第二章 チュロスとチンピラ
「よっしゃ! じゃあ最初はジェットコースターに乗るぞ!」 「……」 反応薄っ! 西園寺は頷くだけだし、柊は微笑みながら返事するだけだし……。 いつも通りといえばその通りなんだが、 もっとこう盛り上がってくれても良い気がするんだ俺……。 「ていうかお前らジェットコースターって知ってるか?」 「「知らない」」 ですよねー。 俺は待ち時間の間にジェットコースターとは何ぞやという事を二人に説明する事にした。
「うわああああああああああああ!」
結論から言う。こいつら肝っ玉座りすぎだろ! 悲鳴を上げる所か顔色一つ変えやしねぇ……。 結果、俺だけ情けなく叫ぶはめになっちまった……。 「……斬ったほうが良かった?」 「何でだよっ!」 「そうすればそのうるさい口が閉じる」 「俺の人生の道筋も閉ざされるわ!」 「叫んだ方が自然だった……。私は不自然……」 「大丈夫だから! 次から心がければ大丈夫だから! だから戻ってこい!」 到底、ジェットコースターを乗り終えた三人の会話とは思えない。 ……でもとりあえず二人共、調子は取り戻し始めたようだ。 騒がしくしながらも俺は安堵していた。
続いて俺達はゴーカートや、映像系のアトラクションを回った。 流石にこの二つに乗っている最中は、二人共大人しくしていた。暴れようがないからだろうか。 そして只今、昼飯時。 俺達は昼食を取る事にし、近くにあった飲食店に入っていった。 しかし、俺達が入った店は人で溢れ返っていた。 「うわぁ、出遅れたか……。席、見つかるかな……。って、ん?」
カタカタカタ。
奇妙な音の方へ目を向けて見ると、西園寺が鞘に手を掛け、細かく震えていた。 「! 少し私達ここを離れる。すぐに戻るから席取っておいて」 「お、おう。分かった」 柊はそう言い残し、西園寺を連れてどこかに行ってしまった。 珍しく慌てていたようだったけど、どうしたんだろうか……。 んー。ま、すぐに戻るって言ってたから大丈夫だろう。 俺はあまり深く考えずに、人がごった返している店内で、三人が座れる所を探した。
何とかどうとか席を見つけ、一息ついた所で西園寺と柊が戻ってきた。 幸い、見つけた席が入口付近だったため、容易に合流する事が出来た。 「何かあったのか? 西園寺?」 入門口でも西園寺は具合が悪そうに見えたので、俺は心配の言葉を投げかけた。 すると、西園寺は無言で、柊が代わりに答えた。 「大丈夫。少し目眩がしただけらしいから。ご飯食べれば、きっと良くなる」 「そうか。なら良いんだが。……それじゃあ俺が買ってくるよ。何が良い?」 「……何でも、良い」 「分かった。柊は?」 「私も任せるわ」 「了解」 俺は席を立ち、三人分の食事を買いにいった。とりあえず、しつこい物はやめておくか。 こういう時は栄養があってさっぱりした物の方が良いよな。 西園寺と柊用には秋の野菜詰め合わせ定食。俺は軽めにハンバーガーにした。
昼食を食べ終わる頃には、西園寺は元気を取り戻していた。 ただ、西園寺の様子が気になる事には変わりはない。 昼食後はなるべくソフトなアトラクションを乗る事に決めた。 主に体感型や映像系のアトラクションだ。 午前よりゆっくりめのスピードで回り、西園寺のペースに合わせた。 その甲斐あって、西園寺も徐々に覇気が戻ってきたようだった。 その証拠に、今も俺に質問を投げかけてきている。 「あれ、何?」 「? あれか? あれはチュロスを売ってる所だ」 「チュロス?」 小首を傾げる西園寺。いかん、可愛い……。俺は平常心を何とか保ちつつ、説明を続ける。 「まぁドーナツを棒状にしたようなもんだよ。食ってみるか?」 「……」 頷く西園寺。いつもより目が輝いている。早速、俺達はチュロスを買った。 「うまいか?」 「……美味しい」 「そりゃあ良かった」 とても嬉しそうだ。夢中でチュロスを食べている。 見てるこっちが癒される程、絵になる光景だな……。 「ほれ、柊。これお前のぶ……あれ? あいつどこに行ったんだ? 西園寺、知ってるか?」 「……ひらはい」 とりあえず飲み込め。よっぽど気に入ったようだな。 にしても柊はどこに行ったんだ? さっきまで俺の隣にいたはずだが……。 俺は辺りを見渡し、柊を探した。するとやたらチャラい連中が目についた。 何か誰かを囲って話しかけているようだったから、俺は近づいて様子を見ることにした。 「ねぇねぇどこから来たのぉ。お嬢ちゃん」 「一人で来てるならお兄さん達と一緒に回らないかい?」 「楽しい一日にしてあげるよ〜」 近くに行くにつれ、会話がはっきり聞こえてくる。まさか話しかけられているのって……。 「ふん。下賤な屑共が。 貴様らと一緒に過ごす時間等、我には持ち合わせておらぬわ。早々に立ち去れ」 やっぱり〜! てか、いつの間に絡まれたんだよお前。 くそ少し目を離したらこれだ。ったく、しょうがねぇな。 「おい、お前ら何してる」 「ああん? 何だお前?」 「お? 彼氏さん登場か? こりゃ格好良いなぁ! アヒャヒャヒャヒャ!」 「今、こっちが話してんだ。邪魔すんなガキが」 何か古臭いチンピラだな……。こんな奴ら、相手にするまでも無いか……。 「おい、行くぞ。こんな奴ら相手にするだけ無駄だ」 「う、うん」 柊の腕を掴み、強引にチンピラ達の包囲網を抜け出す。 だが、そう簡単には逃がすまいと再度立ちはだかるチンピラ達。 「おいおいおーい! こちらは無視ですかぁ?」 「活きがってんじゃねぇぞ! 格好良く決めたつもりか? 彼氏さんよぉ」 あぁもう面倒くさい。でも、早くここから逃げねぇと大変なことに……。 俺はチンピラ達を振り切って、逃げようとした。しかしその中の一人に胸ぐらを掴まれ、 「待てっつってんだろぉが!」
バキッ!
「ぐっ!」 右頬を思いっきり殴られた。これはもう駄目かな……。 「お? やっぱりその程度か? 彼氏さんよぉ! 鏡で見てみろよその姿! 格好つけるからそういうハメに――」 「……殺さない程度になら許す」 「あ? 今なんて――ぐあっ!」 チンピラの一人が後ろから日本刀の柄頭で殴られる。そして惨めにも崩れ落ちるチンピラA。 「お、おい! 一体何だって――うわっ!」 訳も分からず当惑してる所を呪縛布で簀巻きにされ倒れこむチンピラB。 「お前らっ! てめぇ、許さねぇぞ!」 逆上して単調に突っ込んでくるチンピラC。 それを冷静に躱し、腹部に一発お返しを食らわしてやる。 「! かはっ!」 腹を抑え、苦悶の表情を浮かべるチンピラC。 「君達! そこで何をやっている!」 やべっ! 職員だ! 今の騒ぎを聞きつけたか……。 「二人共、逃げるぞ!」 「……」 「分かった」 俺達は一目散にその場を後にした。
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「ふぅ。ここまで来れば大丈夫か?」 どうやら職員は撒いたようだった。人が多い事が幸いした結果だろう。 「二人共、大丈夫か? 怪我は?」 「大丈夫」 西園寺は平気なようだ。 「……やはり今から、斬ってくるか」 「待て待て待て! もう良いから!」 平常運転すぎる……。少しは自重しろ……。 「柊は? 大丈夫だったか?」 「私は、大丈夫。でもあなたが……」 柊自身は大丈夫そうだった。しかし何か心配げにしている。 「ん? この頬の事か? それだったら気にすんな。正当防衛のために、わざと殴られたんだよ」 これは嘘だった。あの状況でそこまで頭が回る程、俺は頭が良くは無い。 柊を心配させないようにするための嘘だった。 「でも……。……せめて応急処置だけでも」 即座に医療キットを取り出し、俺に処置を施す柊。 手際の良さは相変わらずで、魔法にかかったように、頬の痛みがどんどん引いていく。 「ありがとうな、柊」 「こちらこそ、ありがとう」 柊は控えめに笑った。 そうだ。俺はその笑顔が見たいんだ。だから、お前はずっと笑っていてくれ。 「……」パクパク。 「……西園寺。お前は何を食べてるんだ?」 「? ……三本目」 「何で俺らの分まで食べてるんだよ!」 「いはいいはい! 斬りひざむぞ!」 「逆切れすんなっ! 当然の罰だっての」 西園寺の頭を両手で軽くグリグリする。言う程痛くないようにやってるつもりだが、罰は罰だ。 食いしん坊はちゃんと教え込まねばなるまい。 「ふふふ。あなたがもう二本買えば良い。それが一番自然な流れ」 「柊も乗るなっ! んでもって結構不自然な流れだからな? それ!」 今の一連の騒ぎで、西園寺も柊も完全に調子を取り戻したようだった。 俺にとってみれば、疲れ度合いが飛躍的に伸びた。 でもこの雰囲気はとても心地よく、疲れなんてブラジルら辺に飛んでいってしまった。 ちなみにこの後、もう三本チュロスを買いに行きました。
続
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