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ふと目を覚ますと、自分の置かれている状況がわからなかった。 椅子に座ったままどこかに突っ伏して寝てたらしい。顔を上げると白いシーツのようなものが目に入った。2、3回瞬きをしてようやく思い出した。 そうだ! カミュー!! マイクロトフはカミューの方を見た。カミューはいつ起きたのか、ベッドから上半身を起こしてこちらを見ていた。 「カミュー! 気がついたのか?!」 あわてて駆け寄る。丸一日以上意識がなかったのだ。 「大丈夫なのか? 起きたりして……」 「あ、ああ」 あまりはっきりしない答え。マイクロトフはカミューが昨晩、高熱を出したことを思い出した。まだ熱が下がっていないのかもしれない。 マイクロトフは昨晩そうしたようにカミューの額に自分の額をくっつけた。カミューが何か言っていたようだが、気にしてる場合じゃなかった。 少し……熱い。 でも、昨夜の燃えるような熱さに比べればたいしたことない。マイクロトフはほっと息をついた。 「よかった。熱もだいぶ下がったな。まだ少し熱いけど」 「熱?」 カミューのきょとんとしたような声にちょっと笑う。 「ああ。夕べは高熱を出してたんだ。けっこううなされていたんだぞ。 今朝、先生に聞いたら骨折した人間はそういうものだって言っていたがな」 「骨折?」 マイクロトフは自分で言ってからハッと気づいた。自分のせいでカミューがこんなことになったのを。 「……肋骨が2本折れているそうだ。……すまない、カミュー。俺のせいで」 自分はまだ骨を折ったことがない。想像を絶する痛みなんだろうと思うと、申し訳なくてまともにカミューの顔が見られない。うつむいてしまうと、カミューがあわてて首を振った。 「俺が勝手にやったことだから。マイクロトフが謝ることじゃない」 ああ、俺は最低だ。怪我人であるカミューに気を使わせてしまうなんて……。 ますます自己嫌悪に陥る。情けなくて涙がにじんできた。 「しかし……。カミューにこんなひどい怪我をさせてしまった」 「い、いや、俺の自業自得だ。元はといえば俺がマイクロトフにあんなことをしたせいなんだし……」 マイクロトフに気を使っての苦しい言い訳だったのだろう。だが、マイクロトフは「あんなこと」と言われて昨日の強烈な体験を思い出し、一気に赤面した。 あれは……どういうつもりだったのだろう……。 カミューは「キスの仕方」のレクチャーと言ったが、男の俺にキ、キスするなんて……。 しかも、あんなに激しく。 マイクロトフはキスをしたのはあれが初めてだったが、あれが普通のキスじゃないことぐらいはわかっている。すべてが奪われるような眩暈に似た感覚。 カミューはあんなキスをどこで覚えたのだろう……。 ちくり、と胸が痛んだ。しかしマイクロトフにはその正体がわからない。 でも……。 「賭け」の内容が「キスをする」だったぐらいだから、カミューにとってはキスはたいしたことじゃないのだろう。俺をからかっただけなのだ。 俺だけが気にしていてはカミューも迷惑だ。 そう結論づけてマイクロトフはカミューに気にしてないことを伝えた。さすがに恥ずかしくてしどろもどろになってしまったが。 カミューはマイクロトフの話を聞くと、すぐいつもの調子でからかってきた。マイクロトフもめずらしく嫌味で応酬してやる。気がつくと二人で声を出して笑っていた。 ああ……。俺もこんなふうに笑えたんだな……。 マイクロトフは少し嬉しいような、ほっとしたような気持ちになっていた。厳格な家で育ったため、声を出して笑った記憶がなかったのだ。 カミューに会ってから、俺は怒ったり、泣いたり、笑ったり……忙しいな……。 「なんか、マイクロトフ、感じが違う。いままでこんな冗談言ったことなかったのに」 笑ったままカミューに言われ、マイクロトフは考えていることを見抜かれたようでドキッとする。 とっさに言葉を返せなくて沈黙が降りてしまい、マイクロトフは正直に思っていることを口にすることにした。 「……そう、かもしれないな。最近、自分でもときどき思う……」 口下手な分、少しでも気持ちが伝われば、と思い、カミューの琥珀色の瞳を正面から見つめる。 綺麗な色……だな。 「変わったとすれば、カミューのおかげだ」 ありがとう、とはまだ照れくさくて言えなかった。でも、いつかは伝えたい……。 カミューに会えてよかった、と。 おしまい |