◆台湾からの手紙 〜 台湾は遠かった 三部作 その2 〜


 いま台湾にきています。とつぜんの手紙に驚いたことでしょう。
 外国からのエアメールで驚かせようと思って、旅行の計画を知らせていませんでした。
 そう、ついにひとりで日本を脱出したのです。
 いまは台湾について三日目で、首都の台北(タイペイ)というところのユースホステルに滞在しています。
 ツアーじゃない海外旅行なんてはじめてのことで、やることなすことすべてが初体験で、とまどいの日々がつづいています。
 なにをやるにしてもとても新鮮で、充実した毎日です。
 ここでは、ちょっとしたことが、たとえば電車の切符を買うということまでが、かなり気合いをいれなくてはできないので、とっても不思議な気分がしています。小さな子どもに返った気がするといったらいいんでしょうか。
 明日から台湾東南部の台東(タイトン)というところにいこうと思って、きょう特急列車の予約をしてきたんですが、無事にチケットが取れたときには、「ひとりでできたもんね」と誰かに自慢したくなってしまいました。
 そんなものだから、お店でパンを買ったり、屋台でなにか食べたりするだけでも、なにかを成しとげたというような気がして、とっても楽しい日々です。
 台湾の人たちはとてもファッショナブルでぱっとみたかんじでは東京でみかけるような人たちとかわりません。ときどきここが外国であることを忘れてしまいます。
 しかも台北市内にはやたらと日本文化のなごりというか日本からの輸入物があふれているので、「ここはいったいどこなの?」という感じがしています。
 背の高いビルの多くは日本の資本で、「三越ビル」だったり、SOGOだったり、それに吉野家の牛丼までありました。セブンイレブン、ファミリーマート(全家便利店)、サークルK、洋服の青山、マクドナルド、ケンタッキーフライドチキン、さながら日本のようです。
 ふつうのお店に「いらっしゃいませ」なんて日本語ののれんがかかっているから日本語で注文したら通じなかったりして、いったいぜんたいなんなんだ、と思いました。
 どうやら日本で、やたらと横文字があふれているのと同じように、ここでは日本語が「かっこいい」ものらしく、乱用されているみたいです。
 そう考えれば納得もいきます。日本で横文字のお店なら英語が通じるというわけではないですものね。
 あと、驚いたのはCD屋です。台湾のCD屋さんはなんと日本の最新CDが溢れているんです。台北の学生街のCD屋をのぞいたらお店のCDの半分以上は日本人アーティストのものでした。
 『美夢成真』ってなんのことだかわかりますか? これ、ドリカム Dreams Come True。意味をとったわけですね。日本人の名前はそのまま漢字だからいいものの、洋譜なんかはすごい。みんな音をとって漢字に置き換えているもんだからパッと見ただけじゃなんのことかわからない。『瑪麗亞凱利』―これはマライア・キャリー。
 おいてあるCDを見ていると、ちょっと時代錯誤のものや、日本からすればピントが外れたようなものもないわけではないのですが、ほとんどは日本の流行に同期したようなものでした。
 しかも、その値段が日本円にして数百円から千数百円なのだから驚き。
 これらはどうもいわゆる『海賊版』というやつらしいです。台湾というのは中国の領地の一部なのか、それとも独立国なのか国際的な立場がはっきりしていません。だから著作権に関する国際条例にも批准していないので、ここでは世界中のどんなブランドでもコピーすることが違法ではないのです。
 それに加えて、台湾は経済的には外貨保有量世界ナンバーワンといわれていますし、高い工業技術をもっていますので、まさにコピー天国です。
 このCDは日本に持ち込むと違法になるのですが、まずバレることはないようです。歌詞カードにへんな日本語があふれているCD、おもしろそうだから何枚か買っていこうかと思っています。
 本屋に行ったら、日本のマンガの海賊版とか、日本語そのものの本なんかが普通に売られていました。
 じっさいの客を見てみると、日本語がわからなくてもファッション雑誌なんかをパラパラめくっている台湾女性があまりに多くて驚きました。どおりで街で見かける人が日本人とかわらないわけです。
 まだ台湾にきてから数日しかたっていませんが、今までの印象では、日本の真似をしようと必死になっている国という感じがしています。
 ちょうど日本が欧米のまねをしてきて、いまでも横文字にあこがれをいだくような、そんな風景に似たものを感じます。
 日本が欧米を追いかけて、その日本を台湾が追いかける。
 現在発展途上で、急速に近代化を果たしている台湾を見ると、なんだか日本の過去を見ているような気分になってきます。
 そんな意味で、日本人が台湾を訪れるというのは、たんなる海外旅行という以上の意味がある気がしました。
 まあ、じっさいここはかつて日本の統治下にあった場所ですから、場合によっては沖縄と同じように、ここも日本になっていたかもしれないわけで、それを一般的な外国と比較するのはどうかなという気がするのですが。
 とにかくぼくは今、台湾で生きています。
 ビザの関係で二週間くらいしか滞在できませんが、明日からは田舎の方へ行ってのんびりキャンプでもしようかと思っています。
 なんだか、脈絡のない読みにくい手紙になってしまってごめんなさい。
 とにかくほんとうに何もかもが新鮮に思えて、伝えたいことがありすぎて、いま頭の中が飽和状態なんです。
 もう便箋十枚にもなってしまいました。また手紙を書きます。
 それでは。


   

台湾 台北市 国立中央図書館にて

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焚き火のまえで 〜山旅と温泉記
By あきば・けん
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