TOPへ


 ここでは、フクロウについていろいろと書いていきたいと思います。フクロウ(Ural Owl)をはじめとするフクロウの仲間は、繁殖期の繁殖生態はわりとわかっていますが、それ以外の時期の行動や一般的な生態になると、記載もなくほとんどわかっていないのが現状です。かくいう私も彼らの生活のすべてをわかっているわけではありませんが、できるだけ人とは違った視点で解説していきたいと思います


フクロウの造巣・産卵について
 「フクロウが造巣するの?」などと疑問を持つ方もいると思いますが、産卵までのプロセス(?)を少し紹介します。
 フクロウは樹洞などに営巣する場合、産卵の時期にいきなりやってきて、産卵するわけではありません。産卵するまでにはいくつかのプロセスがあり。また、そのプロセスをすべて踏まれたからといっても産卵に至らない場合もあります。そこで、産卵までにはどのようなことが行われるのか少し解説します。

@ペアリング(求愛)
A営巣地の確保
B樹洞の清掃(?)
C産座を作る
D産卵


とういうようないくつかのプロセスを経ます。次には、そのプロセスごとにどのようなことが行われているのか?について少し解説すると

@ペアリング(求愛)
 ペアリング(求愛)時期は、だいたい11〜12月頃から始まります。幼鳥を巣立たせたペアは、しばらくの間、どこにも固執することなく、餌を求めて生息地内をうろついていたものが、この時期になるとだんだん営巣地近くを中心に行動するようになり、12月になるとオス・メスでの鳴き交わしや、オス単独での縄張り宣言(?:表現が悪くてすみませんが、一般野鳥の囀りというか・・・このように擬人化された表現はうまくないと思うのですが・・・うまく表現できないのですみません)、当然近くに別ペアや他の放浪個体などがいる場合には、争いなども見られます(?:実際は見ることができずに、声で判断していますが)。また、求愛給餌行動などが行われます(この求愛給餌については、産卵まで行われます)。

A営巣地の確保
 12〜1月にかけては、繁殖前期の特徴的な行動として、営巣する樹洞に頻繁に出入りをしたり、樹洞周辺にメスが居座ったり(?:留まる)、時にはこの樹洞を「ねぐら」として利用したりと、営巣地(樹洞)の確保行動(監視・営巣地を守る)と思われるような行動をとるようになります。産卵近くまでこの行動は見られます。

B樹洞の清掃(?)
 樹洞の確保に努めていたフクロウは、2月に入ると樹洞内部の清掃を始めます。これは、樹洞内部にある木片や落ちている小枝などを樹洞外へ運び出しているようです。何回か色々なものを入れ運び出すか試したところ、樹皮の塊・木片・小枝・小石などは完全に樹洞外へ運び出しました。さすがに少し大きめの石は運び出すことができないらしく、樹洞内部の隅に押しやられていました(当然後で私が片付けました)。

C産座を作る
 フクロウも産座作ります。作るといっても、木片や小枝などを片付けた後の樹洞内に、自ら皿状の窪みを少し堀るだけという簡単なものです。直径は15〜20cm前後、深さ3〜4cmくらいで、まん中が少しくぼんだ状態の皿状の窪みです。この産座を作る行動は、産卵の2〜3週間ほど前から行われます。

D産卵
 産座を作ったからといって、全てのペアが産卵するとは限りません。イヌワシやクマタカが造巣活動や交尾行動などを盛んに繰り返しても、産卵まで至らない場合があるのと一緒で、産座を作ったのに産卵に至らないペアをいくつか見てきました。なぜ産卵に至らないのか?については、ワシタカの仲間と同様よくわかっていません。ひょとしたら、@からCまでの行動が、いわゆる「ディスプレイ行動」の一つであると、考えられるかもしれません



 『他の生物との関係度合いが非常に深く(強く)、密接である』ということが、フクロウを理解するうえで重要なことで、他の猛禽類と大きく違うところでしょう
 一般的には、樹洞で繁殖しノネズミ類を主食としているということは、すでに皆さんご存知のことと思いますが、そこには生物間の深いつながりや、気象・人為的条件に左右される要因を、他の猛禽類とは比べようのないほど含んでいます

 

 最初からフクロウとは直接関係ないことで申し訳ありませんが、「樹洞で営巣する」ということについて考えてみたいと思います

 まずフクロウが営巣できる樹洞がどのような過程でできるのかを考えてみると、次のようになります。当然樹洞以外でも地面の穴や岩の隙間、タカ類の古巣、土管等で営巣した記録もありますが、ここでは一般的な樹洞営巣についてかんがえてみます

@風や積雪、雷等による幹や枝の折損 ⇒ A腐朽菌の侵入 ⇒ B食菌昆虫類の侵入 ⇒ C小動物の利用 ⇒ Dフクロウの利用

という過程になっていきます。
@の段階では、風や積雪・雷などの気象要因を受けますが、その前には樹洞の基となる樹木の生育があります。ここでは、温度・湿度・風雨・積雪等の気象要因緯度・標高等の地理的要因(植物に対して)を受けます

Aの段階では、カワラタケ菌類を代表とする腐朽菌の作用を受け、樹木の木質部のリグニンやセルロースが分解されます。ご存知のとおり樹木の木質部というのは非常に硬く、人間の手でも簡単には穴が開けられません。ここでは、温度・湿度により腐朽菌群の有無・種類・活動が制限されてきますが、これら腐朽菌群の分解作用により、堅牢な木質部を柔らかくします

Bの段階では、これらの腐朽菌やセルロースを食する昆虫類(シロアリ・タマムシ・クワガタムシ等を代表とする)が、Aの作用により柔らかく(あまりいい表現ではありませんが、つまりは、そのままでは餌にならない木質部が腐朽菌により餌になるような作用が行われたと言うことです)なり、昆虫の餌となって木質部の更なる分解が進みます。ここでは、温度・湿度により昆虫類の有無・種類・活動が制限されてきますが、これら昆虫類の分解(破壊:採餌)作用により、いわゆる粉々状態といいますか、完全に分解してしまいます(ちなみに、これらの昆虫類の腹部の中にも、腐朽菌やセルロースを分解する菌を持っています)

Cの段階では、ヒメネズミやムササビを代表とするげっし目の哺乳類により、Bの段階で分解が進んだ木質部をその鋭い歯を利用してさらに広げたり(昆虫類は菌のあるところすべてを食するわけではない)、塊状になった木質部を樹洞外に出したりということが行われ、ここではじめて「樹洞」が形作られていきます

これらのことを整理していくと、彼らが営巣するための樹洞ができるまでに次のようなことが必要であると言うことがわかります

      ・植林などによる人為的な影響(植生)
      ・地理的要因(緯度・標高・地質)
      ・気象要因(植生・温度・湿度)
      ・腐朽菌の存在(種類・活動時間)
      ・昆虫類の存在(種類)
      ・小動物の存在(げっし目の哺乳類)
      ・最後に植物が生育する時間(時間的の長さ:年数:木の太さ)

 これらの要件が微妙なバランスの上で満たされたとき、初めて彼らの営巣することができる樹洞ができるということになり、地域によって諸要件のバランスが少しづつ違うため、一律的に同じではありません。
 例えば、日本ではありませんが、北欧・カナダ北部やアラスカ・シベリアなどの高緯度地域に行くと、特に『腐朽菌』が少ない(ひょっとしたらいないのかも?)ため、木質部(セルロースやリグニン)がほとんど分解されず、大げさに言えば「100年前に切った木が、腐朽菌類による分解を受けず、今現在も切って倒れたそのままの状態」にあるような気がします。
 また、国内においても、高緯度・高標高地域(寒いところ)などにいくと、腐朽菌群の働く時間が少なく、西日本よりは、分解速度が遅いのは当然です(つまり時間がかかる)

 ではCの段階で存在する小動物の仲間も同じような影響を受けているではないかと思われますが、ヒメネズミなどの仲間については、樹洞を営巣環境として使っているものは少なく、大部分は地表で営巣するし、ムササビやモモンガにしても、ムササビはアオゲラを代表とするキツツキ類の巣を主に利用(原生林内ではこの限りではありません)します。モモンガについては、コゲラの古巣の利用(やはり原生林内ではこの限りでない)度が高いように思われ、樹洞製作動物のすべてが、上記の過程でできる樹洞を主に利用しているわけではなく、あくまでもサブ的に利用していると考えています。しいていえば、ハクビシン・テン・アライグマなどはフクロウと同じように、上記の過程でできる樹洞を主な営巣地として利用している哺乳類でしょう。
 つまり、自分で作ることのできない樹洞を主に利用しているあるいは利用せざるを得ない動物は、フクロウの仲間とハクビシン・テン・アライグマなどごく限られた数種だけしかないといえます。これは自然保護や野生動物保護を考えるうえでは非常に重要なことですので、よく覚えておくと良いと思います


 




2001.2.1 OPEN
2002.2.1 RENEW