〜転校生・2〜




「会長」
「カミューと呼んで♪」
「…………カミュー先輩」
「先輩、だなんてやだなぁ。カミューでいいよ」
 のほほん、と応えるカミューにマイクロトフの頭の中でぷち、と何かが切れた。カミューが座っている机にバンッと手を叩きつける。
「では、カミュー! いつになったらこの書類にハンコをいただけるのですか?!」
「えー? そうだなぁ。マイクロトフが俺とため口きいて、にっこり笑って何か会話をしてくれたら、かな」
「俺は早く部活に行きたいんだ!!」
「俺はマイクロトフと一緒に居たいんだよ」

 秘書生活初日、転校生活2日目はこんな感じではじまった。放課後までは平和に過ごしたというのに、生徒会室に寄ったとたん、こうである。まだ剣道部に入部希望も伝えていないマイクロトフは一刻も早く部活に行きたかった。

 まったく噛み合わない会話に、マイクロトフはわなわなと身体を震わせると、くるり、と踵を返した。
「あれー? どこ行っちゃうの?」
「これ以上、付き合っていられるか!!」
 憤然たる態度で生徒会室を出ようとしたマイクロトフだったが、部屋の隅っこのほうに避難していた役員たちと目が合うと足が止まってしまった。生徒会役員の面々は皆、必死に出て行かないでくれ、と訴えているのが嫌でもわかった。中には両手を合わせて拝んでいる者もいる。その中にはクラスメートのフリックの姿もあった。彼は生徒会の書記だという。マイクロトフが転校初日に生徒会に呼び出されたわけをだいたい知っていて、だが、どうすることもできず、あの気の毒そうな顔つきになっていたのだ。
 マイクロトフはすがってくる者を冷たくあしらえる人間ではなかった。唇を噛み締め、もう一度カミューに向き合う。にやにやと笑っているカミューを挑むように睨みつけた。

 何が『部活の妨げになるような仕事はやらせない』だ! しっかりはっきり妨げになっているではないか!

 心の中で部屋の隅にいるビクトールを責める。だが、自分の役割が、秘書とは名だけの会長の機嫌取りだということを思い出し、悔しさを押し殺してカミューに書類を差し出した。
「で、何を話せば書類に判をもらえるのだ?」
「そうだなぁ……」
 改めて、何を、と言われると困ってしまう。単にマイクロトフと少しでも長く一緒にいて、どんな話でも聞きたいだけなのだ。
「とりあえず、明日、一緒にお昼を食べよう」
「は?」
「いいね? 約束」
 カミューはそう言うと書類にざっと目を通し、さらさらとサインをした。そして、はい、と書類を差し出す。それをマイクロトフは少し拍子抜けした様子で受け取った。どんな無理難題を突き付けられるかと思えば、明日、昼食を一緒に食べるだけでいいと言う。
 なんにせよこれで自分の役目は終わった、とマイクロトフは安堵のため息を吐いて書類をビクトールに渡した。
「じゃあ、失礼します」
「部活、頑張ってね〜〜」
 ひらひらと手を振るカミューに見送られ、マイクロトフは生徒会室を出ようとした。すると隅っこにいたフリックが、慌てたように歩み寄ってくる。
「あ、マイクロトフ、俺も行くぜ」
「え?」
「俺も剣道部なんだ。おまえのことは部長に話してあるんだ」
 フリックはちょっと笑って片目を瞑ってみせた。マイクロトフはクラスメートで隣の席であるフリックと部活まで同じだと知って偶然の重なりに驚くが、同時にほっとする。まだ転校2日目で、知らない顔のほうが圧倒的に多い。フリックが一緒だというだけで心強かった。
「そうか。じゃあ、一緒に……」
「フリック君」
 2人で出口に向かうと背後から声がかかった。マイクロトフは何用かと、フリックはぎくっとしたように振り返ると、机に両手で頬杖をついてにーっこりとわざとらしいまでに笑っているカミューがいた。
「フリック、君には帰っていいなんて言ってないよ? この書類、片付けて行ってね」
 この、と指を差したのは絵に描いたような山積みの書類。ひいーっと息を飲むフリックにマイクロトフは気の毒そうな顔をして、先に行ってる、と生徒会室を出ていった。フリックに降りかかった災難が自分のせいだとは、よくいえばおおらかな、悪くいえば鈍感なマイクロトフは気付く由もなかった……。



 つづく?




続き書いてみたり……

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