南原さんの一人芝居。舞台装置は前段と同じ、中央の演台のみです。
 世界平和のために世界共通語を決めよう、という国際会議。議長でもある日本代表のほか、イギリス、フランス、中国、ケニアの各代表が、それぞの国の言語がいかに素晴らしいかを語り合う会議の模様を描くドタバタ劇です。南原さんは演台に立つ日本代表のほかすべての登場人物を、立ち位置を順にひょいひょい身軽に移動しながら演じ分けます。イギリス人はスノッブに、フランス人はお洒落っぽく、中国人は両手を服の袖に入れつつ語尾は『〜アルよ』、アフリカ人は片手に槍を持って垂直に飛びはねながら話すという、ベタな造形ですが(笑)わかりやすいし楽しい。持ち道具などは特になく、すべて同じ衣装のまま、表情と仕草と声の演技のみでキャラを演じわける南原さん。ひたすら器用です。

 まずは日本人が、俳句を例にあげて日本語がいかに平和的で美しい言葉であるかを語ります。『古池や 蛙とび込む水の音』。なんと静寂な世界、と悦に入る日本人にイギリス人がつっこみ。俳句ならこんなのもある『夏草や 兵どもが夢の跡』。兵士の死体がごろごろしてるじゃないか、どこが平和なんだ!と。しかし日本人も負けずと、次は宮沢賢治の『雨ニモ負ケズ』を例に、あくまでも平和で清貧な日本人というのをアピール。
 そこへフランス人が、この詩は冗長すぎる、もっと短くできると言い出します。なにしろフランス語は言葉が豊富。例えば日本語だと『細長く伸ばした生地に切り込みを入れ麦の穂の形に焼き上げたパン』と長々と言わねばならない食べ物を、フランス語でなら一言『エピ』で言い表せる。その要領で(?)この宮沢賢治の詩を短くまとめてみましょう、とかなんとか(…細かい流れを忘れてしまったので…こういう繋がりじゃなかったかもしれません;)

 下手から、雨ニモ負ケズの全文を縦書きしたホワイトボードが登場。(ちなみにボードを持ってくるスタッフさん達はみなさん黒子の衣装を着ています)いくつかの行の下に、上の数行をまとめるとこうなる、という単語が書いてあるらしく、その上にはバラエティでおなじみのシール状の紙が貼られてます。フランス人、指し棒で順に解説しながらその紙をはがしていきます。『一日に玄米四合と味噌と、少しの野菜を食べ』…減量中。『小さな茅葺きの小屋にいて』…田舎者(都会には茅葺きなんてないから)。『喧嘩や訴訟があれば、つまらないからやめろと言い』…強い(訴訟を一方的にやめろなんて言うのは腕力にものを言わせてとしか考えられないから)。『みんなにデクノボーと呼ばれ』…デクノボー(そのまんま)。てな感じでまとめてゆくと、最終的に浮かび上がる人物像は『ボクサー』、おそらくは輪島功一かガッツ石松。しかし最後の『そういうものに私はなりたい』そういう『ひと』ではなく『もの』という表現から、よりサルに近いほうが正解ということで、結論は『ガッツ石松』。…宮沢賢治はガッツ石松になりたかったのだ!

 同じ『雨ニモ負ケズ』に、イギリス人は別のアプローチ。パソコンの翻訳ソフトでこの詩をまず英訳し、出てきた文を今度はまた日本語訳する、とどうなるか。今度は上手(かみて。お客さんから見て舞台右側)から液晶モニターが登場し、翻訳ソフトのメニューバーと訳された文章が画面に映し出されます。…翻訳ソフトを使ったことがあると想像できるかと思いますが、これがもう、わけわからない(笑)もともとの『雨にも負けず』という文に主語がないので、翻訳ソフトは『it』を主語として補って訳してくれるのですが、これをまた日本語にすると…『それは時折雨に負けない』に始まり、すべてのセンテンスに必要以上に『それ』という語が入り、結果的にまるでシュールレアリズムの詩のような素晴らしい世界に移行してしまう(笑)こんな結果を見ることが出来るのも、英語という言語が素晴らしいからだ、世界共通語には英語を!と主張するイギリス人。

 イギリス人はまた、日本語の不完全な点をも指摘してきます。飲食店などで、店員がお客を迎える場合に、英語なら店員が『Hello』と言えば客も『Hello』と答える。しかし日本では、店員が『いらっしゃいませ』と言っても客は特に何も答えない。これはコミュニケーション不全ではないのか?と。

 指摘されてハタと考えこむ日本人。確かに『いらっしゃいませ』に対する返答の言葉は…『いらっしゃいました』とは言わないし。いや待て、日本語にはこういう場合のオールマイティな返事の言葉『どうも』がある。これはどんな場面でも使える便利な言葉だ、と、サラリーマン社会でよくあるひとつの風景(ばったり出会った顔見知り同士、『どうも』『どうも』で適当に会話が成立していくというくだらない一幕)を演じてみせる日本人。

 オールマイティというならもっと強力な一言がアフリカにはある、とケニア代表。それは『ジャンボ』。これひとつですべての日常会話が成立する。夫婦でも、目覚めてジャンボ、食事してジャンボ、仕事出かける時にジャンボ…とこれだけで仲良く暮らしていけるんだから。心さえ通じていれば言葉など少しでいいのだ、と、アフリカの人はここで突然、客席に向かい、ジャンボ一言でどこまで通じるかをクイズ形式で問うコーナーを勝手に始めます(笑)
 ケース1。独身男性が部屋で一人、コンビニ弁当をボソボソ食べた後に一言『ジャンボ…』さてこの場合の『ジャンボ』は日本語で言うとどういう意味か?(独身男性を演じる南原さん、表情がリアルです)心が通じていればわかります、と客席の男性に解答を求めますが、返事は『楽しい』(…お茶目なお客さんだったようです)ちなみに正解は『結婚したい〜』です。気を取り直してケース2、独身男性が着替え中、洗ったパンツが無いので仕方なく今履いてるパンツを裏返してまた履いて一言『ジャンボ…』(パンツ裏返す南原さん。リアルです)さて意味は?客席には、やばい当てられたらどうしようという空気が漂ってますが(笑)南原さんはそんな客席を笑顔でいじりつつ、今度は女性客に解答をふると『わかりません〜』と遠慮がちな返事。正解はやっぱり『結婚したい』なので、南原さんその女性客を『流れを考えればわかるんですよ?』と笑顔で追い込んでます(笑)。続けてケース3、独身男性が(ここまでくると“独身男性”ってフレーズだけですでに笑いが起こってる)朝起きて一言『ジャンボ』さあ意味は?と南原さん、最前列端っこの女性にふると、『晴れててうれしいな』とお茶目な返事が(笑)正解は当然『結婚したい』なので『流れを考えろ』と南原さんキレてます(笑)

 中国人は、そもそも世界の人口のうち4人に1人は中国人、漢字を使う国の総数を考えればそれほど多くの人に使用されてる中国語こそが世界共通語、と主張。そして、例えば日本語で『世界の人々と仲良くしましょう』などと穏やかに発音したところで世界には届かない、同じ意味なら中国語で言うほうが伝わる!とのたまい、ジョン・レノンの『イマジン』をBGMに実際に中国語でそれを言います。下手のモニター画面には日本語の文章が。それと同じ内容を中国語で言ってる、らしいのですが、漢字で構成されてる言語のせいか?音だけ聞いてるとなんだか怖そうな、暴走族の集会みたいな雰囲気になってる…。周囲のその反応に中国人、そんなはずはないと、今度は恋人同士のプロポーズの会話を中国語で発音してみせます。モニターには日本語で『君が好きだ』『私も』的な甘い会話文が。それと同じ内容を中国語で言ってるらしい、しかしこれもなんだか怖そうな音声…なんで?

 とか、いろいろとミニコント(笑)があった果てに…各国代表、結局まったく話がまとまらず、最後には過去の植民地支配や戦争の頃の確執まで持ち出しての乱戦になってしまいます。英・仏・中・ケニア、四つ巴の口ゲンカを、迫真の一人芝居で演じる南原さん。が、日本代表はその中に加わってない…。気づいた一同『おい日本、見てないでお前も入れ!』
 しかし日本代表は、争わず、あえて白黒つけず、すべてを曖昧に、つまりは適当に処理することができる、それが日本語の素晴らしさですよと笑顔で主張。ケンカには加わらず、例の一言で終わらせてしまうのでした。…『どうも!』

 一人芝居を終え、南原さんは舞台袖へと去ります。そして上手のモニター画面に『着替えます どうも』と文字が。『5分ほどかかりますので…その間、市川君のザ・転換ショーでお楽しみください』。この間に、舞台には音楽とともに黒子姿のスタッフさん達が現れ、次の場面へとセットを転換(演台を片付けて新たに高座を用意します)しはじめます。黒子のうち、ひときわ体格の良い一人のかたが市川君らしい。黒子なので顔は見えませんが。
 装置を動かしたり床を掃除したりお仕事中の市川君の横で、モニターの文字が市川君情報を勝手に流したり、市川君に向けて指示を出したりしてます。『市川剣(つるぎ)(本名)24歳』『妻子持ち』『結婚を決めた理由は できちゃったから』『娘の最近の口ぐせ「なんだかなー」』『妻の口ぐせがうつっちゃった』…てな文字情報が次々映し出されるたび、客席から楽しい笑い声が。
 『体重100キロを超えたら離婚すると言われている』『現在98キロ』『子供の頃の夢はパイロット』『人生最大の自慢 富士山に登ったこと』『ビーチサンダルで』『将来の夢』『なれるものならやっぱりパイロットになりたい』…順不同ですが。
 南原さんのおつゆが飛び散ってる(笑)床にモップかけたり雑巾かけたり作業中の彼に向け、指示もいろいろ飛んでます。『もっと愛想よく』『楽しそうに』などなど。楽しそうに、とふられたので市川君、舞台にてスキップなど披露してくれるのですが、モニターにはすかさず『君のスキップは楽しそうじゃない』などと返事が…。『ボックスステップを』しぶしぶ?ボックス踏む市川君。『バク転!』『らしきものでいいから』舞台で、後ろ向きにでんぐり返しする市川君。巨体が回転してます(笑)
 最後、用意された高座の上に市川君、土足で上がりかけ(笑)、おっと!という様子でその足を下ろしてそこを雑巾で拭いたりもしてました。
 てな感じで『転換ショー』も終わり、ライブはまだまだ続きます。

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