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第二章 作戦成功、からの……

 

 

 

 

(よし、作戦開始だ。レイ、やるぞ)

俺は視線だけで、レイにそう促した。

するとレイの方も、俺と目を合わせて、頷きながらこう返してきた。

(うん。いつでもどうぞ)

レイのそんな言葉が聞こえてきたようだった。

よっしゃ、いっちょやってやるぜ!

「うっ……。は、腹が……!」

腹を押さえて、少し前かがみになる。

そして俺は、苦しそうな声を出しながら、地面にひざを着いた。

「だ、大丈夫!? 先生っ! 先生!」

即座にレイが俺の元へ辿り着き、大声で先生を呼ぶ。

誰でもいい。腹痛を訴えている生徒を無視するような先生じゃなければ誰でも――

 

「おい、どうしたんだ?」

「具合が悪くなったらしいわ」

「おい、誰か先生呼んでこい!」

 

周りにいた奴らも異変に気づき、なんだかざわつき始めた。

今のところは順調だ。バレんなよ……?

「どうした? 何があった?」

(よし。あともうちょっと……!)

誰か来てくれた。

声から察するに、多分鈴木先生だ。

この人なら、無視はしないはず……!

「先生、増田君が……。お腹が痛いらしくて……」

「なに? 本当か」

レイが状況を説明すると、先生は俺のことを心配し始めた。

周りの生徒を鎮めながらも、俺に心配の声を掛け続ける。

「痛てててっ! 先生、トイレ行かせて……ください」

そんな先生に俺は、更に痛がったふりをした。

すると、俺の言葉を聞いた先生はこう言った。

「分かった。じゃあ、すまんがレイ。一緒に行ってやってくれるか?」

「はい、分かりました」

よっしゃ! うまくいった! 

俺は腹痛の演技を続けながらも、心の中でガッツポーズを決めていた。

介抱してくれているレイの方をちらと見ると、レイは何も言わずに小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

「? 何があったの?」

「なんか具合が悪くなった人がいるらしいな。多分場所的に4組じゃないか?」

「そう。大事じゃなければいいけど……」

そうやり取りをする二人は、

少し人だかりが出来ている所に目をやりながら、具合が悪くなった人のことを案じていた。

ふと小さく呟く。

「4組には知り合いいっぱいいるから心配なんだよなぁ……」

「私も。琴音や裕子じゃないわよね?」

「多分違うだろ。……って、ん? 琴音達、4組だったのか。初めて知った」

男の方は少し驚いた顔をしながらそう言った。

そんな彼に、女は呆れたように息をつきながらこう返した。

「同じ中学の子くらい把握しておきなさいよ。知らない仲でもないんだし」

「ごめんごめん。大丈夫、これで覚えた」

「もう……」

二人がそんな会話をしていると、前の方から先生の声が聞こえた。

要約すると、黙ってバスに乗り込め、そう聞こえた。

「なぁ由里。最初はどこに行くんだっけ?」

「三十三間堂よ。その後、南禅寺に行ってからホテル。そのくらい覚えておきなさい」

「まぁしおりに書かれてるから良いかなって」

「ならなんでしおり見ないのよ」

「お前なら覚えてると思った」

「はぁ? あんた私のことを何だと――」

「そこ! 静かにしろ!」

「「は、はい!」」

ピンポイントに指を指されて注意されてしまった。

周囲の視線までも集めてしまい、大変恥ずかしい思いをする二人。

「あんたのせいだからね……正一……!」

「ご、ごめん……」

鋭く睨みつけられた正一は、すごすごと謝るほかなかった。

 

 

 

 

 

 

最初こそトイレに向かったが、途中で進路を変えて、

俺らはあらかじめ示し合わせていた集合場所で立ち止まった。

「もう大丈夫か?」

「うん、多分大丈夫」

レイからそう言われたものの、俺は念のため演技を続けながら辺りを見渡した。

確かに、レイの言うとおり誰もいないようだった。

「あぁ〜疲れた〜!」

俺はすっかり安心して、大きく伸びをした。ずっと中腰は流石に疲れる。

「お疲れ様。うまくいったね」

「おう。レイのおかげでな」

「いやいや。増田君の渾身の演技のおかげだよ」

二人で笑いあう。

なんであれ、こっちは作戦成功だ。後は残りの奴らを待つだけ。

と言っても、あっちはこちらより容易だろうから、あまり心配はしていないが。

「あ、いた」

「うわおっ! お、驚かすなよ、綾……」

「別に驚かしてない」

上からいきなり着地してきて何を言うか。

というかマジでどっから来た? お前。上にはただ天井が広がってるだけなんですが……。

呆れ気味に綾を見ていると、綾はその場に荷物の一部を置きながらこう言った。

「もうすぐ順斗達も来る。さっき来るときに見かけた」

「そうか。そんじゃ、ここで少し待ちますか」

俺も綾と同じく、その場に荷物を置いた。

着替えなり何なりが入ってるせいでやけに重い。これでもかなり減らしたんだがな。

 

 

 

その後、ほどなくして倉崎と鈴本とも合流することが出来た。

後は、美影と篠原を待つのみ、なのだが……。

何故か一向に、二人は来なかった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだろう、二人とも……」

レイがふと呟いた。

心配そうな表情で、二人が来るはずの道を見つめている。

俺らが待ち始めてから、もう十分が経過していた。

これは、あまりにも遅い。

「まさか、バレちゃって今怒られてるとか……?」

鈴本もだいぶ心配そうにしていた。

倉崎達の中で不安が募り始めた時、俺はふとレイと同じ方向を見た。

そこから来る人影はない。

「……。俺、ちょっと様子見てくるわ」

「あ、うん」

流石に心配になった俺は、荷物を倉崎に任せて来た道を戻ろうとした。

ふと横から声をかけられる。

「おい、何処へ行く気だ?」

「? げっ!」

声のする方を見てみると、そこには……。

 

すっかり萎縮している美影、篠原の両名と、

腕を組んで険しい顔をしている鈴木先生がいた。

 

 

 

 

 

 

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