第五章 教室の中に
文化祭前日。 準備は着々と進み、残す作業はあと少しだった。 帰りのホームルームが終わり、現在放課後。 前日というだけあって、学校全体が最後の追い上げに入っていた。 もちろん僕らのクラスも半分以上が残っていた。 「準備最終日、がんばるぞ! みんな!」 「「「「「「おー!」」」」」」 相変わらず活気溢れるクラスだった。
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「おーい。そろそろ帰れー。もう暗くなってるぞ」 担任の先生が呼びかけた所で、ばらばらとみんな帰り始めた。 実際、完璧には終わってないから一部の生徒は帰らなかった。 僕も帰るように促されたが…… 篠原さんが一生懸命、背景の仕上げをしていた。 集中している様子で先生の声も聞こえてないっぽい。 そんな篠原さんを見てたら自分だけ先に帰ろうとは思わなかった。 「何か手伝う事あるかな? 篠原さん」 「きゃっ! えっ、レイ君?」 どうやら本当に集中してたようで、僕が近づいたことには気がつかなかったらしい。 「今回は君が不意をつかれたね」 「えっ今のはその……。ずるいよレイ君!」 「あはは! 冗談だよ。ごめんごめん。お詫びに僕が手伝える事なら何でも手伝うよ」 「もう……。調子良いんだから。じゃあちょっとあそこにある筆取って下さい」 「了解」
「これで……。よし、完成」 「完成した? どれどれ……。すごいじゃない篠原さん! 凄く綺麗だよ!」 篠原さんが描いた背景は本当に完成度が高く、 見ているだけなのにその場にいるかのような感じになる。 そしてなにより篠原さんが描いた絵はとても綺麗だった。 一つ一つが精密に描かれていて何分でも見ていたくなる。 「終わったー! みんなお疲れー!」 クラス委員の宣言で僕は我に返った。 周りはもう帰り支度をしており、支度してないのは僕らくらいだった。 「僕達も帰ろうか」 「そうだね」 こうして僕らのクラスの文化祭準備は完全に終わった。 「あ、レイ君。ちょっと良いかな?」 「清水君? え、でも……」 僕は篠原さんの方を見た。僕の視線に気づいた篠原さんは申し訳なさそうに、 「私の事は良いよ。レイ君。それじゃあまた明日ね」 そう言って、教室を出てしまった。 「ごめんよ。すぐ終わるから」 僕は仕方なく残った。
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「ありがとう。遅くまで。じゃあ俺はこれで帰るわ」 「う、うん」 そう言って、清水君は教室を出ていった。 「僕も帰ろう」 すっかり遅くなってしまった。早く帰らないと。 僕が足早に教室を出たら、隣のクラスはまだ明かりが着いていた。 でも声は聞こえない。消し忘れかな? 「誰かいますか?」 クラス中をざっと見渡したが人の姿は見えない。 僕は消し忘れだろうと思って明かりを消した。 その時、 「ぐおおぉぉぉぉ。むにゃむにゃ」 大きないびきが聞こえた。一瞬ドキッとしたけど、とりあえず明かりを再度付けた。 「やっぱり、誰かいる?」 今度は中に入って調べてみることにした。 すると、いくつかの机の下で見知った人が寝入っていた。 「増田君……」
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「いやー。お恥ずかしい! つい眠っちまうなんて不覚も良い所だぜ。ありがとな。レイ」 「ど、どういたしまして」 寝起きでも元気な人だな……。僕は増田君を起こした後、二人で学校を出た。 もう七時過ぎ。あたりはすでに真っ暗である。 「親友を先に行かせててさ。後ですぐに追いつくって言ったのにこれだよ。早く追いつかないと」 「あ、ちょっと! 暗いのに危ないって!」 「大丈夫大丈夫! って痛っ!」 「ほら。だから言ったのに。大丈夫?」 増田君は、盛大につまづいた。転びまではしなかったのは不幸中の幸いだろうか。 増田君は事故の原因である物に当たり、始めてある事に気づいた。 「痛ってーなコノヤロー! ってあれ? これ、なんだ?」 「んー?」 僕も促されるまま見たが、よくよく見るとやけに大きい。 道端に落ちてる石か何かにつまづいたと思ったけど……。 「これ、俺らの学校の指定バッグじゃねぇか」 「え? あ、本当だ」 「何でこんな物がここに?」 僕達が頭を悩ませていると、突然―― 「やめてええええええぇぇぇぇぇ!」 悲鳴が聞こえた。しかもこの声は……まさか! 「お、おいレイっ?」 僕は一心不乱に声が聞こえた方向へ走りだした。
続
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