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第二章 ある意味希望通り

 

 

 

 

「どうぞ。お座り下さい」

「あ、どうも」

俺は促されるまま椅子に座った。

ていうか入った時から気になってたんだけど、結構古いなここ。

そんなに目に見える程古臭くは無いんだけど、

よくみると傷があったりしてかなり使いふるされている事が分かる。

「では、早速面接を始めます。まず最初の質問だけど……君高校生?」

最初の質問は年齢確認か。別に嘘を言う事でも無いから、ここは正直に言うか。

「はい。高校二年生です」

「年齢良し。じゃあ次の質問。うちの店は今、深刻な人数不足でね。

君に結構な量の仕事をさせる事になってしまうかもしれないんだ。それでも大丈夫かな?」

これは、恐らく俺のやる気を問う質問だろう。だとしたらここは元気良く……

「はい。精一杯頑張ります!」

「はいじゃあ次。シフトの希望とかあるかな?」

ん? もうシフトの話か……。

まぁシフトは希望に合わせてくれるって書いてあったから、自分の都合が良い日で……

「平日は放課後からだったら毎日来れると思います。あと、土日はどちらも来れます」

部活とかやってないから暇なのよね。

「そっか。祝日はどれくらい来れそう?」

祝日? 特に特別な事も無いし休日と同じなんだよね。

あぁけど盆や正月は流石に親戚同士で集まるから……

「盆と正月以外なら大丈夫です」

「了解。…………」

黙り込んでしまった。何か駄目な所でもあったかな? 

面接官(仮)は書類とにらめっこしながら少し考え込んだ後、ゆっくりと顔を上げた。

「合格」

「えっ? 本当ですか?」

「うん。むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」

「ありがとうございます! 俺、これから頑張ります!」

思ったよりも好感触だったらしい。俺はすんなりと合格する事が出来た。

「これからよろしくね。あぁそういえば名前を聞いてなかった。君の名前を教えてくれるかな?」

「はい。県立市村高校二年。増田優作です」

「増田、優作君だね? 僕はこのモスラバーガーの店長をしている結城だ。

あと、明日辺り履歴書を持ってきてくれないかな? 一応決まりなんでね」

「分かりました」

店長さんも良い人っぽいし、なんかうまくやってけそうだ。当たりを引いたかな。

「じゃあ今日からいきなりって訳にもいかないから、

とりあえず今いるスタッフだけ紹介しちゃうね。美影、今大丈夫か?」

「問題無い。いつでも行ける」

「紹介するよ。

うちのモスラバーガーの仕事全般を担当してもらっている柊 美影(ひいらぎ みかげ)だ。

自然をこよなく愛す優しい子だよ」

へぇー。自然をこよなく愛す子か。さぞ清楚で可愛い子なんだろうな……。

俺は少し期待していた。先程からちょくちょく可愛らしい声が聞こえていたし、

すんなり合格したせいもあってか気持ちも舞い上がっていたんだろう。

しかし俺の目の前に現れた女の子は、俺の想像とだいぶ食い違っていた。

「えっ?」

まずい、思わず口に出してしまった。

俺が驚いたのには理由がある。

店長から紹介してもらった子は自分と同じくらいの女の子なのだが、

何というか、とても痛々しい。

右目は包帯で覆われており、左半身に関してはほとんど包帯で覆われている。

ただでさえ、立っているのもやっとの状態に見えるのだが、

本人はケロっとした感じでこう自己紹介した。

「只今、ご紹介に預かった柊だ。しかし、この名は世を忍ぶための仮称だ。

我の真名は鬼龍院・ディオソス・ヴィ・影霧という。

増田とか言いおったな。貴様の目的は分かっている。

大方、我の躰に秘められしアルテミスの力であろう? 

しかし残念だったな。既にアルテミスは我が生成した呪縛布によって封印されておる。

もはや我でも迂闊に手は出せん状態となっておるわ」

「…………」

「…………」

エッー! 中二病だ! 

ちょっと待て、今時いるの? 中二病って? すでに絶滅危惧種じゃなかったのか?

もし中二病だとしたら、多分恐らく確実にあの包帯はキャラ作りの物だろう。

二重の意味で痛々しいわ! 

ていうか自然をこよなく愛すってどういう事だ? 

とてもじゃないけど自然を愛する子には見えない。

「あの……結城店長?」

俺はヘルプのつもりで店長に助けを求めた。すると店長も戸惑った様子でこう言った。

「ああ、ごめんね。この娘の悪い癖が出ちゃった……。

根はとっても良い娘だから仲良くしてあげて」

「は、はぁ……」

外見からは露程も想像出来ないが、そうだと信じたい。

「ふん! 誰がこのような奴と」

「こらっ! そういう事言わない!」

「むっ。……我は、仕事に戻る」

そう言って柊と紹介された女の子はレジに戻っていった。

とても申し訳なさそうに頭を掻きながら、店長がこう言う。

「本当にごめんね。いつもはもっと普通なんだけど、多分緊張してるんだと思う。

なにせ同年代の子とはあまり話さないから」

まぁあれじゃあねぇ……。

「気を取り直して紹介の続きを、って。今、出てるんだった。ごめん、また今度紹介するね」

「あぁ、はい」

なんか一気に評価が下がったような……。俺この店でうまくやっていけるんだろうか。

中二病の奴なんて学校でもそうそう見ねぇぞ? しかも第一印象から嫌われてたし……。

うーんまぁ、せっかく決まったバイト先だ。とりあえずもうちょっと様子を見てみよう。

 

 

 

 

 

 

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