その2
それにしてもワンゲル連中は夜が早くて朝も早い。翌日朝5時半くらいからゴソゴソと起き出していた。ゴォーというスゴイ音を出しながらご飯炊き(MSRのドラゴンフライ・ストーブは燃焼音がウルサイ)。さすがにそんな朝っぱらから付き合いきれないので、カチャカチャとテントのポールを畳む撤収の音を聞いてから、起き出した。7時くらいだった。
彼らは今日中に島の縦断を終えて、西部地区に抜けるという。出発が遅いぼくとはもう会うことはないだろう。Good Luck と挨拶をして別れた。
ぼくの方は、昨日の残りご飯を雑炊にして食べてから、のんびり出発準備。今朝も変わらずの小雨が続いている。それでも東屋の中だから撤収作業もラクチン。結局、東屋を出発したのは8:45だった。
8:45出発 まあ、こんなもんでしょう。朝日の出前に出発するなんて、ヤマヤみたいなマネ、ぼくには到底できない。寒いし、ヘッドライトでの撤収なんて忘れ物しそうでコワイし。
出発時には、どうにか雨は上がっていた。林道の続きを5分もあるくと、木製のゲートがあり、そこから本格的な歩道が始まっている。これまで広かった道幅も急に狭くなり、両脇の木々が鬱そうと頭のうえに覆い被さってくる圧迫感がある。
1時間も歩くと、ぽっかりと開けた空間に出た。ここが林道の終点で、ここから右の山へ分け入り、本格的な登山道が始まる。かつて計画された西表島縦貫道路は、このまままっすぐと進んでいき、島の反対側の白浜から同時進行で作られていた道路とつながるはずだった。
その気になればいまでも、そのルートで西部へ抜けることも可能なようだ。しかし通称「縦断」と呼ばれている浦内川ルートに比べると、歩く人は圧倒的に少なく、かなりの難コースのようだ。
右手の土手を登り、ジャングルへと分け入る。西表縦断路へ入るのは8年ぶりのことだ。当時は山歩きも超不慣れでまさにかけだしの最中。西表の縦走にはかなり苦労した記憶がある。当時言われていた、「ヒルやハブのうようよしている道なき道をかきわけて」というフレーズはさすがに大げさだとは感じたけど、やっぱりなかなかハードな行程だったのを覚えている。
今回改めて歩いてみると、思いのほか、歩きやすいルートだなという印象だった。ニュージーランドのトレッキング風にいうなら、ちょっと荒れたところもあるバックカントリー・トラック程度。草は生い茂っているものの、足元の踏み跡はしっかりしていて、目印のテープのマーキングも頻繁にあるので、迷うことはまずないだろう。
やがてルートは小さな沢沿いを行くようになる。浦内川の源流部で、これからこの川に沿って登山道が続いていく。これが島の反対側に達するころには広いマングローブ林を持つ大河になっていく。この縦断路はそんな川の成長物語とも言えるかもしれない。
視界の聞かない鬱蒼とした森のなかを、踏み分け道とテープのマーキングを頼りに進んでいく。世間でウワサされるような「道なき道」なんてのは嘘っぱちだ。ふつうに山歩きをしている人にはなんでもない歩きやすい快適な道と言っていい。
ただ森の雰囲気、生えている植物は内地とはまったく違う。シダ類が目立つ。ヒカゲヘゴというゼンマイのお化けのようなシダや、木に寄生するオオタニワタリなどが、スケールの大きな植物類が『ジャングル』の雰囲気をかもし出している。
やがて小さな稜線上にでる。そうすると古見への分岐だ。大富のとなりにある古見の集落からもこの縦断路にアクセスできる。しかし、こちらを歩く人は少なく、迷いやすいと言われている。「大富方面をオススメします」なんて札が架かっていた。
分岐を過ぎて、すこし大きめの沢をふたつ渡ると、第一山小屋跡に到着。ここには昔、営林署の山小屋があったという。その跡地がいまはキャンプ適地になっている。テント10張弱くらいできるだろうか。すぐ脇に沢が流れていて、水場もあるが、ちょっとした崖を下りなくてはいけなくて、少しやっかいだ。時間さえ問題なければあまり泊りたくないなぁという場所。
このあたりの浦内川は水深50センチ程度の沢になっている。さらに縦断路を進み、中間広場と呼ばれる看板が立っているあたりを過ぎると、沢というより川の雰囲気になってくる。大きな岩がゴツゴツとしだして、ゴーッという川の音がはっきり聞こえてくる。
道はあいかわらず分かりやすい。ジメッとしたシダ類が生い茂るなか、はっきりとした道が続いていく。昔はなかったが、いまでは400m毎に立派な道標が立てられている。ここまで整備されていれば、整備されたトレッキング・コースといっていいだろう。考えてみれば、国土地理院の地形図にはずいぶん昔から記載されていた実績もある。
ずいぶん急な斜面を下るんだなぁと思っていたら、ロープが現れた。ほとんど垂直の壁を下りるようになっている。7-8mだろうか。思いザックを背負った身にはつらい。ザックのせいで体がブレながらもなんとか降り立つと、岩床の上をサラサラと流れるイタジキ川(板敷川)だった。ここまで来れば今日のキャンプ地はもうすぐそこだ。
飛石づたいに板敷川を渡った向こう側にキャンプ適地がある。林のなかにぽっかりと開けた空間。ラッキーなことにキャンパーは誰もいない。サイドトリップのマヤグスクの滝からも近いために、ここをベースにしている人がけっこういるのだ。
明日は一日かけて、この周辺の見所を散策する予定。縦走のハイライト、マリウドの滝、カンビレーの滝、マヤグスクの滝など、このあたりには見事な滝がいっぱい。ポットホールと呼ばれる天然五右衛門風呂への入浴(?)などなど。詳細は次回更新時をお楽しみに。
By あきば・けん e-mail address |