあるが、この部屋の中には恐怖が待っていることくらい、

物心ついた奴なら間違いなく気づく。故に体が入る事を拒否していた。

それは後ろの二人も同じなようだった。

「「……」」

相変わらずじゃねぇか。

と思うかも知れないが二人共、いつ襲われても良いように臨戦態勢真っ只中だ。

下手な事をすれば、目の前にいる俺が真っ先に塵と化すだろう。

でもここを通らなければ脱出出来ない事もまた事実。

「行くか?」

「「……」」

もう三人共程度の差はあれども、恐怖にまみれて震えていた。

それでもお互いがお互いの支えとなり、何とか歩を進める事が出来ている状態だった。

そして俺達は勇気を振り絞って、霊安室へと入っていった。

霊安室内部は想像を遥かに越えて、俺達の恐怖を煽ってきた。

視覚・聴覚を利用して、最大限与えられる限りの恐怖を与えてくる。

もう、俺は限界だった。いきなり飛び出してくる死者や、うめき声に気が狂いそうだった。

そして何人目かの死者が飛び出してきた時、後ろから背筋が凍りつく声が聞こえてきた。

「ふ、ふふ、あははははは!」

一瞬誰の声か分からずに、戦慄する。恐る恐る後ろを振り返ってみると……

狂った笑顔で顔を歪めている西園寺の姿があった。

「ふふ、殺す。殺す。何もかも! 全て!」

そう叫びながら日本刀の柄に手を掛け、ゆっくりと刀を抜いていく。そして次の瞬間!

「! 危ないっ!」

数秒前まで俺がいた場所に斬撃が繰り出されていた。

俺は何かに左手を引っ張られ、間一髪西園寺が放った斬撃を躱す。

「殺す! ……どこだ、どこにいったぁ!」

普段は決して出さない声で叫び、やがて西園寺はどこかへと走り去っていった。

「大丈夫?」

「……ああ、大丈夫だ。柊が助けてくれたのか?」

「間に合って良かった……。早く追わないと!」

西園寺が走り去った方へ慌てて向かおうとする柊。

その様子は慌てていると同時に、先程とは別ベクトルで恐怖していた。

「ちょ、ちょっと待てよ!」

状況が飲み込めない俺は柊を呼び止める。

「一体何が起きたんだ? 西園寺に何があった?」

「……探しながら話す。あなた、ここから一番近い出口はどこ?」

一番手近にいるお化け(職員)に躊躇いもせずに話しかける柊。

「え? えっとここを真っ直ぐ行った所が出口だけど……」

「ありがと。行くわよ」

「あ、ああ。分かった」

慌てた様子で走り出す柊。つられて走り出す俺。

状況は全く飲み込めなかったが、やばい状況だという事は分かった。

その場に残されたお化けの皆さんは、終始ポカンとしていた。

 

 

 

 

 

 

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