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第二章 お土産を買おう

 

 

 

 

人がごった返している。

そんな表現がピタリと当てはまるだろう。

過ぎ行く人達はそれぞれ避けるように前に進んでいた。

道沿いに連なっている店はどこも活気的で、

ただ歩いているだけでも色々な所から声を掛けられた。

そのほとんどがお土産屋さんだったことから、観光地として賑わっていることにも納得がいく。

人がいっぱいだねー

その中でも特に気になった店は、少し足を止めて覗いてみる。

色鮮やかな装飾品が多くを占める中、一際目立つお土産が目に留まる。

端の方に大量に立てかけられているそれは、恐らく多くの人が手に取るだろう。

そう、木刀だ。

(今思えば、わざわざ京都に来てまで買うものではないよなぁ……)

木刀を持ちかえて色んな角度から眺めてみる。

至って普通の木刀だ。

真剣が仕込まれているわけでもないし、ましてやビーム製でもない。

一体どこに惹かれる要素があるというのか。

そうは思う。

そうは思うのだが、何故か今この瞬間にも魅力を感じてしまっている自分がいる。

中学生の時も特に疑問も感じないまま、衝動買いをしてしまった。

やっぱり僕も男ということなのだろうか。

「おぉー。凄いね、木刀って」

レイ君が実際に手に取って目を輝かしている。

というのも、そのまま戻すのも忍びなかったので、なんとなく彼に渡してみた。

すると、予想以上に気に入ったらしく……

「すみません、これください!」

なんと購入。同士がまた1人増えました。

「あ、木刀。買ったんだねー、お土産?」

「そう、家に置いておこうかと思って。どうかな?」

「うん、良いと思う」

そう言って、篠原さんは微笑んだ。

レイ君も楽しそうに先程買った木刀を披露する。

その流れで、彼は持っていた木刀を腰に携えるように持ち替えた。

さながら恰好は武士のようだが、これはなんとも。

「うーん、やっぱり似合わない……かも?」

「あ、やっぱり?」

レイ君はどんな状況でも絵になる存在だと思っていたけど、

今回ばかりはとても似合いそうにない。

外国の方が日本文化に触れている。そんな当然の印象しか生まれなかった。

「やっぱり刀は日本の文化かー。綾さんを意識してみたんだけどなー」

「えー、綾ちゃんは別格だよ。もっとビシッとしてるし」

「恰好良いもんなー、綾さん。憧れるよ」

レイ君も十分恰好良いと思うんだけど、まぁ西園寺さんとは違ったかっこよさだよなぁ。

僕からしたらどちらも憧れの存在である。

「ねぇねぇ」

「うん?」

声のした方に振り向くと、そこには紙筒を口に近づけた鈴本さんがいた。

いつもと使ってる紙が違うけど、どこかで調達してきたのだろうか? 

そんな彼女に僕は耳を傾ける。

「木刀ってお土産としてアリかな?」

「アリだと思うよ。誰かにあげるの?」

「うん、小明ちゃん」

おぉう……。まさかの名前が出てきたよ……。

てっきり家族に、とかだと思ってたんだけど。

でも桐ヶ谷さん宛てだったらなぁ。

「え、もっと他の物にした方が良いんじゃない?」

「そうかな? 小明ちゃんもこういうの好きかなって思ったんだけど……」

「うーん」

正直、僕もそう思う。

彼女に渡した瞬間、嬉しそうに振り回す姿が容易に想像出来た。

しかし、女の子に買っていくお土産としては、木刀はいささか不適当だろう。

「それじゃあ、やっぱりこういうの?」

そう言って鈴本さんが手に取ったのは、お花をモチーフにした小さな髪飾りだった。

シンプルでとても可愛らしい。

「これいいね」

「でしょ♪ 小明ちゃんにとっても似合いそう」

そう言って、鈴本さんは再び何かを手に取った。

「どっちが良いかな?」

それは先程の髪飾りと色違いの物だった。

見た目は全く同じだが、さっきのが黄色で今度のは赤。

どうやら紅葉をイメージした物らしい。2つを見比べて僕はそう思った。

「僕は赤が好きだな」

「私は黄色派―。……別れちゃったね」

どうしようといった風に、鈴本さんは考え込んでしまった。

うーん、選択を誤ったか。でも今更訂正しても――

「分かった! 両方買う!」

「えっ?」

「両方あげて、その日の気分で付け替えてもらお。私も小明ちゃんに赤似合うと思うし」

なるほど。確かにそうかもしれない。

別に1つに絞る必要はない。時折付け替えてくれれば、見た目も華やかだ。

凄く良い案だと思う。

「そういうことなら、僕がもう1つの方を買うよ」

「え? いいよいいよ、それは順斗君に申し訳ないし……」

「はい、これお金ね」

慌てて僕を制止しようとした鈴本さんだったが、

僕は彼女に言われるより先に、1つ分の代金を手渡した。

「むー、全然聞いてないし」

「ごめんごめん。僕達からのお土産ってことでここは1つ」

「もう、仕方ないなー」

そう言って、鈴本さんは髪飾りを2つ買った。

その後話し合った結果、渡す当日まで鈴本さんが2つとも持っててくれることになった。

「桐ヶ谷さん、喜んでくれるといいね」

「うん♪」

僕達はレイ君達の所に戻った。

見ると2人は未だ木刀を持って何かをしていた。

というより、色々と試している? そんな感じ。

「あ、おかえりー。良いもの見つかった?」

「うん。ほら、見て見てー」

早速2人にお披露目する。

「わぁー、可愛い」

「綺麗な髪飾りだね」

2人にも好感触のようだ。

これには鈴本さんも気を良くしたらしく、とても上機嫌に彼女はこう続けた。

「でしょー? 小明ちゃんのお土産にって思ったんだけど、どうかな?」

「うん、いいと思う」

「きっと喜ぶわ」

僕と鈴本さんは自然と顔を見合わせ、2人で笑いあう。

「決まりだね」

「うん♪」

鈴本さんは髪飾りを大事そうに袋に戻した。

さて、これからどうしようか。

そう僕が切り出そうとした時に、篠原さんがポンと手を叩きながらこう言った。

「あ! せっかくだから、私達も小明ちゃんへのお土産買ってかない? ね、レイ君」

「そうだね。ごめん、もう少しだけ買い物付き合ってもらってもいい?」

レイ君は申し訳なさそうに僕らにそう言った。僕らが断る理由は当然の如く皆無である。

「もちろん」

「それじゃ、レッツゴー!」

「「「おー!」」」

先程の通りへと再び足を踏み入れる。

僕らは様々な店を見て回り、桐ヶ谷さんが気に入ってくれそうなお土産を探し始めた。

「八つ橋どこにあるかな?」

「八つ橋ならあそこの店だよ。桐ヶ谷さん、八つ橋好きなの?」

「そうみたい。買ってきてくださいって頼まれちゃったんだ」

「あはは♪ 小明ちゃんらしいね」

「ねぇねぇ! あっちにもたくさん売ってたよ!」

「え、どこどこ」

「あっちあっちー」

こんな感じで、僕らはこの後も色々な店を回り、桐ヶ谷さんへのお土産をどんどん買っていった。

お土産としては十分すぎるだろう。

僕らは買い物を切り上げて本堂へと向かうことにした。

桐ヶ谷さん、どんな反応をしてくれるだろう? 

京都の装飾品を身に着けた、華やかな彼女を想像しつつ、

僕は渡す瞬間を今から楽しみにしていた。

 

 

 

 

 

 

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