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漠然と、今夜あたり、と思う日がある。予感などという上等なものではないが、なんとなくそう思った日は大抵『訪問』を受ける。 そう、今夜も……。 コンコン 聞き慣れたノックの音。ベッドに腰掛けて本を読んでいたマイクロトフは、来たな、と思いつつ顔を上げた。いつものように、こちらが返事をする前にドアノブが回される。マチルダ騎士団・青騎士団長であるマイクロトフの私室でそういう真似ができるのは1人しかいない。そう、赤騎士団長・カミューのみ。 「こんばんは。いい夜だね」 カミューは、ひょい、とドアの隙間から顔を覗かせると、ワインのボトルを掲げてみせた。マイクロトフは細められた琥珀色の瞳に、どく、と心臓が跳ねたのを感じる。しかし、それを悟られないように平静を装いながら、わざとらしく窓のほうを見た。 「いい夜? 月も出ていないぞ」 「おまえに会える夜はたとえ嵐だろうといい夜なのさ」 マイクロトフの嫌味にもさらっと歯の浮くようなセリフで返し、カミューはさっさと部屋に入り込んでくる。 「俺の都合も聞かないのか?」 あたりまえのように部屋に侵入してくるのがなんとなく面白くなく、マイクロトフが言うと、カミューは一瞬、きょとん、とし、すぐおかしそうに笑いだした。 「だって、ダメだって言ってないだろう?」 「……………………」 渋面になるマイクロトフにかまわずカミューはテーブルの上にワインを置くと、勝手知ったる、といったふうに棚からグラスを2つ取り出し、気取ったしぐさで並べる。さ、とソファに座るように促すとマイクロトフは実に面白くない、と顔にありありと書いたまま口を開いた。 「……なぜ隣に並べる?」 酒を飲むなら向かい合ってでもいいだろう、と言うマイクロトフにカミューはくすくす笑う。 「こっちのほうがムードが出るじゃない。時間も遅いし……ね?」 投げかけてくる意味ありげな視線に、時間が遅い、が何に対して言っているかがわからないほど付き合いは浅くない。わかっていてわざと冷たく言い放つ。 「遅いなら帰って寝たらどうだ?」 「そんなにつれなくしないで。泣いちゃうよ?」 カミューは冗談とも本気ともつかない口調で言いながらマイクロトフの傍に行くと上半身を屈め、両頬をそっと包んだ。そして、宥めるように触れるだけのキスをする。怒るかと思いきや素直に目を閉じるマイクロトフにカミューは、あれ、と思った。機嫌が悪そうなのだがこの素直な反応は予想外である。 唇を離すとゆっくりと漆黒の瞳が開いた。その瞳には拒絶は見当たらず、少々虫のいい解釈かもしれないが、情欲の色が滲んでいるように見える。カミューは気を良くして艶やかに微笑んだ。 「……ワインは、別の日にしようか?」 熱っぽく囁いて瞼にキスを落とす。またも素直に閉じられた瞳にカミューは歓喜した。マイクロトフの背後はベッド。座ったままの彼をゆっくりと押し倒すだけで甘い夜がはじまる……。 いつもそうだ、とマイクロトフは思う。 いつもカミューのリードではじまり、主導権を握られたまま夜を共にする。正直な話、カミューのほうが手慣れているし、自分は苦手としているのだから、それが自然の流れだ。だが、やはりどこか引っかかってしまうのは男としての矜持、というものなのだろうか……。 「なに、考えてるの……?」 熱い囁きと共に中心をきつめに擦られ、マイクロトフはびく、と身体を震わせる。咄嗟に押し殺した声にカミューは苦笑いした。 「そんなに我慢しなくていいのに」 「う……るさい……」 声を震わせながらも強情に拒む。カミューは繰り返されるやりとりに、どちらが先にあきらめるだろう、とおかしく思いながら愛撫を再開した。 緩やかに扱きながら弱いところに爪を立てる。そのたびに反応を返す身体が愛しくてたまらない。そのまま速度を速め、絶頂へと導いていった。 「くっ……、カ、カミュ……っ……」 「いいよ、イッても」 汗ばんだ顔で、ぺろり、と舌で唇を舐めるしぐさにマイクロトフの熱がさらに上がる。昼間の優雅な物腰からは想像もできない獣じみたしぐさ。 食らいついてきそうな表情に、こちらのほうが本当の姿なんだと思い知らされる。 どこか陶然とした瞳で見つめるマイクロトフにカミューは噛みつくように口付けると、さらに欲を煽っていった。重ねた唇の合間から苦しそうに息が漏れるのを感じつつ、無理矢理塞いで深く貪る。 「んっ……ぅ……っ……ぅっ!」 マイクロトフは、一際くぐもった声を上げるとカミューの手に白濁の液を吐き出した。カミューはぐったりと力が抜けたのを確認して口付けを解くと、汗ではりついた前髪を優しく寄せ、額に軽くキスを落とす。 「こっ、殺す気か……!」 荒い呼吸を繰り返しながら唸るマイクロトフにカミューはしれっとして応えた。 「えー? だって、声を出したくないっていうから協力したのに」 「〜〜〜〜〜〜〜っ」 マイクロトフがあまりな理屈に絶句していると、カミューはにっこりと笑う。 「ねえ、気持ち良かった?」 「っ! 聞くな!!」 顔を真っ赤にして怒鳴るマイクロトフにカミューは、満足げに、獲物を狙う猫のように目を細めた。 「ねえ、今度は俺の番……」 しなやかな指がマイクロトフの奥まった箇所に触れた……。 やっぱり。いつもこんなふうに最初から最後までリードされっぱなし、というのは納得がいかない。 マイクロトフは上半身を起こし、隣でぐーすか気持ち良さそうに寝ている男を見下ろした。 恋人同士、という対等な関係でいるためには、いくら受身とはいえ、たまには自分が主導権を握らないと。 受ける側が主導権を握るには……とマイクロトフは考えを巡らせ、ひとつの結論に辿り着く。 騎乗位に挑戦だ!! マイクロトフはひとり拳を固めた。 つづく |