トルコ旅行2006雑感
(17) タイルとチャイそしてタバコ:カッパドキアのアヴァノスという町はクズル川(赤い川)沿いに ある。
アヴァノス陶工 その川の底に溜まった赤い粘土を原料にして、古くから素焼きの壺などを造っていた。素焼きの陶器で あるから中の水が染み出して気化熱を奪うので、壺の中の水は冷たく保たれる。アヴァノスの町の中心 の広場にはろくろを回して壺を作る実物大の人物像がある。疑いも無く当地の赤い陶器製である。
一方、15世紀にオスマン朝が確立するとジャミイ(イスラムのモスク)の内装の為タイルの需要が高ま り、イズニックの町がタイル生産の中心地となった。16世紀にはペルシャから優秀な陶工を招いて、イ ズニック・ブルーと呼ばれる青色釉薬を使ったタイルを生産した。イスタンブールでも6本のミナレッ トを持つスルタン・アフメット・ジャミイはこの青のイズニック・タイルを内装に多用したので、ブル ー・モスクと呼ばれる。トルコの建物は外装にタイルを使うところはない。トプカプ宮殿でもエディル ネのセミリエ・ジャミイでも内装のタイルはイスラムの幾何学模様で美しく飾られている。しかし、 17世紀後半になるとオスマンの大規模建築は一巡し、イズニック・タイルの生産は1716年には終了し、 イズニック・ブルーの生産技術も消えてしまったという。
トプカプ宮殿の宝物殿の横に太い短い煙突の並んだ建物がある。これは元厨房で中に大型の皿などの食 器が展示されている。中国元の時代の白磁青花の大皿が現存のおよそ4割、約200枚がそこに残っている という。「どうやってシルク・ロードを運んできたか」とガイドがこちらの知識を試すように聞いてき た。出発地では大皿に藁をしっかり巻いてからその上に粘土をかぶせて球状に干しあげる。イスタンブ ールに着いたら、そのまま池に沈めて粘土の溶けるのを待つという。皿の大きさから見て、その粘土の 球は人が両手を広げても抱えられぬほど大きなものになったと思う。その重さにらくだもよく耐えたも のだ。
カラバの女 グラン・バザールでもエジプシャン・バザールでも店に入ればまずチャイ(トルコ式紅茶)がガラスの 器で出される。カッパドキアのカラバ村の民家で昼食をご馳走になったが、この時も到着後すぐにピン クのセーターを着たその家のお嬢さんがチャイと角砂糖を出してくれた。高さ8センチ、直径5センチ、 底が少し肉厚で、中間がコカ・コーラの壜のように少しくびれたガラスのコップである。持ってみれば 多少重みを感じるので、鉛の少し入ったクリスタル系のガラスであろう。熱いからコップのうわぶちを つまんですするように飲む。角砂糖はお茶に入れるのではなく、かじった方が良さそうである。バザ ールではガラスのコップとガラスの皿を6組セットで売っていた。トルコでは私の予想に反して、コー ヒーよりもチャイの方が一般的であった。
トルコではお茶はアナトリアの東方、元トレビゾンド王国のあったトラブゾンでとれる。ここは黒海の 海岸線まで山々が迫っており、雨が多く、茶葉の生産に適しているという。
チャイは濃くいれて、白湯で適度に割ってガラスのコップに注ぐのがトルコ流である。良いお茶はどん なに濃く入れてもにごらない。にごっていないことを示すためにガラスのコップを使うのだと聞いた。 ビュッフェ・スタイルのホテルの朝食では、大きなタンクにお茶が沸かしてある。試してみたが、その ままでは濃すぎて飲めない。白湯のポットが隣に置いてあるので、好みに応じて薄める。さすがにどの ホテルでもガラスのチャイ・セットは置いてなく、瀬戸物のコーヒー/紅茶兼用の器が使われていた。
タバコの葉はトルコの重要輸出品である。植物としてのタバコの原産地はアメリカ熱帯地方であり、タ バコ葉の実用品種の一つとして「トルコ種」があり、葉が他の品種より小さく特有の香りがある。トル コの黒海沿岸サムソンが集荷地である。ドイツの紙巻タバコで扁平に巻いた「ゲルベ・ゾルデ」や、フ ランスの青い箱「ギタン」などが、アメリカの紙巻タバコと一線を画する独特の香りを持った銘ブラン ドであり、トルコ種の葉が多く含まれている為だと思っていた。日本の菊の御紋章の付いた「恩賜のタ バコ」も、以前数本もらって吸ったことがあるが、トルコ種の葉が比較的多く含まれていたように思っ た。タバコの煙と匂いが今ほど毛嫌いされる以前から「ゲルベ・ゾルデ」や「ギタン」は飛行機内では 喫煙しないのが紳士の守るべき礼儀であった。
今回のトルコ旅行では日本を出国する時免税店で買ったワン・カートンが帰国二日前に終了してしまっ たので、トルコ産の紙巻タバコを吸ってみようと思った。ホテルのドア・ボーイに町のタバコ屋を教え てもらおうと思ったら、「ここにある」と、そばの引き出しを開けた。アメリカ・ブランドのタバコが 数種類あった。全てトルコ製だという。アメリカ・ブランドのタバコが全てヴァージニア種の葉だけで できているわけではなかろうから、「そうか」といって一箱買ってしまった。
グラン・バザールやエジプシャン・バザールにはタバコの水パイプ用具を売っている店があったが、そ れを買う気がなかったので、トルコ葉のタバコを置いているかどうか聞いてみるという発想が無かっ た。イスタンブールの空港の免税店でトルコ葉のタバコらしきパッケージを探してみたが、見つからな かった。



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