第三章 林檎
次の日。 昨日は色々な事があったから疲れた。だからレッツ二度寝☆ 「「「「「レ〜〜イく〜〜ん!」」」」」 はさせてもらえないらしい……。トホホ(泣)
「じゃあな! レイ!」「またね」 やっと撤退するらしい……。結局今日は一日中騒がしかったな。まぁ嬉しかったけど。 「さて、寝よう!」 現在、夕方の六時。僕はようやく念願の安眠につく事が出来―― 「レイドリックさん。定期検診の時間です」 もう泣いて良いかな……?
はぁ。なんて運が悪いんだ……。あの後も夕食だ、なんだかんだで現在夜の十時。 「もうっ! おやすみ!」 今度は邪魔が入らないようにただひたすら寝ることにした。
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シャリシャリ。 「う、うーん……。」 僕は聞きなれない音に気づき目を覚ました。 「あ、ごめん。起こすつもりは無かったんだけど」 「え、あ、大丈夫だよ」 「良かった。はい。林檎食べる?」 目を覚ましてみて僕の隣に居たのは見た事の無い女子だった。
「ごめんね。 昨日みんなでお見舞いしに行こうって話だったんだけど、私昨日はどうしても行けなくて」 「そうだったんだ」 ……誰っ? 普通に話しかけてくるから知り合いなんだろうけど……。 駄目だ! 思い出せない! 「……聞いてる?」 「え、あっうん。もちろん聞いてるよ」 「なら良いけど……」 まぁ、考え事してましたから聞いていなかったけれども。 けど、本当にこの人は誰なんだ? もうこの際聞いてしまうか? よし、そうしよう。そうすることにしよう。 「あの、大変言いづらい事なんですけれども……。質問よろしいでしょうか?」 「質問? 良いよ。何?」 「……どちらさまでしょうか?」 「…………」 「…………」 全世界が停止したかのように思われた。それぐらい今ここにいる病室の中の空気が凍りついた。 やっぱり言っちゃいけない事だったよ。 「あの――」 「――らです」 「えっ?」 場を持たせようと放った言葉が丁度彼女の言葉と被ってしまった。 彼女は先程より少し張り上げた声で、 「篠原です! 同じクラスの篠原裕子。未だにクラスメイトを覚えてないなんて最低です!」 と、僕に言い放ちそっぽを向いてしまった。 「ごめん! 僕も覚えようと努力してるんだけど、なかなか覚えられなくて……」 「……なんて。嘘です」 「え?」 意外な言葉に僕は少し戸惑った。 「レイ君は転校して来たばかりだから許してあげます。 ただ、これからはちゃんと覚えておいて下さいね♪」 そう言って、彼女は笑った。 太陽のような明るさと子供のような無邪気さを含んだ優しい笑顔だった。 「あ、うん」 僕はつい見とれてしまった。白を基調とする綺麗な部屋を背景に、 少し差し込んだ朝日が彼女の姿を更に際立たせ、とても魅力的な女性に見えた。 「分かってくれたなら良いよ。寝起きだから頭もぼーっとしてるだろうし。 あ、そうだ! もう一個林檎食べれば、頭もはっきりしてくるよ」 そう言ってから篠原さんは、手馴れた手つきで再度、林檎を剥き始めた。 何の根拠も無い言葉だったが、彼女が言った言葉なら本当なんじゃないかと思えてしまった。 その時、彼女が剥いてくれた林檎はとても甘かった。
続
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