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前日談B 準備は万端に

 

 

 

 

結城、綾、美影宅にて。

明日はついに修学旅行当日。

出来る限りの準備をした結城は、最後の確認として部屋にいる綾に声を掛けた。

「綾―。どう? 明日の準備出来たー?」

そう声を掛けると、ゆっくりと扉を開けながら彼女は返事をした。

「大丈夫。美影にも確認してもらった」

「そう。それなら心配ないね」

何も言わなくてもしっかり準備出来ている辺り、余程楽しみにしていることがすぐに分かった。

彼女の表情も心なしか上機嫌であるように見える。

そんな彼女に、結城はテーブルの上からある物を手に取り、手渡しながらこう言った。

「綾。明日はこれを持っていきな」

「? これは?」

渡したのは、細長い袋状の布だった。

どこかで見たことがあるような藍色のそれ。

綾はしばらくそれを見回しながら、結城の言葉に耳を傾けていた。

「竹刀袋だよ。近くのスポーツ用品店で買ってきたんだ。

それに、その日本刀を入れていくといい」

部屋の中に丁寧に置かれた刀を指差しながら、結城はそう言った。

続けてこう言う。

「ちょっと修学旅行に行くのに、帯刀はまずいからね。それに入れておけば多分大丈夫だと思う」

「…………」

本当は全然大丈夫ではないのだが、カモフラージュくらいにはなるだろう。

私服に竹刀袋というのもまた変だが、腰に携えているよりマシだ。

そんな結城の苦し紛れとも言える処置だったのだが、

対する綾本人の方は、彼の思いも露知らず、全くの真顔でこう問い返してきた。

「なんでこの中に入れなきゃいけないの?」

「…………」

分かっていたことだが、やっぱり頭を抱えてしまった結城であった。

過去の自分を心の中で大いに責めながら、彼は彼女にこう返した。

「綾。本当はね、この日本では街中で帯刀することは禁じられているんだ。

見つかると警察に捕まっちゃう」

「……? そうなの?」

「そうなの」

そう念を押されて、ようやっと納得した綾は、袋を受け取りつつこう返した。

「分かった。これも持っていく」

「ありがとう」

それで、二人の会話は終わった。

 

部屋に戻った綾は、再びその竹刀袋を見回してから、試しに入れてみることにした。

「……ぴったり」

すんなりと入り、大きさも丁度だったその袋は、持っていくのも楽そうだった。

「……」

綾は日本刀を入れたその袋を、明日持っていく鞄の横に置いた。

 

 

 

 

 

 

「着替え良し。ティッシュ良し。筆記用具に……あ、しおりはどうしようかな……」

学校から貰ったしおりを手に取り、しばし悩む。

当日の動きなどが書かれていて、本来ならば必需品のはずなのだが……。

抜け出すという以上、行動を共にしない彼らにとっては、あまり必要性も感じられなかった。

(うーん、でも一応持っていこう)

何があるか分からない。

かさばる物でもないので、レイはそのしおりを鞄の奥の方へといれた。

その後、再度忘れ物が無いか、確認する。

「……うん、カメラもあるな。たくさん撮ってこないといけないからね」

同時に渡された充電器も、忘れずに入れておいたことを確認する。

どうやら持ち物は大丈夫そうだった。

「レイドリック。少しいい?」

「うん? どうしたの?」

部屋の外から声が聞こえた。

扉を開けてみると、そこにはレイのお母さんが立っていた。

「明日、修学旅行でしょ? だからこれ、はい」

そう言って渡してきたのは、小さなケース。

レイはそれを受け取りながらこう返した。

「母さん。これは?」

「カメラよ。せっかくの京都ですものね。たくさん撮っていらっしゃい」

「……」

「それじゃあね、今日は早めに寝るのよ」

そう言って、お母さんは部屋から出ていってしまった。

手に持ったカメラを見つめて、レイは少しの間悩んでしまっていた。

(どうしよう……)

持っていかないと変だよね。忘れたって風にするのも、なんだか……。

散々悩んだあげく、彼は二台とも持っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

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