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第二章 初めてのお買い物

 

 

 

 

 やっとこさの思いで二人を外出させる事に成功させた俺は、

とりあえず駅前にある洋服店へと向かっていた。

市村町はなかなかに田舎っぽい雰囲気がする町だが、

町の中心部に位置する市村駅近辺にはたくさんの店や施設がある。

大抵の物は揃っており、駅前に限っていえば都会にも負けない程活気づいている。

今から行こうとしている洋服店もかなり大きく、

市村町に住んでいる人達は大体この店で買い物をしている。

俺も何回か親と行った事がある。

その店にはモスラバーガーを出てから十数分経った所で到着した。

「いらっしゃいませー!」

店に入ったら、お決まりではあるが元気の良い挨拶をされた。

返すのもなんか変なので別に返答はしないが。

「さて、まずはどこから手をつければ……ってお前ら、何してんだ?」

見れば、入口で二人共立ち止まっている。あまりの大きさに圧倒されているのだろうか? 

いや、そんなに言う程大きくはないけど。

「……どこから斬れば良い?」

「ふん。白羽共も大仰な施設を建立した物だ。だが、我にはこのアルテミスの力がある。

こんな偶像になど刹那の時間でさえ、多いくらいだ」

いかん。それぞれの世界を構築していらっしゃる……。

こいつらなりの現実逃避の仕方なんだろうか。

「とにかく行くぞ。ほら、あっちがレディースだ。」

俺が促したら、とりあえず着いてきてくれる。いつもこれぐらい素直だと大助かりなんだがな。

「何かお探しですか?」

おっと、店員に捕まった。

いつもならゆるりとお断り申し上げるのだが、今日は事情が少し違う。

俺は女物の服など全然詳しくないからな。

「ああ、えっと実は――」

「なんだ、いきなり馴れ馴れしく。そんなに斬られたいのか?」

そう言って、鞘から刀を抜き出す。

「ひっ! し、失礼しました!」

律儀にお辞儀をしてから、逃げるように去って行く店員。

離れた事を確認して刀を納める西園寺。それを見て、ため息をつく俺。

「何をやっていらっしゃるんですか? 西園寺さん?」

非難の目を西園寺に向ける。しかし本人は目をそらし、黙秘権を発動。

……しかし困った。完全に店員さん頼りにしようと思っていた俺は、

今の一件で予定を覆された事に焦っていた。店員はもうあてにならない。

そして俺は人の服をコーディネートする程、おしゃれさんではない。

西園寺と柊は……論外。

どんな服を選ぶか分かったものではない。こうなったら、もう最後の手段だ。

俺は携帯を取り出し、知り合いに電話を掛けた。

「……あ、もしもし。増田だけど――」

 

 

 

これで良し。あとは何分か待ってれば――ん? 

携帯を閉じると、柊が俺の服の袖を引っ張っていた。

「少し、ここを離れる」

「? 何かあったのか?」

「大したことじゃない。すぐ戻る」

そう言って柊は店内の奥の方へと入っていった。

 

 

 

数十分後。先程の電話の相手が到着した。

「もう、びっくりしたよ。

いきなり電話掛けてきてすぐに来てって言うんだもん。焦っちゃったよ」

「ありがとな。篠原。ある意味緊急事態だったんだ」

「なにそれ、ふふふ」

俺がヘルプを掛けたのは、同じ学校に在学している篠原裕子。

俺の親友と面識があり、俺も親友繋がりで何回か話している。

いきなり呼び出しても嫌な顔一つしない、いわゆる良い子であり、

気軽に呼べる女子と言ったら篠原しか思いつかなかった。

「実はさ、この二人……あー、今一人外してるんだけど、

まぁとにかく俺の連れのコーディネートを篠原にしてもらいたいんだ。」

「コーディネート? この子ともう一人の?」

「そ。俺じゃどうも力不足でな。頼めるか?」

篠原は少し西園寺を見回してから納得した様子で言った。

「私で良ければ喜んで。精一杯頑張るわ」

「ありがとう! 篠原。ほんと助かるよ!」

「大げさよ、増田君。……ところでこの子の名前はなんて言うの?」

「ああ、ごめん。紹介がまだだったな。俺のバイト仲間の西園寺 綾だ」

「……」

西園寺は丁寧にお辞儀した。……あれ? 何か違和感が。案外、普通にしてるんだな。

「西園寺 綾さんね? 

私の名前は篠原 裕子。増田君と同じ市村高校の二年生よ。これからよろしくね♪」

篠原は明るく自己紹介をする。自己紹介が一通り終わったので俺は早速篠原に促す。

「じゃあ、篠原。お願いしても良いか?」

「うん、分かった」

篠原は綾の手を引っ張り、場所を移動する。

珍しく綾が何の反応も見せないので少し疑問を感じたが、

刀を抜かないって事はそれなりに安心していいのだろうか? 

まぁいざとなったら飛んでいけばなんとかなるか。

さて、俺はどうするかな? とりあえず柊を待ってないとな。

 

 

 

 

 

 

「お待たせ」

「お。帰ってきたか。用事は済んだのか?」

返答は頷き。

「そうか。ちなみに西園寺は今、俺の知り合いと服選んでる所だ」

「知っている。なんとなく聞こえていた」

近くにいたのか。だったら出てきてくれても良かったのに。

「そうだったか。……俺達も服見てまわるか?」

「ん」

素直で助かるよ。……少し歩いた所で柊が好きそうな服を見つけた。少しゴスロリ風の服だ。

「柊はこんなの好きじゃないのか?」

手に取って柊に見せてみる。いつも闇がどうとか言ってるからキャラ的にも似合いそうだが。

柊は俺が薦めた服を手に取りまじまじと見つめた。

「こういうのが趣味?」

「違うわ! どうしたらそんな発想になるんだよ……全く」

依然、柊は先程の服を見回している。

まさか俺が趣味で選んでいると思われるとは……。

あくまで柊に似合いそうな服を選んだんだがな。

「これで良い」

そう言ってとても大事そうに抱きかかえる。

「え、良いのか? 

もっと他にもいっぱいあるぞ。いくつかある中から選んだ方が良いんじゃないか?」

「そういうもの?」

「まぁそういうものだろう」

「分かった」

そうは言っても抱きかかえてる服は離そうとしない。どんだけ気にいったんだ……。

他にも、柊に似合いそうな服を何個か見繕った。

ただ、どうしても中二病のイメージが俺の頭から離れないため、全体的に黒っぽい服が多い。

これではヤバイと、俺が違う系列の服を探していたら後ろからつんつんと指でつつかれた。

「ん? どうした柊」

「これ。……どう思う?」

柊が俺に示した服は、純白のワンピースだった。

今までの傾向から考えて柊が白基調の服を持ってくるなんて少し意外だった。

こういう服は、柊の性格からして敬遠しがちな服だと思ったからだ。

ただ、この服が柊自身が選んだ最初の服だった。

「俺は良いと思うぞ? なんなら試着してみれば良い」

「試着?」

「試しに着てみるって事だよ。

ほら、あそこにカーテンが掛かった所があるだろ? そこでちょっと着てみれば良い」

「……分かった」

柊は服を持ってトコトコと試着室に向かい、中に入っていった。

柊の試着が終わるまで、俺は休憩も兼ねて試着室の近くの椅子で少し待つことにした。

その間、俺はちょっと前に別行動をとった西園寺の事を少し懸念していた。

しかしどこからも悲鳴が上がらない事を考えると、

俺が心配している事態は起こらなさそうだった。

これこそ杞憂って奴かね?

 

 

 

 

 

 

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